Seasonal Sketshes   Op144



◆TSummer Caprice◆



 暑いながらも爽やかな風の吹く夏の午後に、その人は訪れた。
「こんにちは、今日はどうなさったのですか?」
 何の予告もなしに現れた三蔵を、八戒は笑顔で迎え入れた。
 仕事の帰りなのだろうか、三蔵はこの暑いのにご丁寧に法衣を纏っている。
 その後ろにはいつもついて来ている悟空の姿はない。
「近くに用事があったからな、ついでにお前の顔を見に来た」
「それは嬉しいですね。上がってください。
 暑かったでしょう、今冷たい麦茶でも入れますね」
 ぶっきらぼうな三蔵の口調の中に優しさが感じられる。
 『ついで』と言っても、この家は街からそれなりに離れている。
 悟空が一緒にいて『行きたい』と言ったのならともかく、彼一人でここに来るのは……。
 ……なんだかんだと言って、結局の所きっと八戒に会いに来てくれたのだろう。
 八戒はそう考えると、自然と顔が緩んでしまう。
 それを三蔵に悟られないように気を付けながら、冷蔵庫から冷えた麦茶を取り出しグラスに注いだ。
「今日、悟空はどうしたんですか?」
 グラスを置きながらそう問う八戒に三蔵はただ短く『置いてきた』とだけ言う。
「いいんですか?悟空拗ねてるんじゃないですか?」
「ほっとけ、アイツを連れてくると……」
 そこまで言い、三蔵は八戒の腕をつかみ引き寄せるとその唇に軽く口づける。
「こういう事できんだろ?」
「三蔵……」
 突然の事に戸惑いながらも、流されるように八戒は三蔵の背に手を回す。
 そして口づけは更に深くなっていき、三蔵の手が八戒のシャツの裾からその中へと忍び込んでいく。


 ─── コホン……


「………………」
 その時、一つの咳払いが二人の間に割って入る。
「ご……悟浄、もう起きたんですか?
 早い……ですね……」
 今は昼の二時。決して早いとは言えない時間だが、動揺からつい八戒はそう言ってしまう。
「えー、まあ俺って結構早起きだしー」
 慌てる八戒の様子がおもしろく、悟浄はからかう様にそう言って笑った。
「貴様が何でいるんだ」
 変わって三蔵が険しい表情で言う。
「ここ俺の家だし〜」
「気を利かせて出て行くとかないのか?」
「お腹空いたし〜」
「どこにでも勝手に食いに行けばいいだろう」
「金欠だし〜」
「………………」
 しばらくの問答の末、三蔵はこれ以上悟浄の馬鹿にしたような返答を聞く気にはならず、溜息を吐くと法衣の袂から一枚の札を出し、悟浄に投げつけた。
 思ったよりも高額の紙幣に悟浄は短く口笛を吹くとその札を財布にしまい、代わりに小さな正方形の物を投げ返す。
「こんな貰っちゃワリーから、コレ、サービス」
 それは……世の中で一番ポピュラーな『避妊具』と呼ばれるものだった。
「お前、こんなのいつも財布に入れてるのか?」
「そりゃ男としての責任ってものがあるでしょ。
 三蔵サマ使ってないの〜?」
 眉をひそめたまま言う三蔵に悟浄は笑って返す。
 それに対して八戒は一人、まじまじとそれを見て口を開く。
「財布に入れておくと……形付きますよ、財布に」
 真顔で言う八戒に悟浄は思わず吹き出した。
 ……悟浄の財布は革製だ。
 つまりその財布の中にソレを入れっぱなしにしていると、ソレの円形の跡が財布に残るでは……と言いたいのだ。
 よくある女子高生の困った話、という感じである。
「あっはは、まあそれもイイ男の証じゃない?
 じゃあ俺、夕方ぐらいまで帰んないから。
 ごゆっくりど〜ぞ〜」
 まだ笑ったまま、悟浄は手を振り出て行った。
 そんな悟浄を八戒は不思議そうに見送る。
「……なんであんなに笑われたんでしょう」
「気にする所が違うからだろ……」
 まだ意味が分からない、といった感じで呟く八戒に三蔵は溜息混じりでそう言った。


「えっと……で、続き…するんですか?」
 再び服の中に進入する三蔵の手に、八戒は慌ててそう言う。
 悟浄が出かけたとはいえここは居間で、更にまだ日の高い時間なのだ。
 そんな状態で…するのは、八戒としても少し恥ずかしい。
「俺に金を払い損にさせる気か?
 折角イイ物も貰ったしな」
 そう言い三蔵は悟浄が投げてよこした例の正方形のものを八戒の目の前に掲げる。
「……ですね……。
 あの、せめて僕の部屋に移動しませんか?」
「俺はここでもかまわんぞ」
「僕がかまうので……お願いします」


 涙の訴えに、なんとか部屋に移動する事ができ、八戒は少しほっとする。
 日の明るさは変わらないものの、まだ部屋の方が気分的には良い。
「お前の部屋は殺風景だな」
 八戒の部屋を一回り見て三蔵はそう言う。
 悟浄の家に来る事は多いが、八戒の部屋に入るのは初めてだった。
「あまり置く物ありませんからね」
 三蔵は珍しそうに八戒の部屋の物を手に取り、まじまじと眺める。
「あの……三蔵?
 部屋に来たのにしないんですか?」
 部屋に置いてある物を一つ一つ観察されているのが恥ずかしく、八戒はついそう言ってしまった。
 自分の言った事に八戒はすぐ後悔する。
 それでは自分がすごくしたいみたいではないか。
 八戒が取り繕うよりも前に、三蔵がにやりと笑いいきなり八戒をベッドに押し倒す。
「そんなにしたかったのか?」
「ち…ちがいます」
 そう言ってももう遅く、三蔵は笑ったまま八戒に口づけ、一気に服を脱がせてしまう。
「三蔵……」
「まだ時間は沢山あるのに、もう我慢できないのか?
 スケベなヤツだな」
「…………」
 三蔵の言葉に、それは貴方でしょう……と返したかったが、楽しそうに言う三蔵の様子に何を言っても無駄だろうと悟り、八戒は諦めて目を閉じた。


「ん…や……」
 三蔵の唇が八戒の胸を吸い上げる。
 湿ったいやらしい音が時折部屋に響き、八戒は恥ずかしさに目を開ける事が出来なかった。
 そんな様子に三蔵は意地悪せずにはいられなくなる。
 八戒の胸の、突起と突起の間をきつく吸い上げ跡を残す。
「八戒、目を開けてみろ。
 綺麗に跡がのこったぞ?」
 耳元でそう囁かれ、八戒は目を閉じたまま首を横に振る。
 三蔵は更にその跡を舌で舐めあげる。
「まるで乳首が三つあるみたいだぞ」
「もう……三蔵……」
 八戒はあまりの恥ずかしさに思わず目を開けた。
「そう思わんか?」
 赤い跡を手で押えそう言う三蔵に、八戒は顔を真っ赤にする。
「きょ……今日の三蔵、いつもよりも嫌らしいですよ…」
 真っ赤な顔のまま八戒はそう抗議する。
「人間、根はスケベだろう」
「三蔵……僧侶とは思えませんね…」
 きっぱりと言う三蔵に呆れながら八戒は呟く。
「坊主はスケベなんだぞ?
 知らなかったか?」
「初耳ですよ……」
 悪びれもない様子に、呆れるを通り越して笑えてしまう。
 そんな所が好きなのかもしれない。
「お前はどうなんだ?」
 そう言いながら三蔵は八戒の肌に再び唇を落とす。
「え…僕ですか……?」
 話を振られるとは思っておらず八戒は戸惑うが、自分の肌を滑る三蔵の唇の感触にゆっくりと目を閉じる。
「うーん……やっぱり僕もスケベなんですかね」
 そう言って八戒は三蔵の背中にそっと自分の腕を回した。


 ……夏の暑さよりも尚熱く……

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