クローバーファンタジー Op151
◆V:夕暮れのパバーヌ◆
「あれ……?悟浄……」
目を開けると、隣にいたはずの悟浄の姿が無かった。
もう部屋は夕日で赤く染まっている。
どうやら自分は寝てしまったらしい。
自分の体には、一枚の上着が掛けられていた。
悟浄の上着だ……。
「悟浄……」
八戒は悟浄の上着をぎゅっと抱きしめる。
悟浄の小さな優しさを感じながら……。
それと同時に、悟浄の姿がどこにも見えない事に気づく。
「悟浄……?」
小さく悟浄の名前を呼び見回すが、悟浄の姿はない。
家の中全てを回っても……悟浄の姿は無かった。
「悟浄……どこですか……?」
そう呼びかけても、何も返ってこない。
夕日の入る部屋で……誰もいない。
それはまるで花喃がいなくなった時のようで……。
「悟浄……悟浄……」
何か急に、もう悟浄に会えないような気がして、八戒は何度も悟浄の名を叫んだ。
「呼んだ?」
あまりにもあっさり返事が返ってくる。
振り返れば、そこには悟浄の姿。
「どこ行ってたんですか!」
「……いや、煙草切れてたから」
叫ぶように言う八戒に訳が分からず、悟浄は持ってる煙草を八戒に見せる。
「だったら一言声を掛けて行って下さいよ…」
「だって、八戒あんまり気持ち良さそうに寝てたし……」
だから起こすのは可哀相だと、そう続けようとして悟浄は言葉を止めた。
八戒の目から零れ落ちる涙を見て……。
「どーしたんだ、八戒……」
八戒は何も言わずに、悟浄にぎゅっと抱きつく。
「八戒……?」
触れている八戒から微かに伝わる……震え?
「貴方が……貴方がもう帰って来なかったらどうしようって……。
花喃みたいに突然居なくなってしまうんじゃないかって……。
そう考えたたら……僕……」
「八戒……」
泣きながら言う八戒を悟浄は強く抱きしめる。
「八戒、俺は此処にいるだろう。
俺は何処にもいかない。
ずっと八戒の側にいる」
「本当ですか?
約束してくれますか?」
何度も何度も確認するように……八戒は悟浄に縋り付きそう言う。
そんな八戒を悟浄はただ優しく受け止めた。
体温も心音も伝わるくらい近くで……。
八戒だけを見つめて。
「ずっと八戒の側にいるよ」
優しい囁きが……夕暮れの風にのって……
八戒の心に……そっと届いた。