浮き雲 Op100 二話
うららかな日曜の昼下がり、こんなにゆったりと本を読めるなんて久しぶりだ。
八戒はそう思う。
いつもは日曜日とはいえ、家の中の事でばたばたとしていて落ち着くことは出来ない。
でも今日は違った。
すべて悟浄がやってくれるから…。
「八戒、お茶入れるけどコーヒーと紅茶どっちがいい?」
「コーヒーでお願いします」
最初は悟浄が何かする度ハラハラもしたけれど、さすが悟浄も一人暮らし歴が長かっただけあって家事はなれているようだ。
だからこうして落ち着いていられるのだ。
「ほい、コーヒー」
悟浄がテーブルにコーヒーの入ったカップを置く。
部屋にコーヒーの良い香りが広がる。
インスタントではなく、きちんと豆を挽いたらしい。
「有り難うございます」
八戒はにっこりと笑いそう言いながら、出来るならいつもやればいいのに、と心の中で呟く。
でもきっと明日からはしないのだろう。
今日は特別なのだから。
「ケーキも買って来たけど、食う?」
「ええ、頂きます」
悟浄にここまでしてもらうと何だかくすぐったい感じがする。
でも余りに悟浄が嬉しそうだから…。
同い年の男二人で『母の日』というのも変な感じである。
「買い物行ってくるけど、夕飯何が食いたい?」
悟浄がうきうきと八戒に尋ねる。
「何でもいいですよ」
「何でも、は一番困るの!」
悟浄の言葉に八戒は口元に手を当てて考える。
「んー、じゃあカレーでお願いします」
「もっと難しいのでもいいんだぜ」
一番基本なカレーと言われ悟浄がちょっと拗ねたように言う。
「でも僕今日はカレーって気分なんですよね」
本当か嘘か分からないような八戒の言葉に悟浄もそれ以上は諦める。
「よし、悟浄サマ特製のカレーを食わせてやるぜ」
悟浄はわざとらしく腕まくりをする。
「楽しみにしていますよ」
子供のような悟浄の仕草に八戒は笑う。
「じゃ、ちょっくら買い物いってくるわ」
悟浄はそう言い立ち上がる。
「買い物ついて行きましょうか?」
「一人でいいって。今日は八戒はなんもしなくていーの」
立とうとした八戒を悟浄は椅子へともどす。
「でも何にもしないとなまっちゃいますよ…」
冗談っぽく八戒はため息を吐く。
「それは大丈夫」
「…………」
そう言う悟浄の笑顔は今までの子供の様な純粋な笑顔ではなく、大人の…何か企んだような笑顔で、やっぱり今日一日このまま終わる事はなさそうだと八戒は思った。
またまた続く
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