仕切価対応率で決まる薬価引下げ

      名目化した仕切価への懸念

 

 すでに、卸企業と医療機関の価格交渉は始まっているが、一部には逆鞘現象や実勢価格上がり予測による特需が3月に発生したと言われている。当然、メーカーとしては次回薬価改正を睨んだ仕切価政策が政策課題となっているだけに、かなり厳しい政策が取られたようだ。次回は調整幅(R幅)がゼロになると仮定して簡単な試算(モデル1)をしてみると、仕切価への対応率によって次回の薬価引下率がはっきりと示される。

 【モデル1

 

前納入価

()

新薬価(円)

仕切価対応率(%)

新納入価

()

対薬価率

(%)

20019

(%)

次回薬価改正(%)

政策A

90.50

93.00

302.1

91.10

98.0

97.0

3.0

政策B

90.50

93.00

503.5

89.80

96.6

94.6

5.4

政策C

90.50

93.00

100(7.0)

86.50

93.0

90.0

10.0

上記表の前提条件はこれまでと同様だが、薬価改正前の薬価を10000円(1000%)、納入価(税込み)は平均乖離率95%を差し引いた9050円、新薬価は平均引下率70%を差し引いた9300円とした。仕切価対応率の括弧内は納入価の引下率、20019月の対薬価率は次回薬価改正の薬価調査時点、2年間で価格が下落する経時変化を13%として計算、次回薬価改正は調整幅がゼロのため、そのまま薬価引下率が算出される。

 この計算では、平均引下率7%を100%スライドダウンさせた場合、新納入価は8650円になるが、一般的に言われている仕切価対応率を30%に合わせた場合、前納入価を060円上回る値上げになる。これでは卸企業の商売が成り立ち難いことになるが、すでにR幅が縮小するにつれてオンマージンを確保すべき仕切価は名目化しており、卸企業はリベートなりアローアンス幅を考慮した販売政策を行うことになる。この兆候は前回の薬価改正からみられるが、仕切価が高ければ高いほどリベートなど不透明な部分が大きくなることは必然で、これまで取り組んできた流通改善に逆行する可能性も出てくる。

 当然、製品力、販売力によってメーカーの戦略も異なってくるが、例示的には政策ABCが考えられる。薬価防衛を強く訴える政策にはA、ある程度の薬価引下げ

を覚悟したうえのシェア確保ではC、中庸はBといった政策が取られることになる。

 各社の販売政策が顕著に現われている高脂血症治療剤の薬価比較をモデル2でみることにする。

 【モデル2

 

発売

旧薬価

新薬価

引下率

前納入価

リポバス

91.12

203.60

191.80

5.8

92.2

メバロチン

89.10

187.00

174.40

6.7

91.3

セルタ

187.5

187.00

163.20

12.7

85.3

先発するメバロチンが既存市場を新しく塗り替えることで超大型品に成長、そして2番手となるリボパスも市場拡大に貢献、高脂血症治療剤市場は10年間ほどこの2品目によって寡占状態にあったが、セルタの参入により販売競争が激しさを増した。セルタは市場調査と卸の販売力を活用して、先発2品目の牙城を崩しにかかったが、結果としてゾロ新戦略による安値攻勢となり、それがニケタの薬価引下げをもたらした。また、前納入価率は薬価引下率に調整幅2%を加えたものを差し引いたものになるが、これによる薬価差はセルタの147%が最大になる。当然、ユーザーにしてみれば、販売競争でここまで納入価が下がれば願ったり適ったりで大歓迎であろう。

 さて、新薬価によるこれからの価格政策が注目される。これだけ薬価に差がっいているため、例えばリボパスが対薬価比95%(18221円)の納入価の場合、薬価差は959円になる。他の2品目がこの薬価差を確保するためには、メバロチンが945%、セルタは941%の納入価率にしなければ対抗できないことになる。これを「モデル1」に当てはめてみると、次回の薬価改正では各社の販売政策によって薬価に大きく差がつくことになる。セルタの場合、発売1年目で100億円前後の売上げ規模になるとみられ、販売政策が奏効したことにもなり、系列卸再編の波に乗って一気に市場シェア拡大の可能性もある。

しかし、5月には有力新薬リピトールが登場するため、販売競争はさらに激化することが予想され、先発3品目も綺麗事を言っていられる余裕はなさそうだ。

国際医薬品情報 2000410

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