「あいつも、もう中学校卒業か…早いもんだな」
感慨深げに独り言を言う男は、見事な装飾品で彩られた室内に居た。
その中で最も高価と思われる大きな椅子にどっかりと腰掛け、片手は肘掛けに、もう片手には大きな手鏡を持っていて、何かを眺めている。
本来なら自分を映す鏡のはずなのに、それには顔ではなく、どこかの風景が映し出されていた。
「まだまだお子ちゃまだけどな…」
と言いつつも、鏡の中を満足そうに見つめる。
「さてと、召還せにゃならんな…」
持っていた鏡を上空へ放り投げると、指をパチンと一度だけ鳴らした。
途端に鏡は真っ赤な羽根が付いたペンと、純白の便箋へと変わった。
しかもそれらは、宙に浮いたまま、誰かが操っているかのように動き始める。
スラスラとペンは便箋の上を流れるように動く。
全てを書き終えると同時に、ペンはこの空間から跡形も無く消えた。
そして便箋は自動的に封筒の形に変化し、ペンと同様に消えていた。
「コレからが楽しみだな…」
無精髭が生えた顎に手をかけ、いかにも人の悪そうな笑みをその顔に作った。
――― 物語のはじまりである。
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