SONATA 第一楽章(二話) Op1−2
「八戒…大丈夫?」
戻ってきた三蔵たちに悟空が慌てて駆け寄る。
「近くの街で宿を取るぞ」
三蔵がそう言うとジープが車へと姿を変える。
悟浄が運転席へ入り、悟空が後部座席で毛布にくるまれた八戒を守るように抱きしめた。
「おい」
ふと何かに気付いたように紅孩児が声をあげる。
「その首輪……」
「…首輪……」
そう言われた悟空が八戒の首元を見る。
そこには金の錠でとめられた金具…。
「なんだよコレ…。はずれねーじゃん」
悟空がそれを引きちぎろうとするが悟空の力を持ってしてでも外すことが出来ない。
「…妖力制御装置か……」
それが特殊な物だというのが一目見てわかる。
「…これは鍵が必要だな」
紅孩児が八戒の首輪の錠を見てそう言う。
「…鍵か……」
八戒を助ける事に必死で首輪の事にまで気が回らなかった。
これでは八戒を完全に助けたとはいえない……。
もう少し早く気が付けば……。
「鍵の方は俺が探しておく。また見つかったら連絡する」
紅孩児はそう言うと飛竜に乗り込む。
「なぜそこまでする」
敵の為にそこまでするのか、と普通は考えられない。
「さあな」
そう言うと飛竜で飛び立つ。
「さあ、俺達も出発するぞ」
街に着いた四人はすぐに宿をとった。
そして八戒をベッドにそっと寝かせる。
三人は交代で八戒に付き添うことにした。
それから暫くして八戒は目を覚ました。
「───
ここは……?」
虚ろな瞳で天井を見上げる。
「八戒、気が付いたの?ここは宿屋だよ。待っててすぐに悟浄と三蔵を呼んでくる」
付き添いをしていた悟空が慌てて二人を呼びに行く。
一人部屋残された八戒はまだぼんやりと天井を見つめていた。
何故自分は宿にいるのだろう…。
記憶がはっきりしない……。
ただ…体中が痛んだ。
「八戒、大丈夫か?」
「悟浄…ええ……。ところでいまいち記憶がはっきりしないんですけど、どうして僕宿にいるんですか?確か…野宿の予定で……食事の支度を───」
少しずつ思い出すようにしていう。
頭痛がするのか時折頭を押さえる。
「…記憶を───」
『記憶を失っているのか?』と言おうとした三蔵を悟浄がとめる。
「八戒、食事の支度しにいって倒れたんだよ。それで慌てて宿まで連れてきたワケ」
───
記憶が無いのなら……あんな事は知らない方がいい。
「そうなんですか……すいません、迷惑かけてしまって」
「いいからゆっくり休んで体調を整えろよ」
「はい……」
そう言って八戒は再び目を閉じた。
その日は悟浄が八戒に付き添う事になり、部屋割りは悟浄と八戒・悟空と三蔵になった。
八戒の眠っている部屋で悟浄は酒の入っているグラスを傾ける。
部屋の明かりは付けていなかったが、月の光で充分な程明るかった。
悟浄はちらっと八戒の方を見る。
まだ青白い顔色のまま、静かに眠っている。
あまりに静かすぎて、息をしているか心配になる程に。
「…ちっ……」
ゲージに入れられていた八戒の姿が頭から離れない。
無理矢理頭から消そうと、酒の杯を重ねるがなかなか消えてくれない。
苛立ちを押さえるように煙草を取り出す。
ライターの火を付けるが八戒の方を見て火を消す。
窓も開けていないこの部屋で煙草を吸うわけにもいかない。
ただ自分を押さえつけるかのように酒を飲んだ。
八戒を守ることが出来なかった自分に怒りを感じる。
まだ八戒が記憶を失っていて良かったと思う。
しかし、いつかは疑問に思うだろう。
首輪の事も…身体に付けられた跡の事もある。
いつまでも誤魔化せるものでもない……。
「……八戒………?」
時計が深夜二時を指したとき、八戒が急に苦しみだした。
悟浄は慌てて八戒に寄る。
「おい八戒!大丈夫か?」
起こそうと八戒の肩に手をかけた悟浄のその腕に八戒の手が絡む。
「…身体が熱くて……悟浄…抱いてください……」
紅く染まった頬……涙の溜まった瞳はどこか虚ろで、八戒が正気ではないことは直ぐにわかった。
「…おい…八戒……」
その手を振り解こうとしたが、悟浄は動くことが出来なかった。
旅に出る前から…八戒の事が気になっていた。
一緒に暮らしている時…ずっと……。
旅に出てからも、その気持ちは少しずつ大きくなっていた。
そして今回の事で気が付いた。
自分は…八戒を愛している。
「…悟浄……お願いします………」
「…八戒……」
八戒は正気じゃない。
こんなカタチで八戒を手に入れても…なんの意味もない。
わかっている。わかっているのに───。
それでも、八戒に求められては………拒めない。
「…八戒……」
自分を押さえる事が出来ずに悟浄は八戒を抱きしめ口づけた。
深く口づけを交わし服を脱がせる。
八戒の白い肌に唇を落とす。
?の付けた痕を消すように、その痕を吸い上げる。
そのまま舌を下腹部へ移し、八戒の中心を口に含む。
「ああぁ…ごじょ…」
根元から先端に向かって舐め上げると、八戒の唇から甘い声が漏れる。
縋るように伸ばされた八戒の手が悟浄の髪に絡む。
悟浄が激しく吸い上げると八戒は頂点を迎え、悟浄の口内へと精を放つ。
荒く上がった八戒の息が治まるのを待つことなく、白濁の液を八戒の後ろに塗り込めると、自らの高まったモノを押しあて一気に身体を進めた。
「…ごじょ…ごじょお…」
悟浄は何度も自分の名を呼ぶ八戒の声に、己を忘れたかのように一心不乱に突き上げた。
「おはよう、八戒。体調の方、どうだ?」
悟浄が八戒の顔を覗き込む。
あまり顔色は良くない。
「まだちょっと怠いですね。
それに身体が痛くて…」
風邪でしょうかね…と困ったように笑う。
「…八戒、昨日の夜のことだけどさ」
身体が痛いのは昨夜のことが原因だろう。
悟浄がすまなさそうに話を切り出すが、八戒はきょとんとした表情でいる。
「昨日…どうかしましたか?」
昨夜のことを覚えていない?
「いや、なんでもない…」
おそらく八戒につけられた首輪が原因だろう。
昨夜の八戒の様子は正気とは言えなかった。
おまけに記憶がない…。
放っておいて良い問題ではない。
それは分かっていた。
このことは三蔵にすぐにでも言うべきだ。
…だが、悟浄の中で何かが邪魔をして、言い出すことが出来なかった。
その日も次の日も…夜中の二時になると八戒は身体を求めてきた。
放っておける問題ではないとわかっているのに。
それでも拒むことが出来ずに、また三蔵に言い出すことも出来ずにただ八戒を抱いた。
…まるで何かに取り憑かれたかのように。
それから数日が経った。
「ここんとこ悟浄、ずっと八戒と同室じゃん。ズリィよ」
毎日八戒と同室を希望する悟浄に、遂に悟空が文句を言い出した。
今までは何とか理由を付けて八戒との同室をキープしていたが、そろそろ限界かもしれない。
…しかし、あんな状態の八戒と三蔵や悟空を同室にするわけにはいかない。
いっそのこと、全てを話そうか…。
そうすれば、今まで自分が行ってきたことや、知っていながら黙ってきたことも言わなくてはならない。
でも、黙っていても、もう知られてしまうのだ。
それならば…。
「これ以上の寝不足はごめんだな。
今日はお前とサルが同室だ」
「…三蔵……」
悟浄が八戒について説明するよりも前に三蔵はそう言うと八戒の寝ている部屋へと入っていった。
「悟浄、俺達も部屋いこうぜ」
「……あぁ」
呼びかける悟空に気のない返事を返し、悟浄はただ三蔵の入っていった…八戒の眠っている部屋の扉を見つめた。
…眠れない。
悟浄は窓際に立ち、外を眺める。
今日は月が出ておらず、外は完全な闇に包まれていた。
風邪が強いのか、時折窓ガラスがガタガタと音を立てて揺れる。
明日は雨かもしれないなぁ…と無理矢理そんなくだらないことを考える。
隣の部屋…八戒と三蔵の部屋が気になっていた。
どうしようもないくらいに気になって…眠ることが出来ない。
時計はまもなく二時を指す…。
八戒は自分を求めるのと同じように三蔵のことを求めるのだろうか…。
自分を求めるときの八戒の顔が頭から離れない。
あんな顔を他の奴に見せたくない。
嫉妬とも独占欲とも呼べる感情が悟浄の胸の中をどす黒く渦巻く。
「ちっ…」
───
求められたとき…三蔵は八戒を抱くのだろうか……。
「おい、ちょっと来い」
朝、悟浄は三蔵の宿の裏に呼び出された。
その時点で悟浄は三蔵に何を言われるか、大体わかっていた。
だから、三蔵に呼び出されたときは『やっぱりか』と思った。
昨夜、八戒は悟浄を求めたのと同じように三蔵を求めたのだ。
三蔵が八戒を抱いたか抱いていないかはわからなかったが…。
「あれは一体どういうことだ!」
いきなり胸ぐらを掴まれる。
紫色の強い瞳が自分を射抜くように見る。
「お前、知っていたんだろう!」
「……あぁ」
悟浄は視線を逸らしたまま頷く。
「最低だな」
三蔵は悟浄を殴りつける。
悟浄は勢いで近くの木に背中から叩き付けられる。
そのままズルズルと根元に座り込み立ち上がろうとしない。
そんな悟浄を三蔵は背を向け見ようとしなかった。
「鍵を探しに行くしかないようだな…」
─── 全てはシナリオの通りに…
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