変貌する流通市場を探る

2)受発注情報システム化の現状

 

1985年電気通信事業法が施行され、NTT民営化でVAN(付加価値通信網)の自由化が始まり、産業界では相次ぎVANが誕生し、今日では多くのユーザーが接続、データ交換をしている。当然、医療用医薬品の流通分野でもVANが誕生しているが、医薬品受発注のインフラとして、まずその実情を概観してみることにした。

 

 @JDNETと流通体制の変革

 前回に図で示したメーカーから卸企業への段階がJDNETの受け持っている範囲である。このJDNETによる卸企業の売上げデータ情報は、メーカー毎の施設別、品目別の売上げ内容が即日把握きる仕組みになっているため、メーカーは自社品のデータ把握としての価値は大きい。ただ、発足当初から問題になっていたのは、売上げが数量×単価によるため、価格情報が再販売価格拘束につながる可能性もあり、数量のみを報告すべきとした論議がいまなお続いている。しかも、流通近代化の課題が「納入価の透明性実現」にあ

るにもかかわらず、現在もすっきりしない状況が続いている。厚生省でも薬価調査にJDの生データを利用すればといった話すらあるが、この価格情報問題は本項と直接関係ないため、改めて別項で論ずることにする。

 さて、JDNETは、メーカーと卸企業との共同参加により運営されている。メーカー・卸企業間の受発注、売上げ情報はほぼ100%の確率で把握できる。しかし、急進展するIT(情報通信技術)への対応、関連業種へのメンバー拡大など新たな問題が姐上に上ってさている。これら問題は内容、性質によって流通全般に影響を及ぼすことになる。前回に示した産業別の機能を眺めてみると、その位置付けからIT進展の担い手としての重要な

役割がみえてくる。そのため、バリューチェーンによる新機能へのシステム展開などが注目されるところである。

 

 A地域ネットワーク協議会と全国ネット構想

 医薬品の受発注に関するインフラを共用して、流通コストの削減を図るため展開しているのが、各地域のVAN協議会である。VANは卸企業と医療機関との受発注を受け持っている。全国にはHCMNET(北海道)、TNET(東北)、NINET(新潟)、CMNE

T(関東・甲信)、JMNET(東海)、HOMENET(北陸)、KNET(近畿)、HOSTYNET(中国)、SDN四国データネット、KMSNET(九州)の10協議会がある。このほか、卸企業単独によるKOS(クラヤ)、TMS(スズケン)がある。

 全国VAN問題は、卸連の「全国VAN検討委員会」で1年余りにわたり検討された。各地域のVANが個々の地域で同じような業務を行なっているため、それを1つにまとめることで効率性が高まるといった議論が発端となり検討委員会が設けられたゐである。しかし、各地域のVANは設立されて10年を経過しており、個々のV                                                        ANはそれぞれ運営方法やシステムが異なっている。そのため、地域VANの統合によりコスト削減が達成できるといった理想論に対して、現実的に地域VANを統合するための技術的難しさ、システム構築に新たな投資が必要になるなど、「全国VAN検討委員会」の解散で全国VAN統一化構想は頓挫したといっていい。しかし、この背景には、WebComputing時代に入り、インターネット技術の利用で受発注はもとより、医薬品情報についても新たなシステムによるネット構築が可能になったことがある。また、卸企業の再編やVANの競合とも無関係ではない。公共性を標梼した共通のインフラ構築を目指すVAN運営とはいいながら、特定企業の政策なり戦略が出やすい現実は否定できない。そのため、本来は共通であるべきインフラの運用にも影響を及ぽす。こうした現実からみると、表面的には全国ネット構想も「総論賛成各論反対」により挫折したようにもみえるが、21世紀へ向けたインフラ整備の通過点とみたほうがいい。

 情報はニーズにマッチした仕様価値があってはじめて活用されるが、その仕様価値が生かされないから使用価値を生まないのである。しかし、使用価値を生まないからといっで情報産業としての責任を果たさなくていいというのではなく、情報通信産業の進歩に対処しつつ情報を価値のあるものにするという姿勢なり信念を創出することが新しい医葵品卸企業の使命であろう。

 

国際医薬品情報19991122

 

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