三蔵×八戒の為の交響詩『ぐるりよざ』Op129

 

   第二楽章

 


 ……それでも、やっぱり周りの対応は大して変わらなかった。
 
 ヒソヒソと陰口を叩かれるなんて常にで……もう慣れてしまった。
 言いたければ好きに言えばいい…。
 なんて強気に考えて見ても、そんな強気はいつまで持つか分からなかった。
『ここはお前のようなものが立ち入っていい所ではない』
 そんな直接的な事を言われたことだってある。
 別に好きでここに居るわけではない。
 ここに三蔵がいる…だから此処に居るだけの話。
 ここに三蔵が居なければ、自分はこんな所に居たくもない。
 そう言ってやりたかった。
 それでも八戒はじっと何も言わずに耐えた。
 今自分が何か言えば、その分三蔵に迷惑が掛かるかもしれないから……。
 だから、今はじっと耐えるしかない。


『いつからこの格式高い寺に罪人なんぞが立ち入れるようになった』

 そんな事を言われたのは一度や二度ではいない…。
 その日も…三蔵の居ない……八戒一人で食堂に向かった時の事だった。
 彼らは、勿論三蔵の居るときに八戒に向かって陰口など言わない。
 言うのは…三蔵が居なくて……八戒一人の時……。
 そんな時に彼らは言うのだ……八戒に……。


「なんで僕ここに居るんでしょうね…」
 そんな事を言われてまで。
 今の様にたまにしか会えないのだったら、別に無理してまでこの寺に住む事ないのではないのか。
 前の様に悟浄の所で暮らしていても、別にこの寺の近くに部屋を借りたっていい。
 何も……ここに居る事はない。
 今すぐにだって…ここを出て行けばいい。
 それなのに……そう踏み切れないのはなぜだろう。
 こんな所……出て行けばいいのに……。
 出て行けば……。

 

「八戒、何をしているんだ。
 こんな時間に掃除か?」
 公務を終えた三蔵が八戒の部屋を覗くと、八戒は何やら荷物を纏めている。
 もう夜も更けている、掃除をする時間でもない。
「荷造りです。僕、ここを出て行く事にしましたから」
 八戒は三造に背を向けたまま強くそう言う。
「突然何を言っているんだ」
「もうここにいるのは嫌なんです!」
 八戒は叫ぶようにそう言う。
「もう……嫌なんです……」
 陰口を言われたりするのは…もう嫌だ。
 祝福して欲しいなんて言わない。
 せめて放っておいてほしい。
 自分と三蔵の身分の違いをいつもいつも見せつけられて……辛い思いをするのは、もう嫌……。
「もう限界なんです……だから出ていくんです」
「分かった、じゃあ行くか」
 三蔵は突然八戒の手を取り立ち上がる。
「三蔵?」
「行くんだろう?」
 行く…寺から出て行く……。
 じゃあ、『行くか』というのは……。
「三蔵も出て行くんですか?」
「一緒じゃ嫌か?」
「いえ、そう言うわけでは…」
 最高僧である三蔵が、そんな簡単に寺から出るなんて出来るわけがない…でも……。
「じゃあ行くぞ」
「三蔵…荷物とかは…」
「そんな物後からそろえればいいだろう」
 三蔵はそう言い、八戒の手を掴んだまま歩き始めた。

 

 そして二人は非常用の抜け道から、そっと寺を抜け出した。
 その手を繋いだまま……。

 

 

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