医薬品業界論文のページ

ビジョンなき卸大型化とメーカーの流通政策(薬業時事666199912

 

 現在、医薬品流通業界は経営環境の悪化による再編成が止まることを知らずに進んでいる。しかし、現状ではクリティカルマス(適正規模)を求めてというよりも単に大きいことはいいことだとばかりに大型化が進んでいる。それも、現在の流通再編成は、メーカー主導によるものが主となっているが、メーカー白身も21世紀を見据えた流通政策に基づくものなのか、現状でははなはだ疑問である。現実に、価格交渉がこれまでになく難航して

おり、経済原則を無視した仮納入といった異常な状態、それも薬価改正毎に繰り返され少しも改善されていない。これはメーカーばかりでなく卸企業も総合的に判断して止むを得ず甘受しており、行政任せといった護送船団の意識から抜け出せないでいるのが現状である。

 確かに、建値制移行後はメーカーに価格交渉権がなくなっている。そのため、仕切価を設定さえすれば、あとは卸企業の責任とばかりにほっかむりをしている状況にある。しかし、メーカーは医薬品の供給者として医療消費者に医薬品を安定的に正常な形で供給する責任がある。逼迫する保険財政のなかで21世紀の流通政策のあり方は自ずと決まってくる。メーカーも系列卸といえどもそんなに面倒をみる余裕はなく、流通体制の将来像を想定し

た政策が必要になってきている。

 さて、流通業界の再編成に話を戻すと、再編成は今に始まったものではなく、再編成の第一期は戦後の昭和30年代、乱立する卸企業の無用論からメーカーの系列化が進められたが、盟主メーカーが有力新製品上市の優位性を維持できずに頓挫している。第二期が現在進行中の流通構造変革に伴う再編成である。いずれも、卸企業の機能を特化させ効率化を求めたものである。卸機能としては、供給、財務、情報、価格、市場管理、マーケティン

グに分けられるが、基本的には@品揃えAデリバリーB代金回収である。品揃えでは、大型化によるホールセラーは品揃えも容易になるのと、主力メーカーのシェアが高まれば取引条件の改善につながる。デリバリーでは、きめ細かくかつ合理的な配送体制が求められる。代金回収では、納入価格の合理性と債権保全が求められる。しかし、こうした機能も他産業ではすでに品揃えとデリバリーを一体化した物流業特化の流通革命が進み、代金回収も「カードシステム(デビッド)」で効率化が図られている。そのため、医薬品業界も聖域でなくなった現在、ただ単に大型化するだけで他産業にみられる流通革命に対応が出来るのかどうかである。

 また、卸機能についてみると、一つ一つの機能を関連機能毎に結び付け、構築し直し新連結するバリューチェーン群を集合体、即ち一つの経営組織として管理していくためにITの活用は必須である。ITは企業創造的なビジョンが前提となるが、一言で言えば「業務の標準化と新次元経営の創造」で、経営哲学が集約されたものである。従って、合併を成功させるうえで最も重要なのが「業務の標準化」だが、実態は新機能を生み出すまでには至っておらず、単なる寄り合い所帯に止まっており、現場では予想以上に混乱しているのが実態である。

 一方、メーカーの流通政策での基本は、適正な経営を維持するため、適正な流通体制の構築と債務保全である。そして、医薬品の営業は、本質的には疾患に対する有用性の確立であるが、メーカーの認識としては当面、市場におけるシェア拡大である。流通政策当事者としては、疾患への有用性、自社の販路、市場育成の長期視点、供給能力などを総合的に判断したうえ、適正な利益を確保できる販売計画を立案する。しかし、現状の建値制のもとでは価格交渉権がなく、計画通りの利益確保は難しい。先般発表された、製薬協・流通適正化委員会による「医療用医薬品流通ビジョン」の報告書によると、2010年には卸企業50社、eコマース時代の到来でメーカーと医療機関とが直接価格交渉をする時代が来ることを予測している。これこそ、卸企業の方向性を如実に示しているといっていい。それは卸企業の商社化、これまでの卸契約から総代理店契約(一手販売権の付与)という取引形態が示唆されている。この他、メーカーが販売会社設立による直販体制、あるいは共同販売会社の設立なども課題になっているようだが、こうなると卸企業は物流に特化

(商社化)しなければ生き残れなくなるのだが…。