幻想交響曲 Op23

◇プロローグ◇





 俺はずっと何かを求めていた。
 俺の心に空いたスキマを埋める物
 失った半身………。



 何もない闇。
 其処に浮かび上がる人影。
 血のように紅い髪。
 血を映すように紅いのに、今尚血を求める残虐な瞳……。
 ……そう…その姿は………俺。


 闇の中から俺が問う。

 ─── なぁ……

 土砂降りの雨の中、血塗れの人間……。
 自分に向けられた碧の瞳。

 ─── なぁ、なんで助けた?

 今にも死にそうなヤツなんて、その辺に転がしときゃイイじゃん。
 家に運んで手当てするなんて、考えただけでメンドーじゃん。



「夜分すまんが、人を捜している……」
「へー?知らねぇな」

 ─── なぁ、何故庇った?

 ボーズが捜してんだぜ?
 メンドーな事になるのわかってんじゃん。
 罪人だぜ。突き出しときゃイイんだよ。
 メンドーな事には関わりたくねぇよ。



「………おい。連れてけ……」

 ─── なぁ、何故追った?

 自分が追わなくったって、ボーズとサルが追ってんだ。
 高みの見物決め込んでりゃイイんだよ。


「猪悟能は死んだ」
「………ッ………」

 ─── なぁ、何故怒る?

 一ヶ月程一緒に住んでたって……タダの他人だぜ……。
 すぐに忘れることなんだよ。


 ……こんな髪、切っちまえ……

 ─── なぁ、何故髪を切った?

 髪を切ることによって、アイツの戒めが解けるとでも思ったのか?
 少しでもアイツの心が軽くなるとでも思ったのか?



「綺麗な赤ですね……」

 ─── なぁ………




 お前は何を求める…?






 

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