浮き雲   OP100   一話

─── 最近、夜の八戒は冷たい…By悟浄

何が冷たいって…勿論夜の生活である。
悟浄としてはいつでもやる気満々なのであるが、八戒にいつも軽くかわされてしまうのだ…。
理由はだいたい『眠い』とか『疲れた』とかである。
ここで更に押し続けると『じゃあこれから家事は貴方が全てやってくださいね』などと言われてしまう。
そう言われると…お手上げと言う感じである。
別に家事が一切出来ないわけではないが、毎日家事をして過ごす気にも勿論ならない。
「なんか、イイ手はないもんかね〜」
街を歩きながら悟浄は一人呟く。
その時街中が何か微妙に違って居ることに気が付く。
何が違うって、店先のディスプレイなどだ。
イベントごとに店先のディスプレイは変わる。
2月はバレンタイン、12月はクリスマス…では5月は?
「そーいえば、そんな時期か」
そんな時近くを歩く親子の会話が耳に入る。
『ねえ、おかーさん。今度の日曜日の夕飯は私がつくるね。
掃除も洗濯も私がするの。おかーさんは何もしなくていいのよ』
その会話に悟浄は小さく笑う。
「イイ事思いついた」
そう呟くと悟浄は家にとある所に向かって歩き出す。
…勿論、悟浄が思いついた事はロクな事ではないのは言うまでも無いだろう。

 

そんなこんなな日曜日…。
八戒が目を覚ますと時計の針は既に12時を指していた。
「…もうこんな時間なんですか…」
八戒はそう言いまだけだるそうに体を起こす。
昨夜、疲れて眠いと言っているにも関わらず無理矢理スル事になってしまい、それが明け方まで続いたのだ。
「今日は天気がいいから、お洗濯したかったんですけどね…」
外を見ると予報通りの良いお天気。
洗濯日和と言うやつである。
八戒は溜息をつくとベッドから降り、着替えを手に取る。
そして今からでも洗濯をしようかと洗濯機に向かった。
「…あれ?」
しかし洗濯機の蓋をあけると、あるべきハズのモノはそこに無かった。
昨夜まで一杯入っていた洗濯物は何処へいったのだろう。
まさかと思い窓の外を見ると…風に揺れる洗濯物が八戒の目に入る。
一体誰が…と考えては見るがこの家には八戒と悟浄しかいないのだ。
まさか寝ている間に妖精が…なんてファンタジーな事も考えられない。
という事は悟浄しかいない…。

「おはようございます、悟浄。洗濯物なんですけど…」
人の気配のするダイニングに向かうとそこに漂う…料理の香…。
「八戒、起きたんだ。
もう飯出来るから起こそうと思ってたんだぜ」
そして片手におたまを持って挨拶をする…悟浄…。
これは夢なのだろうか…。
「まあ座ってろよ。
もう出来上がるからさ」
「はあ…」
惚けながら八戒はテーブルに向かう。
そのテーブルの上には花瓶が置いてあり可愛らしいカーネーションが生けてあった。
そこで八戒は今日が『母の日』である事を思い出す。
…しかし…。
母の日と自分と何の関係があるのだろう…。

「おまたせ八戒。どーかしたか?」
カーネーションを見つめたまま考え込む八戒に悟浄がそう言う。
「…悟浄、一応聞いて良いですか?
今日は一体何なのですか?」
「んーまあ、母の日かな」
「僕、『母』じゃないですよね」
そう言う八戒に悟浄は恥ずかしそうに頭を掻く。
「まあ、そーなんだけどさ。
いつも飯作って貰ってるし…」
それに…と悟浄は小さな声で付け足す。
「俺、母の日になんかした事ねーしさ…」
その言葉に八戒はハッとする。
悟浄は小さい頃に母の日に何かをしてあげる事は出来なかったのだ。
してあげたくても……。
「そうですか…では、お気持ちありがたく受け取らさせていただきますね」
八戒は笑顔で悟浄にそう言う。
悟浄がそれで幸せならば…。
「じゃあ、今日は僕何もしなくていいんですか?
甘やかされちゃいますね」
「ああ、いっぱい甘やかしてやるぜ」
いただきます、と笑顔で悟浄の作った料理に手をつける八戒は、まだ悟浄の今回の『母の日』の本当の目的には気がついていなかった。


続く



スイマセン、続きます。
今はこれが精一杯なんです。
あと一本か二本です。
母の日までには終わらせます。

えんP今日のお言葉(笑)
『己の首は絞める為にある…』


 

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