Seasonal Sketshes Op144
◆U Autumn Pastel◆
秋が訪れた……。
木の葉が赤く染まり、風でヒラヒラと地面に舞い落ちる。
何だか物悲しい気分になる季節だ。
そんな中、八戒も浮かない顔をしていた。
落ちてゆく葉を見ながら溜息ばかり吐いている。
そして考え事をしながら指を折り、また溜息を吐いた。
─── もう二ヶ月も三蔵に会っていない……。
溜息の中に声にならない想いが混じった。
秋の頭に三蔵が家を訊ねた、
……いつにもなく険しい表情で。
『しばらく寺には来るな』
三蔵は短くそうとだけ言い、また去っていった。
八戒はそれに対して何も言えなかった。
三蔵の様子に……何も訊くことが出来なかった。
ただ、何かがあったのだろう……という事だけが分かった。
……いつか三蔵の方から何か言ってくれるだろう。
そういう想いで八戒は三蔵に従った。
三蔵を信じて……。
それからもう二ヶ月になる。
……三蔵からの連絡はない。
「……ふう……」
八戒は再び溜息を吐き、目を伏せた。
寺に行くことが出来ないのだから、三蔵の方から八戒の元に来てくれなければ……そうしなければ三蔵に会うことが出来ない。
それなのに、どうして三蔵は会いに来てくれないのだろう。
そんな恨みがましい事を考えてしまう。
「三蔵……どうしてですか……?」
何故三蔵は何も言ってくれないのだろう。
こんなにも長い間会うことが出来ないのなら、何故理由を言ってくれないのだろう。
何故……どうして……そんな疑問だけが浮かんでいく。
最初のうちは三蔵の事を信じられた。
きっと仕事が忙しいのだろう、とか。
大変な事件に関わっているのだろう、とか……。
でも次第に八戒の心の中に不安が広がる。
三蔵はもう自分に会いたくないのではないか?とか。
他に恋人が出来たのではないか?とか……。
そして……この許されない身分違いの恋を咎められたのではないか……と……。
そんな不安がどんどんと心を覆いつくしていった……。
心に不安が広がってから一ヶ月。
不安は更に姿を変え始めていた。
そんな時、八戒の元を三蔵が訪れた。
「八戒……久しぶりだな……」
三蔵は少し落ち着かない様子で八戒にそう言う。
そんな様子が八戒の心を更に苛立たせた。
「ええ、三ヶ月ぶりぐらいでしょうかね」
代わって発揮は三蔵に向かって微笑む。
それは勿論、本心から笑っている訳ではない。
八戒の『微笑の鉄壁』……三蔵をも拒絶しているのだ。
三蔵が見てもそれぐらいのことはすぐに分かる。
「八戒、何を怒っているんだ」
三蔵は溜息を吐き、八戒を宥めようとする。
しかし、周りを気にするように見回してから、八戒に近づいた……その事が八戒は気にいらなかった。
何をそんなに気にする事があるというのだ。
今まではそんな事は無かったのに。
「……三蔵……」
八戒の心の中に不安と怒りが混じりながら沸き立ってくる。
「何をそんなに気にしているんですか?
僕と一緒にいるのを見られたら困るんですか?
誰に……?
新しい恋人ですか?
それとも、貴方に忠実な僧たちですか?」
八戒はわき上がる気持ちに流される様に、一気にそう言う。
その言葉の中で三蔵がわずかに反応したのを八戒は見逃さなかった。
─── ……本当の事なんだ。
不安と怒りに絶望が加わる。
八戒の中で、ずっと張りつめていた糸が切れた。
泣きそうな気分だったが、不思議と涙は出なかった。
「……………」
涙だけでなく声まで失ってしまったのか、八戒の唇は言葉を紡ぎ出す事が出来ず、ただパクパクと口を動かすだけだった。
「八戒、話を聞け」
三蔵がそう言うが、八戒は三蔵の言葉を聞かずに必死に声を紡ぎ出す。
「……図星……なんですよね。
そんなに僕といる所を見られたくないなら……だったら来なければいいじゃないですか。
僕になんて会いに来なければいい!」
それだけ言い切ると、八戒は三蔵の顔も見ずに掛けだした。
一度発音してしまえば、残りの言葉は自然に出てきた。
それと同時に涙も八戒の瞳から溢れだした。
もう何もかも……分からなかった。
ただ、胸を引き裂くような痛みが苦しくて……八戒は蹲ったまま涙を流した。
今までの何よりも苦しい気がした。
「三蔵……」
八戒は涙の混じった声でそう呟く。
その声は、もう三蔵には届かない。
そして……もうこの先、三蔵に届く事はないのかもしれない。
はき出して消えてしまった『怒り』の代わりに『不安』と『後悔』が八戒の心の中に広がっていった。
……そして秋が終わりを告げ、冬がやってくる。