奇想曲 OP119






「今日も遅いな…」
 八戒は時計を見て溜息を吐く。
 時計の針はもう夜中というよりも明け方という時間を指していた。
 今日は帰って来ないかもしれない…。
 そう思いながらも八戒はその場を動かなかった。
 …動けなかった……動いてはいけなかった。
 悟浄が帰ってきた時に自分がここに居なかったら…。
 その時は本当に『終わり』になってしまう気がしたから。
 だからただ黙って時計を見続ける。
 起きていなくてはと思いながらも確実に疲れは溜まっている体には少しずつ睡魔が押し寄せてくる。
 瞼がだんだんと重くなり、下がり始める…。
 もうそれを止めるだけの力がなかった。
「…………!」
 その時、部屋に扉の開けられる大きな音が響く。
 その音に慌てて八戒は顔を上げ立ち上がった。
「おかえりなさい……悟浄…」
「寝てたの?」
 悟浄が冷たい目で八戒を見てそう言う。
「いえ…」
「ふうん」
 悟浄は短くそう言い上着をその辺に投げ捨てる。
「風呂は?」
「沸いてます。夜食はどうしますか?」
「いらねえ。
 俺が風呂入ってる間にベッド用意しとけよ」
 浴室の扉が閉められてから八戒は小さく溜息を吐いて悟浄の脱いだ服を拾う。
 そしてタオルと着替えを脱衣所に置きベッドルームへと向かった。
 ベッドルームの用意なんてとっくに終わっていた。
 それでも此処へ来たのは……。
「…悟浄……」
 そっとシーツに顔を近づける。
 洗濯をしても、それでも分かる悟浄の香り。
 それが残り香であっても…それでも悟浄を感じる事が出来る。
 それだけが胸の中を幸せで一杯にする。
 もう、こういう風にしか悟浄を感じる事が出来ない。
 一緒にいても悟浄に近づく事も出来ない状態。
 いつからこんな風になってしまったのだろう。
 こんなにも遠く……
「用意終わった?」
 後ろから掛けられた声に八戒は慌ててシーツから身を離す。
「は…はい……」
「じゃあ出てけよ」
 今はこんなにも悟浄が遠い……。



 最近はずっとこんな感じだ。
 悟浄は八戒にすべてを強要する。
 例え悟浄が帰って来なくても起きて待って無くてはならない。
 食べないと分かっていても夜食の用意を必ずする。
 お風呂はいつでも入れるように常に暖めている。
 それだけしても、悟浄は八戒に優しい言葉の一つも掛けない。
 触れる事だってずっとない。
 それでも八戒は悟浄に従い続ける。
 これが出来なければ、必要のない人間として……悟浄に捨てられてしまうから。
 悟浄に捨てられたくない。
 例えどんなに辛くても悟浄の側にいたい。
 ずっと悟浄の側に……。



「コレ、いつもより塩多くねえ?」
 食事を一口食べた悟浄はそう言い箸を置く。
「え…あ、すいません。
 すぐに作り直します」
「最近お前やる気あんの?
 嫌なら出てっても良いんだぜ」
 悟浄は冷たくそう言い放つ。
 胸のポケットから取り出された煙草は火をつけられてからまもなく灰皿へと押しつけられる。
 その様子がまるで自分に当て付けられているようだった。
 自分もああやって…踏みにじられて捨てられるのだと。
「ごめんなさい…。
 ちゃんとやりますから、なんでもやります……だから此処に置いてください…」
 そう叫ぶ八戒の瞳から、止める事の出来なくなった涙が次々にあふれ出す。
 悟浄はその涙を指先で集めて舐める。
「お前可愛いな。
 そんなに俺と居たいの?」
「居たいです」
 鼻で笑うようにそう言う悟浄に、それでも八戒は必死に叫んだ。
「そういえばずっとお前と遊んでやって無いよな。
 最近暇だし、遊んでやるよ」





「服、脱げよ」
「え……」
 短く言われた言葉に意味が分からず戸惑う。
 そっと悟浄を見るが、その冷たく強い視線に八戒は慌てて上着に手を掛けた。
「何してんだよ。全部に決まってんだろ」
 上着を脱ぎもう一度視線を投げかける八戒に悟浄は強くそう言う。
「は…はい……」
 そう返事をして八戒は残りの服を脱ぎ捨てた。
「グズグズしてんじゃねえぞ。
 ほら、これつけろよ」
 八戒に向かって投げられたのは…黒い皮の首輪。
 八戒は手の中の首輪を見つめ、黙ってそれを自分の首に付けた。
 そんな八戒を満足そうに見つめると、悟浄は手に持った鎖をその首輪に取り付けた。
「八戒、何だと思う?」
「……………」
 悟浄は真っ直ぐに八戒を見つめそう言う。
 見下す様な強い視線で……。
「訊いてんだろ。
 今のお前は何だと思う?」
 悟浄はもう一度分かりやすくそう言う。
 その悟浄の視線は一段と冷たく鋭さを増す。
「…犬……ですか…」
 八戒は震える唇を開きそう言う。
 首輪に鎖…きっと『犬』のつもりなのだろう。
「そうだよ」
 八戒が答えた瞬間、悟浄の視線が少し柔らかいものへと変化する。
 満足そうな微笑へと……。
「お前は今から俺の犬だ。
 俺の命令には絶対に従え、逆らうなよ。
 イイ子に出来たらちゃんとご褒美をやるからさ。
 分かったか?」
「…分かりました」
 八戒は小さくそう答える。
 逆らう事は出来ない。
 悟浄の側にいる為には……。



「ほら、飯だぜ」
 悟浄がそう言い扉を開けた。
 その声に八戒は顔を上げる。
 首輪をつけた後、この部屋に連れて来られた。
 一糸まとわぬ姿で…。
 そして…この部屋で悟浄を待ち続ける。
 拘束されている訳でもないし、扉には鍵は掛かっていない。
 それでも動く事を許可されていないのだから、監禁されてるのと同じなのかもしれない。
 でも、特に不満は無かった。
「ありがとうございます…」 
 だって今、悟浄は自分を見てくれているのだから。
 それだけで…いい……。
「いただきます」
「なにしてんだよ。
 誰が手を使っていいって言った?」
 床に置かれた皿に手を伸ばした八戒に悟浄がそう言う。
「床に這いつくばって食えよ。
 犬みたいにな」
 悟浄は八戒んの手を後ろで纏めて手錠を掛ける。
「…あ……」
 八戒は悟浄の顔を見上げる。
「どうした?
 俺の用意した飯、食えねえの?」
「いえ、食べます」
 悟浄の冷たい声に八戒は慌てて頭を下げる。
 悟浄の用意したおかゆの様なご飯の入った器に顔を近づけ、下でご飯を舐め取る。
 柔らかいご飯は八戒の口の周りに付着していく。
 顔を汚しながらご飯を食べる八戒を悟浄は笑いながら見つめる。
「ホント犬みたいだな。お似合いだぜ。
 ああ、犬なら尻尾と耳も必要だな」
 そう言い悟浄は上着のポケットからある物を取り出す。
 それは、犬の耳の付いたカチューシャ…そして尻尾の付いたアナルプラグだった。
「ほら、つけてやるからケツだせよ」
「あ…あの……」
 八戒はさすがの事に戸惑いの声を上げる。
「早くしろよ」
 それでもひと言ずつ強調して言われる言葉に八戒は黙って悟浄に向かってお尻を突き上げる。
「あ…いた……」
 冷たい器具が八戒の中に差し込まれる。
 その無機物の冷たさと堅さに八戒は小さく声を上げる。
 続いて八戒の髪に耳の付いたカチューシャを付ける。
 フサフサとした毛が八戒の髪やお尻に触れた。
「似合うぜ。
 嬉しいか?」
「は…はい…嬉しいです…」
 八戒は恥ずかしさをこらえてそう答える。
 その言葉が嘘なわけではない。
 それが何であれ、『悟浄がつけてくれた物』なのだから。
「犬は嬉しいときどうするんだった?」
「え…?」
 悟浄の言葉に八戒は悟浄を見上げる。
「犬なら嬉しいとき、尻尾振るだろ?」
「…あ……」
 八戒は俯き、それでもゆっくりと尻尾を振るように動かした。
「ほら、もっとケツごと大きく触れよ」
 そう言い悟浄は八戒のお尻を蹴り上げる。
「はい…」
 八戒はそう答え、羞恥にまみれながら自分のお尻を振り続けた。






「舐めろよ」
 そう言われて八戒は素直に床に跪くと悟浄のモノを口に含む。
 その瞬間、悟浄の香りが全身に染みていく感じがした。
 これがずっと求めていた『悟浄』なのだと。
 それを噛みしめる様に丁寧に悟浄のモノに舌を這わせる。
 たとえ心が通じ合わなくても…体だけでいい。
 悟浄を感じさせてあげたい。
 …悟浄に抱いてもらいたかった。
 目の前に悟浄が居て、その悟浄と体を通わせる事ができる…それだけで十分なのだ。
 それ以上の事は望めない。
「ん…悟浄……」
 高ぶる悟浄のモノを口いっぱいに頬張り頭を何度も動かす。
 悟浄が感じて…少しでも幸せになってくれれば。
 心の中はそんな気持ちで一杯だった。
「くっ、八戒…」
 悟浄がそうつぶやき少し身を引いた。
 それと同時に八戒の顔に熱い液体がかけられる。
 八戒は幸せそうにそれを自分の肌に塗り込めていく。
「悟浄…」
 この体中を…悟浄で満たす事が出来ればいいのに。
 でもそんな事は出来ない…だから少しでも多く感じとれるように…。
「八戒、抱いて欲しいか?」
「はい…抱いてください…」
 悟浄の言葉に八戒は素直にそう答える。
 八戒の中心はすっかりと反応を示していた。
 そして後ろも悟浄を受け入れたくて疼き始めている。
 自分の体なのに自分の体でないぐらいに悟浄の体を求めていた。
 それがはしたない事だと分かっていながらも…止める事が出来ない。
「抱いてやってもいいぜ。
 ただ…今から言うことをちゃんと聞けたらな」
 悟浄はそう言い残酷な微笑みを浮かべた。



「…………」
 八戒は震える足で街に向かう。
 悟浄に抱いて貰う為に出された条件…。
 それは街に行って男を一人誘ってくる事。
 そして外で、更に中に出して貰って来いと…。
 そう悟浄は言った。
 悟浄が渡したのはコート一枚。
 それしか身につけるのを許されなかった。
 その下は裸の状態…。
 まだコートを着るには早い時期だ。
 こんな時期にコートを着て…更に素足でいる自分を…街の人はどう見ているのだろう。
 変質者を見るような目で見られているのかもしれない。
 …でもここでやめるわけにはいかない。
 悟浄に言われた通りにしなくては、抱いて貰えないどころか捨てられてしまう…。
 悟浄の側に居る為ならなんでもする…その心は変わらなかった。

 どれぐらいの間街をさまよっただろうか…。
 街の者は八戒を遠巻きに見るだけで近寄ろうとはしない。
 …当たり前かもしれないが。
 八戒はぎゅっとコートの襟を握りしめる。
 もしかしたら動くたびに、この首元の首輪も見えているかもしれない…。
 そんな怪しい人間に近づくものなんて居るわけがない。
 そう思っていた…。
 それでも日が傾くと状況は変わった。
 街にそう言う事を求めて現れる者が増えてくる。
 それから相手を見つけるのはそんなに難しい事では無かった。
 そう言う顔をしているとでもいうのだろうか…。
 自分で見つけなくても相手の方から寄ってくる。
 …自分の体を求めて……。
 それは好都合だった。
 早く済ませて悟浄の所に戻ろう。
 心の中はそれで一杯だった。


「ねえ、君なんでこんな事してるの?
 そういう趣味なの?」
 男はそう言い八戒の首輪を指先でなぞる。
「ホテルじゃなくて外がいいって言うし。
 …もしかしてマゾ?露出の趣味とかあんの?」
「そんな事関係ないんじゃないですか。
 貴方が必要としてるのは僕の体だけでしょう」
 八戒は屈辱に唇を噛みしめながら男を睨みあげる。
 何故…何も知らないこんな初対面の男にこんな事を言われなくてはならないのだろう。
「ま、そうだけどね。
 君みたいな可愛い子なら、相手に困る事もないだろうし。
 そう言う店に入れば大金だって稼げるんじゃない?
 それなのにお金いらない上に中出しOKとか言うし。
 ちょっと気になるからね。
 …病気持ちとかじゃないよね?」
「病気なんてありません。
 やるんだったら早くしてください。
 僕急いでるんです」
「分かったよ」
 男はそう言うと八戒の体を裏返し壁に押しつける。
「そんなに欲しいんならすぐに入れてあげるよ」
「ん…い…あぁぁ」
 男は自分のモノを取り出すと何の慣らしもせずに八戒の後ろに突き当て一気に体を押し進める。
 その痛みと嫌悪感に八戒の目に涙が滲む。
 それでも体が慣れてくるとだんだん別の感覚が浮かび上がる。
 心の中に嫌悪と拒絶があるのに…それでも肉体は確かな快楽をつかみ取っていた。
 違う…そうじゃない……。
 自分がこうして知らない男に抱かれているのは、すべて悟浄の為なのだと…そう何度も自分に言い聞かせる。
「クッ…もうイクよ…」
「あ……や…あぁぁ……」



 見知らぬ男に犯され、気怠い体を引きづり八戒は家へと戻った。
 一時でも早く悟浄に抱いて貰うために。
「悟浄、ちゃんと貴方の言うとおりにしてきました」
 八戒は必死にそう言う。
「証拠は?」
 そんな八戒に悟浄はそう短く言い放つ。
 『証拠』と言われても…残っているのは…。
 八戒は悩みながらも、その証拠を見せる事を決意する。
「悟浄見て下さい…これが証拠です」
 そう言い八戒は自分の指を自分の後ろに入れる。
 そしてその指をもう一本増やすとそこを大きく広げる。
「ん…あぁ…」
 何かが出てくる感覚に八戒は身を震わせる。
 ゆっくりと八戒の中から白い液体がしたたり落ちた。
「ちゃんと言いつけ守れたみたいだな。
 ご褒美をやるよ」
「悟浄…」
 『ご褒美』という言葉に八戒は目を輝かせる。
「ただし、そんな他人のザーメンの残るトコに俺のモノ突っ込みたくねえからキレイにしろよ。
 今ココでな」
 その言葉に八戒は何の躊躇いもなく自分の中に突き立てた指を更に奥に差し込む。
 そして中を綺麗にするように何度も掻き出す。
 丁寧に何度も何度も…。
 ぬるぬるとする感覚が無くなると八戒は指を抜き悟浄を見る。
「綺麗になりました。
 だから…ここに貴方のを入れてください」
 売るんだ目で悟浄を見上げる。
「仕方がねえな」
 そう言い悟浄はベッドの上に横になる。
「ほら、こいよ。
 欲しいなら自分で入れろよ」
「分かりました」
 八戒はそう言い、自分もベッドの上にあがる。
 そして悟浄のズボンの前をくつろげ、悟浄のモノを取り出す。
 両手で包み込み先端に舌を這わせ、少しずつ悟浄のモノを高めていく。
 根本から先端までを手の平で擦りあげ、それを追うように舌を動かす。
「もういいぜ。
 我慢出来ねえんだろ?入れろよ」
 モジモジと自分の腰を動かす八戒を見て、悟浄は鼻で笑いそう言う。
「はい…」
 そんな悟浄の様子を気にする余裕も無いのか、八戒はすぐに顔を上げ悟浄の上に跨る。
 そして自分の唾液にまみれた悟浄のソレを手で支えゆっくりと自分の中に導いていく。
「あ…ん……いぃ…あ……」
 ずっと求めていた悟浄の熱さに八戒は歓喜の声を上げた。
 悟浄の腹の上に手をつき、何度も自分の体を上下に揺らす。
「そんなに俺が欲しかったのか?」
 積極的に動く八戒に悟浄は嘲る様に笑う。
「はい…ずっとずっと…貴方が欲しかったです……」
 それでも八戒は素直に…声を絞り出す様にそう言う。
「ホントか?
 ホントは男なら誰でもいいんじゃねえのか?
 さっきどうやって男を誘ったんだよ」
「ちが…あ…違います……」
「違わねえよ、この淫乱が…。
 そのイヤラシイ尻に何人もの男をくわえこんでんだろ?」
 自分を罵る悟浄の言葉に八戒は必死に顔を横に振る。
 そんなのではない…。
 自分はただ悟浄に…悟浄の為に…。
 そう言いたいのに言葉が出てこない。
「違うんです…」
「じゃあ、コレは何なんだよ」
 そう言い、悟浄は八戒のモノに手を伸ばす。
 限界が近いのか、天を仰ぐその先端から白い液体が涙の様にあふれ出していた。
「お前マゾだろ?
 俺がお前に酷い事言う度に喜んで震えてるぜ」
「あ…や…だめ……」
 全身が熱に浮かされていく。
 確かに悟浄に罵られる度に体を電流の様な刺激が流れていく。
 もっと…言って欲しい…もっと虐めて欲しい。
 そう思えてしまう。
「ほらもっと動かせよ。
 もっと激しくシテ欲しいんだろ?」
 悟浄は八戒の腰を持ち強く突き上げる。
 その瞬間八戒の喉からこれまで以上に甘い声が漏れる。
「ん…もっと…もっと強くしてください…。
 あ…駄目…もう…あ…んん…」
「変態が。ドコに出して欲しいんだ?
 言ってみろよ」
 悟浄は更に強く突き上げ、直接的な刺激と同時に言葉でも攻める。
 八戒は熱に浮かされながら、涙の浮かぶ艶っぽい目で悟浄を見つめる。
「あ…中…僕の中に出してください……。
 ん…も…駄目…や…あぁぁぁぁぁ」





 何も後悔していない…。
 それは自分が望んだ事だから。

「八戒、コレもそろそろ飽きたな。
 次は何して遊ぼうか…」


ーーーーだから…今幸せなんです… 
 

 ノベルOp121〜140に進む

ノベルトップに戻る