クローバーファンタジー Op151



◆T:夜明けのダンス◆


 朝、目を覚ますと……隣にぬくもりを感じる。
 人の温かさ……。
「もう朝なんですね」
 八戒は小さく呟いて起きようとする。
 それでも体はまだ横になったままだ。
 別に金縛りにあっている訳でも、体が辛くて起きられない訳でもない。
 ただ起きたくないのだ。
 朝なんだから起きなくてはならないのに。
 ……この温もりから出たくない。
 そっと隣に手を伸ばせば、悟浄がまだ静かに寝息を立てている。
 そんな悟浄の寝顔を……そっと微笑みながら見つめる。
 小さな幸せ……。
「さて、起きますか」
 悟浄と共に眠っていたら、きっと昼になってしまう。
 そう思って、八戒は甘い誘惑からそっと抜け出した。
「さあ、今日も一日がんばるとしますか」


 まだ少しはっきりとしていない頭を起こすために、コーヒーメーカーのスイッチを入れる。
 ゆっくりと部屋にコーヒーの香ばしい香が広がっていく。
「キューーー」
 そのコーヒーの香りにジープが目をさまし、八戒寄ってくる。
「ジープ、おはようございます。
 朝ご飯にしましょうか」

 そうして始まる平和な朝。



 簡単に朝食を済ませて、まだ静かな部屋を見回す。
 決してお世辞にも広いとは言えない家だけど、こうして一人でいると何かすごく広く感じる。
「……………」
 寂しい……?
 そんな感情がふと頭をよぎる。
 ……何を言っているのだろう。
 悟浄は今この家にいて、つい一時間ほど前まで一緒にいたのに。
 目の前にいないだけで『寂しい』だなんて……。
「重傷……ですね」
 八戒は小さく溜息を吐く。
「あ、洗濯でもしましょう。
 今日は天気はいいですからね」
 誰に言ってる訳でもないけれど、わざとそう声に出し、動き始める。
 動いてないと……駄目な気がした。


「……失礼します」
 八戒は悟浄の部屋を小さくノックして扉を開ける。
 きっとこの部屋には洗濯物があるだろうと思ったからだ。
 脱いだ物はきちんと洗濯機に入れて欲しいと、何度も言っているのに……。
 八戒は溜息を吐く。
 予想通りに悟浄の部屋には脱ぎ散らかした服やタオルが数点転がっていた。
「……………」
 更には昨夜不意だ服まで……。
 八戒は昨夜の事を思い出しかけ、熱を冷ますように慌てて首を左右に振る。
 それでもまだうっすら赤い顔でそれを拾い上げる。
 その目先にあるのは、まだ悟浄の寝ているベッドにかけられたシーツ。
 昨夜あんな事をしたのだから、きっとシーツは……。
 あんな物やあーんな物でかなり汚れているに違いない。
 こんな天気なのだから……洗いたい。
 でもその為には悟浄を起こさなくてはならない。
 気持ちよく寝ている悟浄を起こすのは忍びないし……それに……。
 昨夜の事を完全に思い出して、真っ赤になった顔では……起こせない。
「シーツの換えはありますし……明日もきっと晴れですよね」



 洗濯も掃除もおわってしまって、落ち着いた……暇な時間。
「早く悟浄起きませんかね」
 なんて呟いてしまう。
 いつからこんなに寂しがりになってしまったのだろう。
 前は一人でも全然気にしなかったのに。
 悟浄に会って……悟浄に甘やかされて。
 すっかり自分はこんな人間になってしまったのだ。
 悟浄に会わなければ、こんな気持ち知らなかっただろう。
 こんなちょこっとの事で、孤独や寂しいなんて……。
 でも……


「八戒…おはよ……」
「悟浄おはようございます。
 コーヒー、今入れますね」


 ……今はやっぱり幸せ……


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