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TECHNO-NET レポート

BIO JAPAN 2016 レポート(1)


10月12日(水)〜14日(金)、Bio Japan 2016 がパシフィコ横浜で開催された。今回は、再生医療JAPANNが同時開催だが、特に区別が設けられているわけではない。
公式の記録、トピックスなどは、これから様々のところで紹介されると思うので、ここでは私の注目した展示からいくつかを紹介することとしたい。

バイオが産業として成り立つために重要なのがアカデミーとの連携である。医療、健康を支えるためには医学との連携が欠かせない。医工の連携は、大学・研究機関のなかだけでなく、企業と大学・研究機関の間で行われてこそ、広がりが出てくると思われる。バイオジャパンでは、アカデミーの展示、発表が充実しているが、そこから連携の芽が出てくることを期待したい。

1)クラゲ由来コラーゲン

 クラゲの大量発生が大きな問題となっている。発電プラントの運転の妨害、定置網・巻き網漁への被害などが、日本だけでなく世界中のあちこちで起こっており、その対策に苦慮している。大量発生したクラゲは、文字通りの厄介者として廃棄されている。しかし、クラゲはプランクトンだけでなく、魚卵、稚魚までも捕食することがあり、クラゲの大量発生・大量増殖により、いずれはクラゲしかいない海になってしまうとまで言われるようになっている。クラゲを資源として利用することができれば、この問題の解決になるのではないか。
 クラゲの利用に取り組んでいるのは、滑C月研究所。理化学研究所で開発した技術をベースとして、クラゲ由来のコラーゲンを開発、化粧品用途、細胞培養用途などに取り組んでいる。

    

クラゲは、5億6千万年前に誕生した多細胞生物の起源に近い生物であり、そのコラーゲンは生物が多様に進化する以前のコラーゲンということができる。そのコラーゲンの可能性を引出し、様々な用途に展開していきたいという。化粧品用途に関しては、クレンジングフォーム、乳液タイプのオールインワン美容液、洗顔石鹸(商品名;海乃月)が製品化されている。いただいた資料には、細胞培養用コラーゲン、細胞増殖活性化剤、ゲルの関節治療への応用、クラゲコラーゲンの皮膚再生効果などが記載されていた。

ただ、産業用素材として展開するには、クラゲはなかなか厄介者だという。何しろ、水分99.9%、ポリ袋に水を入れたものが海中に浮いているようなものであり、捕獲も大変だ。ただ、このように大量の水分を含んでいるゲルを構成しているわけだから、その特性を調べると、さらに面白い用途が期待できるかもしれない。しかも、クラゲを素材として定常的に確保するのも必ずしも容易ではない。

海月研究所のホームページには、なかなか面白い開発ストーリーが載っている。なお、同社は、神奈川県川崎市高津区のKSPに本社があり、展示は、神奈川県のブース内で行われた。  海月研究所へのアクセス

2) 細胞シートの臨床応用へ セルシード
 
 東京女子医大の岡野光夫教授らの開発した細胞シート工学の実用化、臨床応用への道筋をつけるべく設立されたベンチャーだが、ようやく臨床応用まであと一歩のところまでこぎつけた。私は、雑誌の取材でかつておうかがいしたことがある。それからでも、10年以上になる。新しい技術が医学の分野で認められるには、いかに時間がかかるのか、痛感せざるを得ない。

・細胞シート工学とは

 ポリイソプロピルアクリルアミド(PIPAAm)というポリマーは、32℃近辺で表面が疎水性から親水性に可逆的に変化する温度応答性ポリマーである。温度応答性ポリマーを培養基材にナノメートルレベルで固定化した表面(ナノバイオインターフェイス)を作製できる技術が岡野教授らの開発した細胞シート工学のキーテクノロジーである。

 温度応答性ポリマーは、32℃付近以上で疎水性に、それ以下の温度では親水性となたるため、細胞培養時(37℃)では細胞が接着可能な疎水表面を維持することができ、培養後に温度を室温程度(20〜25℃)に下げることで酵素(トリプシン等)処理を行うことなく細胞を回収することができる。培養した細胞は細胞外マトリクス(ECM)を保持したまま(細胞シートとして)回収することができる。



細胞シートの原理 セルシードカタログより 
UpCellはセルシードの細胞シート回収用温度応答性細胞培養基材


展示では、細胞シート工学技術に基づく再生医療製品の早期事業化を目指すセルシードの現状が紹介されていた。新聞報道によると、日本で食道再生上皮シートの治験を開始、2018年ごろの承認取得を見込でおり、欧州でも来年の治験開始に向けて準備中という。
 
軟骨再生シートについても来年をめどに治験を開始する予定。自社の細胞培養施設(CPC)が完成、年内には施設が稼働開始する計画で、「同施設を活用した細胞シート受託生産事業も検討中」という。再生医療の進展のためにも、セルシードの発展を期待したい。

セルシードのホームページ



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