■ スイッチとブリッジとハブ
ブリッジに続き、今回はスイッチだ。
スイッチって、例えば電気のスイッチとか、そういうスイッチですか?
うむ、そのスイッチだ。
[Figure18-02:スイッチ]
切り替え、という意味のスイッチ、そのものだ。
ん〜っと。
あるレールからきたものを、違うレールに切り替える。電車の切り替えポイントのようなものですか?
なかなかグッドな表現だ。
ネットワークの場合、切り替えられる列車がデータ。レールがメディアもしくは回路ということになるな。これをスイッチングという。
なるほど。
スイッチングする機器のことをスイッチと呼ぶのですね?
いや、ルータもスイッチング機能を持っている。
ルータはスイッチング機能とルーティング機能の2つを行うデバイスだ。
はぁ。じゃスイッチというのは?
スイッチング機能のみを有するデバイスのことだな。
今回説明するのは、レイヤ2で動作するレイヤ2スイッチだ。
え〜っと、わざわざ「レイヤ2」ってつけるということは、「レイヤ3スイッチ」とか、「レイヤ4スイッチ」とか、あるってことですか?
ある。
レイヤ2スイッチは一般的にはスイッチング・ハブと呼ばれる。
ハブって、レイヤ1のハブですよね?
スイッチングする、ハブって意味ですか?
確かにその通りといえば、そうなのだが。
どちらかといえば見た目がハブそっくりなのが、そう呼ばれる原因だろう。実際は同じレイヤ2デバイスであるブリッジに近い。
そうなんですか。
そうだな、ちょっと間違った言い方かもしれんが、マルチポート・ブリッジというのが一番機能を表している呼び方かもしれん。
ハブはマルチポート・リピータでしたよね。スイッチはマルチポート・ブリッジですか。
やっぱり似てますね。
そういわれれば、そうだな。似ているだけで、機能的には全然違うが。
まるで私とネット君が似ているのは絵だけなのと同じだ。
ぐぅ。
■ スイッチの機能
さて、スイッチは機能がブリッジと似てるといったな。
えぇ。
ブリッジの機能はどんなだった?
どんなって、え〜。MACアドレスで、フィルタリングするんですよね。
ブリッジを通過するフレームか、通過させないフレームか判断して。
ふむ。それで?
それで、宛先が送信元と同じ側にあれば、他には送らない。
違うならば、他すべてに送る。
ふむ。最近のネット君は覚えがいいな。
やはり調教師の腕だな。
僕はペットかなんかですか。
ペットというには可愛げのないことおびただしい。
ともかく、スイッチもブリッジ同様、MACアドレスによるフィルタリングを行う。
はぁ。
異なる点は、マルチポートというところだ。
ブリッジは、通すか通さないかの二択しか行わなかったが、ポート密度の高いスイッチは、どのポートに送るかまで判断する。
なるほど、だからマルチポート・ブリッジとでもいうべきものなんですね。
そうだ、動作は以下のようになる。
[Figure18-02:スイッチの動作] ▼
ブリッジとの違い、わかったか?
ポートとポートを直接つなげてしまう形になるんですか。
ブリッジが通すか通さないかの関所でしかなったのに、スイッチは何処に行けばいいか、の案内所までやってくれるんですね。
そうだな、そういう事になる。
ただ、アドレステーブルの作り方はブリッジと同じだ。
ということは、え〜っと。
最初はまったく白紙の状態で、フレームを受信したらその宛先とポートを覚えていくって形ですか?
うむ。さらに、先ほどの図でもわかるように、複数のデバイスが同時に送信可能だ。
送信元と宛先が1対1で接続されている形になるからな。
1対1で接続されている形、っていうと。
前に出てきたこんな形ですか?
[Figure15-01:UTPによる接続]
スイッチが間に入ると、どんな形になるんです?
うむ。
上の動作では省略して書いたが、スイッチはこのように接続する。
[Figure18-03:スイッチによる接続]
上の図の例の場合、例えばAがC宛に送信した場合、フレームを受け取ったポートの受信機と、C宛に送信するポートの送信機とが接続される。
送信機と受信機、別々に接続が可能ということだ。
なるほど。
送信元の送信機と、宛先の受信機が直接接続されている形になるわけですね。
そうだ。だが、以下の様な場合はダメだ。
AとBは、ハブがあるので直接接続はされなくなる。
[Figure18-03:ハブがある場合]
ははぁ、ハブが間にはいっちゃったら、ダメと。
ちなみに1つのポートに2つのデバイスがある場合、スイッチの動作はどうなるんですか?
たいした違いはない。スイッチは、AとBの2つのMACアドレスと1番ポートと対応させることになるだけだ。
アドレステーブルは以下のような形になる。
ポート | MACアドレス |
---|---|
1 | A |
B | |
2 | C |
3 | D |
[Table18-01:ハブがある場合のMACアドレステーブル]
なるほど。
要約すると、スイッチは宛先が繋がっているポートだけしかフレームを送信しないということだ。
■ ストアアンドフォワード
でも博士。
こんな場合はどうするんです?
[Figure18-04:同時に送信があった場合]
同じ宛先に送信しちゃう場合です。
やっぱり衝突が発生しちゃうんですか?
ほほぅ、なかなかいい所に気がついたな。
その通りだ。普通に送っていたのでは衝突が発生する。
普通に送っていたのでは?
うむ。スイッチはバッファメモリを持っている。
これに一時保存して、伝送路が空くのを待つのだよ。
ばっふぁめもり?
そうだ。
つまり、先ほどの例の場合こうなる。
[Figure18-05:バッファリング]
つまり、空くのを待ってから送信が行われるわけですね。
確かにこれなら衝突が発生しないですね。
うむ。ただのハブと大きくことなる点だ。
ハブにはバッファメモリは存在しないから、一時退避ができないのだよ。
なるほど。
このようにバッファリングを行う方式のことを、ストアアンドフォワード方式という。
すとああんどふぉわーど?
あるポートから、宛先に接続されているポートへフレームを送ることをフォワードという。スイッチ内部でのフレームの移動を指す言葉だ。
ストア(貯める)して、フォワード(送る)という方式だ。
貯めて、送る…。
現在のスイッチはこの方式が多い。
理由は、ファストイーサネットの下位互換性だ。
ファストイーサネットの下位互換性?
通常のイーサネットの機器と、ファストイーサネットの機器が混在できるって奴ですよね。
下位互換については、大体その解釈でいい。つまり、ポートによって10Mbpsと100Mbpsが混在するわけだ。
そうすると、10Mbps側がボトルネックとなる。
[Figure18-06:非対称スイッチング]
ファストイーサネット側から100Mbpsで送られてきても、イーサネット側で10Mbpsしか通らない。
なので、送りきれない90Mbps分を一時貯めておく必要があるのだよ。
ははぁ。10倍もスピードに差がありますものねぇ。
ストアアンドフォワード以外にも、カットスルー方式とフラグメントフリー方式がある。
ストアアンドフォワード方式は、フレームを一時記憶するための遅延時間が必要だからな。
ブリッジと同じように遅延が発生するんですね。
うむ。ただし、記憶する時に同時にエラーチェックも行うので、エラーの転送がなくなるがな。
ははぁ。
■ 全二重イーサネット
スイッチは、スイッチング機能により事実上1対1の通信を行うという話をしたな。
かつ、ストアアンドフォワード方式だ。つまり、衝突が発生しない。
そうなりますね。送信元の送信機と宛先の受信機が接続されるわけですし。
同じ宛先に送ったとしても、ストアアンドフォワード方式で衝突が回避されるわけですから。
うむ。つまり、スイッチを使えば送信しながらでも受信ができるのだよ。
さて、これをなんと言った?
送信しながら受信ができる…。
…。全二重通信!!
そうだ。スイッチを使えば全二重通信が可能になるのだ。
全二重通信になると、送受信が同時にできるため、効率があがる。
そうですね。
半二重通信のトランシーバで話すのは、全二重通信の電話より面倒くさいですよね。
理論値では、100Mbpsで送信、100Mbpsで受信、つまり200Mbps使えることになる。
倍ですか。
まあ、あくまでも理論値だ。
日経NETWORKの実験室のコーナーで試していたところ、約20%上昇していたな。▼ link
たった20%ですか。
数字の亡者め。そのたった20%を引き出す方法は他に何があるとおもっているのかね?
だいたい、常に送受信を同時に行っているわけではないだろう。
そういえばそうですね。
常に送信と受信を同時に行うわけじゃないですものね。
そうだ。どちらかといえば、この20%は衝突を回避した分だともいえるな。
スイッチをつかえば全二重が可能だが、かならずできるわけではない。条件がある。
条件ってなんです?
1つ目は、スイッチのポートとデバイスが1対1でない場合だ。
上のほうででてきた、これだな。
[Figure18-03:ハブがある場合]
ハブが間にある場合ですね。
ハブは送信用の伝送路と、受信用の伝送路の2本を持ってませんものね。
うむ。
CとDの間では全二重通信が可能だが、AとBは行えない。
なるほど。
1つ目ってことはまだあるんですか?
もう1つはNICが対応してないとダメだ。
最近のNICはほとんどが対応しているが、昔のNICだと半二重通信しか行えないものもある。
へへぇ。
ちなみにどうやったら対応してるかどうかわかるんです?
デバイスマネージャを見たまえ。
そこで、ネットワークアダプタのプロパティに表示されているはずだ。
[Figure18-07:NICのプロパティ]
Full Duplexが選択可能ならば、それは全二重通信に対応したNICだ。
ちなみに言っておくが、スイッチだからといって必ず全二重通信にしなければならないわけではないからな。
了解です。
■ スイッチの利点
まとめてみよう。
スイッチは、宛先が繋がっているポートだけしかフレームを送信しない。送る先を限定できるということだ。
えぇ。
送信元と宛先が1対1で接続されているような状態になるんですよね。
うむ。さらにくどいようだが衝突が発生しない。
つまり、衝突ドメインを区切ることができる。
ブリッジと同じですね。
うむ。だがブリッジと異なる点はマルチポート、つまりポート1つ1つが衝突ドメインという点だ。 なので1ポートにつき1デバイスしか接続しなかった場合、そのメディアを独占できる。
[Figure18-08:コリジョンドメインの分割]
デバイスとスイッチのポート間のメディアは、そのデバイスしか使わないですものね。
つまり、そのメディアの帯域幅を効果的に使用できるということだ。
ふむふむ。
さらに、スイッチを使った全二重通信の場合、CSMA/CDを無視できる、という点もスイッチの利点だ。
CSMA/CDを無視できる?
CSMA/CDは衝突を前提としたアクセス制御方式だ。
全二重通信ならば、必要ない。なので、CSMA/CDであったいらない手順を行う必要がない。例えば、キャリア検知にかかる時間、多重アクセスのための待ち時間などだ。
1人が連続して送信できないようにするための待ち時間でしたっけ。
他の人が送信できるチャンスをあげるために、送信する前に必ず待ち時間が必要なんでしたよね。
そうだ。
さらにさらに、複数のデバイスが同時に送信が可能だ。
そうでしたよね。
なんか、利点ばっかりですね。
もう1つ付け加えると、ハブと簡単に交換可能という点だ。
特に設定をしたり、トポロジを変えたりする必要がない。なので、ネットワークの効率を上げたい場合、単にハブをスイッチに変えるだけでよい。
ははぁ。ほんとにいい事ずくめですねぇ。
うむ。現在のLAN設計にはスイッチは必需品なのだよ。
さらに、VLANにもスイッチは必要だ。
ぶいらん?
VLANについては長くなるので、いずれ機会をみて話す。
もちろんスイッチにも欠点はある。同じレイヤ2デバイスのブリッジと同じ欠点をもっている。
ブリッジの欠点というと…。
フレーム読み取りの時間分だけ遅延が発生することと、ブロードキャストを止めることができないことでしたっけ?
そうだ。それはそのままスイッチの欠点にもなるのだよ。
ははぁ。
今回もずいぶん長かったな。
次回からはレイヤ3だ。ますます重要になるから、気合を入れておけよ。
いぇっさ〜。
3分間ネットワーキングでした〜♪
- スイッチング
-
[switching]
- ルーティング機能
-
[routing]
宛先までの道筋を探す機能のこと。
詳しくはルータの説明で。
- スイッチング・ハブ
-
[switching hub]
- ポート密度
-
ポートの集約度。簡単に言えばそのデバイスが持つポートの数。
スイッチは8〜48のポートを持つ。
- 図
- MACアドレスは長いので、デバイスAのMACアドレスは「A」と省略しました。
- バッファメモリ
-
[buffer memory]
バッファは緩衝、クッションの意味。
一時的にデータを退避しておくメモリのこと。
- ストアアンドフォワード方式
-
[Store and Forward]
ストアは蓄積、貯める、記憶の意味。
- ボトルネック
-
[bottle neck]
瓶の首。
処理が遅い一部分のこと。この部分のため全体の処理が遅くなる。
- カットスルー方式
-
[cut through]
バッファせずに、宛先を確認した時点で送る方法。
遅延はないが、エラーフレームの送信の可能性がある。
帯域幅の違うメディア同士では使えない。
- フラグメントフリー方式
-
[fragment free]
基本はカットスルーだが、64バイトまでバッファしエラーチェックする。
イーサネットで一番多いショートフレーム(64バイト以下のエラーフレーム)を除去できる。
- 日経NETWORK
-
大変お世話になってます。
サイトは参考リンク参照。
- デバイスマネージャ
-
WindowsNT系列ならば、デバイスマネージャ(マイコンピュータのプロパティ、ハードウェアタブ)で見ることができます。
Windows9x系列ならば、ネットワークコンピュータのプロパティで、NICのプロパティで見てください。
- ポート1つ1つが衝突ドメイン
- マイクロセグメンテーション[Microsegmentation]と言います。
- VLAN
-
[Virtual LAN]
仮想LAN。
物理的な配置でなく、論理的な配置でLANを設計する技術。詳しくは先の回で。
- ネット君の今日のポイント
-
- スイッチはスイッチングを行うデバイス。
- ブリッジと同様にアドレステーブルを作成する。
- 宛先が繋がっているポートだけしかフレームを送信しないため、送信元と宛先を直接繋ぐ形になる。
- 複数のデバイスが同時に送信が可能。
- ストアアンドフォワード方式により、衝突が発生しない。
- 全二重通信が可能になる。
- スイッチは衝突ドメインを分割することにより、利用効率を上昇させる。
- フレーム読み取りの時間分だけ遅延が発生する。
- ブロードキャストを止めることができない。