Family 第一話   Op116−1



『お母さん再婚しようと思うの』
 ある日母がそう言った。
 今まで女手一つで自分を育ててくれた母…。
「良いと思うよ。おめでとう」
 反対する理由なんてない。
 笑顔で八戒はそう言った。


 それから数日後、八戒は相手の人とその家族と初めて会った。
 その人には三人の子供がいた。
「八戒です。よろしくお願いします…」
「よろしく」
 新しく『父』となるその人は笑顔で手をさしのべてくれた。
 生まれたときから『父』というものが居なかった八戒にとって初めての父親という存在…。
 なんだかくすぐったい。
「それからコレが俺の息子たち。
 長男の三蔵、大学一年だ。
 あと次男の悟浄、八戒君と同じ高校三年。
 それから三男の悟空、今六歳だ」
 そう紹介されたのはあまり似てない三人の兄弟。
 それぞれ個性がある…。
 長男の三蔵さんは、綺麗だけどなんか怖いような感じがするし…。
 次男の悟浄さんは、なんか…プレイボーイ系な感じ。
 三男の悟空君は……。
 そう思いながら兄弟を見つめていると悟空にぎゅっと抱きしめられる。
「はっかい?おれごくう、よろしくね」
 小さな男の子。
 今まで兄弟とかいなかったから…なんだかかわいらしい存在。
「これからよろしくお願いしますね」
 抱きしめてくる悟空君の背中にそっと手を回すと、彼はすごく嬉しそうに笑った。

 ─── 初めて会った『家族』になる人たち。
そうして彼らと笑顔をかわして………僕らは家族になった。




「なあ、今日の夕飯どうすんの?」
 新しい両親が新婚旅行に行ってしまい、男四人が残されてしまったので悟浄がそうぼやく。
 今までは父親と三蔵と悟浄で交代で作っていたらしい。
 新しく母親ができ家事から解放されたと思っていたのにまた作るのはうんざりといった声である。
「あ、僕がつくりますよ。
 今までも仕事で忙しい母に代わってずっと僕が作ってましたから」
「わーい、はっかいがめしつくってくれるんだ。たのしみ〜」
 八戒の言葉に悟空が嬉しそうに言う。
「悟空の好きなものは何ですか?」
「うーんと、オムライスとカレーとグラタンとハンバーグとやきにくとラーメンとにくじゃがと、あとーー」
「……………」
 悟空の並べるメニューはいつまでも続いていき、こんな事なら嫌いなものを聞いた方が早かったかもしれない、と八戒は苦笑した。
「あ、あらかじめいっとくけどメシは四人分じゃ足んねーからな」
「分かりました」


 その言葉は普通に受け止めていた。
 食べ盛りな男たちだから……悟浄や三蔵が沢山食べるのだろうと……。
 そう考えながら八戒は台所を見回す。
 初めに目に入ったのは……業務用かと思うような大きな炊飯器。
 いくら男四人家族だったからといってもこれは少し大きすぎるような……。
 そして次ぎに食器棚を見ていると、大きなお弁当箱。
 野球部員か相撲部員の持っているいわゆる『ドカベン』というものである。
「これ……悟浄のですか?」
「俺がんなに食うわけねえだろ」
「じゃあ、お父さんのですか?」
 細い方なのにそんなに食べるのか…と八戒は勝手に関心する。
「いや、親父は小食」
「じゃあ、三蔵?」
「違う」
「えっと……そうすると……」
 悟浄のではなくお父さんのでも三蔵のでもなくて……そうすると消去法で残るのは。
「え……もしかして悟空ですか?」
 まさか、と八戒は手にもったお弁当箱をまじまじと見る。
「もしかしなくても、あのサルの弁当箱」
「だって悟空はまだ幼稚園で……」
 慌てる八戒に悟浄は笑いながら付け加える。
「あ、おかずは別容器だから」


 最初は悟浄に騙されたのかと思ったけど、それは紛れもない事実だった。
「おかわりー」
 最初の夕食時でそれは明らかになった。
 何度も繰り返されるお代わりコール……。
 業務用ジャーで炊いたご飯ももう半分を軽く切っていた。
「はっかいのメシすっげーうまい。
 これからこんなうめーメシくえるんだ。うれし〜」
「そう言って頂けると僕もすごく嬉しいですよ」




 そうしてやっと訪れた幸せ、やっとできた家族。
 ……それは一本の電話で崩れ去った。

「え……事故……?」

 旅先からの電話。
 それは両親の事故死の連絡だった……。
 そして……あっという間に、家族は終わってしまった。




「僕、ここにお世話になっている訳にもいきませんし、近いうちに出ますね」
 八戒は俯いたままそう言う。
 三人は父親の残した遺産で生活を続けられる……でも血のつながりのない自分がいつまでもここに居るわけにはいかない……。
 そう思って八戒は三人にそう言った。
「何言ってんだよ、俺たちもう家族だろ?」
「そーだよ、はっかいいないなんてやだよー」
 たった数日暮らしただけなのに……自分は家族と認められる…?
 ここに居てもいいのだろうか。
「僕、ここに居てもいいんですか?」
「当たり前だろ、もう俺たちは家族なんだからな」


 ─── その言葉で、本当に家族になれた……。
     そして僕たちは四人兄弟……四人家族になった。


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