「わたしは実はあまり法律を信頼していない。あまりに法律が厳しければ人は法に背く。ローマ帝国皇帝ハドリアヌス、マルグリット・ユルスナール著「ハドリアヌス帝の回想」
古い掟を尊ぶことは(中略)裁判官の怠慢に枕を貸すことにもなる。
(中略)法律は風習ほど速く変わらない。時勢に遅れると法律は危険なものだが、時勢に先んじようとすればなおさら危険である。
(中略)あまり頻繁に犯される法は悪法である。そんな愚かしい掟の引き起こす侮蔑の念がもっと正しい他の掟にもでおよばぬように、それを廃止するなり変えるなりするのは立法者の義務である。(中略)
ある日(中略)一人の奴隷が短刀をもってわたしに襲いかかった。(中略)隷従のゆえに(中略)復讐しようとしたのである。
わたしは(中略)侍医の手に彼をゆだねた。彼の怒りは解け、本来の姿にかえった。
(中略)もし容赦なく法を適用したならば即座に処刑されたはずのこの罪人が、わたしの役にたつ召使いとなったのだ。
大多数の人間は、この奴隷に似ているのだが、ただ従順すぎるだけのことである。
(中略)わたしがその男を扱ったようにすべてを扱い、善意によって彼らを無害にすることは不可能ではないと思われた。
(中略)外には蛮人、内には奴隷(中略)、恵まれることうすき者たち(中略)さえもが、ローマの存続を願うような国づくりをしようと決意していた」