恋愛事件簿

その7




―――事件簿 其の四『秘密なふたり』



――― 手塚国光の場合。

ほんの一部にしか知られていない手塚とリョーマ、2人のラブな関係。
手塚とリョーマの臨機応変な態度には、見事としか言いようが無い。
『2人きりの時が見てみたい』
不二と菊丸は口を揃えて言ってきたが、手塚は即座に『駄目だ』と、言い放った。
恋人としてのリョーマの姿を見せたら、どうなってしまうのか分からない。
折角、2人とも一応は諦めてくれたのだから、その気持ちを再び燃え上がらせたくない。
今は手塚だけの越前リョーマなのだから。


「今は俺だけのものだ…」
この先は、どうなるのか分からない。
出来る事なら一緒にいたいが、この日本では難しい関係なのは承知している。
男が好きでリョーマと付き合っているのでない。
自分は至ってノーマルだ。
だが、リョーマの魅力はそんな思いを一気に彼方へと吹き飛ばす。

俺だけに見せてくれる眩しいほどの笑顔は、どんな疲れでも癒してくれる。
俺だけに優しく語りかけてくれる唇は、触れればたちまち元気が漲る。
俺だけが触れられるその身体は、滑らかで柔らかい。

リョーマは小さくて細いから、骨張っている様にも感じられるが百聞は一見に如かず。
これほどまでに愛しい相手と巡り会える確立は、どのくらいなのだろう?
生涯でたった1人なら、俺はリョーマとの関係を今だけで終わらせるつもりは無い。
こんな想いはお前には重荷になるのか?
ならないのなら、どうか受け入れて欲しい。

これが俺の願い。


――― 越前リョーマの場合。

ほんの一部にしか知られていない手塚とリョーマ、2人のラブな関係。
手塚とリョーマの臨機応変な態度には、見事としか言いようが無い。
『2人きりの時が見てみたい』
不二と菊丸は口を揃えて言ってきたが、手塚は即座に『駄目だ』と、言い放っていた。
こうして恋人関係を二人に知られてからは、いつも手塚がリョーマを守ってくれる。
不二も菊丸も手塚と同じ様に自分を好きなのは知っている。
想いが下火になっているのに、再び燃え上がらせたくないという手塚の考えだった。

今のリョーマは手塚だけのものなのだから。

「今は俺だけのもの…」
この先は、どうなるのか分からない。
出来る事なら一緒にいたいが、この日本では難しい関係なのは承知している。
男が好きで手塚と付き合っているのでない
自分は至ってノーマルだ
だが、手塚の魅力はそんな気持ちを一気に遠くへと吹き飛ばす。

俺だけに見せてくれる優しい笑顔は、気持ちを昂ぶらせてくれる。
俺だけに優しく語りかけてくれる唇は、触れると身体までがふわふわしてきて気持ちいい。
俺だけが触れられるその身体は、大きくて温かい。
抱き締められれば、たちまち夢心地。
普段のストイックな姿からは想像出来ない。
こんなに愛しいって思える相手と巡り会える確立は、どのくらいなんだろう?
生涯でたった1人なら、俺は国光との関係を今だけで終わらせるつもりは無いよ。
こんな想い、国光には重荷になるのかな?
ならないのなら、どうか受け入れて欲しい。

これが俺の願い。



同じ位置に立っている2人は、年齢とか性別なんて細かい事は気にしない。
出会ったのは現実なんだから。

「ね、今日はどうする?」
休日はいつも手塚の家に泊まっている。
部活があっても無くても、必ず。
ベッド上で手塚の胸に顔を乗せていたリョーマは、ついさっきの部活中止の知らせを思い出した。
まどろむ意識の中で聴こえた携帯の着信音。
それは手塚の携帯だった。
その音で目を覚ました手塚は、誰からなのかを確認して電話に出ていた。
電話を切ると再びベッドに戻って来た。
「今日の部活は中止だ」
そう告げると、リョーマの背中に腕をまわした。

「久しぶりにゆっくりするか?」
今日は突然振り出した大雨の為に、部活は完全に中止になった。
部屋の窓から見える景色は、降り続く雨のせいで少し霞んでいた。

「うん、それに賛成」
この雨の中、外に出掛けるのは億劫だ。
「そうか」
「だから1日中こうしていようよ?」
ごろごろと頬擦りする様に胸に顔を寄せれば、リョーマの耳には規則正しい旋律が聴こえてきた。
「…なかなか魅力的だな」
背中をゆるゆると撫でていた手を止めて、手塚はうっとりと囁いた。
「でしょ?」
「いいのか?」
「モチロンだよ」

こうして2人の休日は過ぎていく。
誰も知らない本当の2人の姿。
いつまでも続く恋愛事件。
果たして解決する日は来るのだろうか?


それは2人にもわからない。





事件簿というか、最後ですね。
最後までお付き合いくださいまして、ありがとうございました。