変貌する流通市場を探る

 

(1)     IT進展で変革期に直面する流通業界

 

 いまやIT(情報技術)の急速な進展が、あらゆる産業において産業革命に匹敵する構造変化を起こしつつある。当然、医薬品産業にもこの影響が及びつつあるのと同時に、医薬品の流通もその変革期に直面している。

 まず、その変革を探る前に、医薬品産業における医薬品(医療用)の受発注の流れを例示的に図式化してみた。

A)  (B)    (C)   (D

製造 ⇔ 卸売業 ⇔ 病院・診療所 → 患者

            (調剤薬局)

 現状では、この(A)、(B)、(C)の三者間でそれぞれ受発注が行われている。このうち(B)は、(A)と(C)の両方による受発注が生じ、製品の流れを受け持つ中間に位置しており、卸売業が流通業といわれる所以でもある。また、現状では医師に処方権があり、患者は薬の選択ができないため、受発注行為は生じない。しかし、近い将来に患者が薬を選択することができるようになれば、(C)と(D)にも受発注が生じることになり、                         製品の流れは変わらないものの、流通マーケティングを大きく変貌させる要因になってくる。

 また、(A)、(B)、(C)の各産業グループについて、これからの経営に影要を与える与件変化と機能を例示してみた。

 こうして各経営グループにかなり共通した項目がみられる。いずれも経営管理の基本になる「ヒト」、「モノ」、

 

製薬企業  製品の導入・導出、製品企画、マーケティ ング、機能特化、MR資質、薬価管理、 医薬品の供給、治験、販路、GE薬、外 資企業、原料確保、協業・合併

卸企業       医薬品の供給(仕入れ、品揃え、保管、 受注配送)、財務(債権、代金回収、金 融)、情報、価格、市場管理・マーケティ ング、機能特化

医療機関   機能特化、入院・外来、ケアミックス、 サテライト診療、門前、調剤チェーン、 在宅介護、医薬品の供給、・ヘルスケア、 外資・他産業

 

「カネ」、「システム(IT)」、それに「プライス」の仕組みが、需要構造の変化に伴い多角化、機能分化・特化が進み、それぞれが独立した企業体、いわゆるアウトソーシングのプロセスが進むものとみられる。特に、各グループの共通項になっている機能分化・特化は、価値を増殖させる機能がある。それも、医療関連産業の川上から川下へと連動しており、これを医療関連産業のバリユーチェーンと定義づけると、各グループの既存事業は制度改革や規制緩和による産業構造の変革と共に崩壊の道を歩み新たな事業展開が必要になる、いわばバラダイム変換による「創造的破壊」の過程にあるといっていい。

 しかも、流通業は(A)+(B)+(C)を一貫してマネージングする必要があるが、これに「介護」を加えたバリューチェーンとしてみた場合、医薬品事業としても流通業のビジネスチャンスは21世紀に向けて質、量ともに無限の広がりが予測されるのである。当然、流通業に限ったことではなく、製薬企業、医療機関にしても同じバリューチェーンのなかで、新しいビジネス創造の可能性は無限大にあるといっていい。

 こうした産業構造の変革に拍車をかけるのがITである。このITの進展が産業界全体にわたり第三次産業革命を誘引する要因になっている。特に、医薬品に限ってみると、生命関連産業として多品種少量生産の宿命を負っているが、最終消費者である患者の高齢化、多様化が進む中、業務効率化を進める流通業といえども木目細かく、正確、迅速かっ安価にサービスを提供しなければならない。それを可能にするのが、新たな情報システムの構築である。また、新情報システムが構築されることで新たなビジネスチャンスが生まれる。経営効率化によるコストダウンの要請からアウトソーシングの活用も選択肢の一つになるが、本来は医療関連産業として単一のバリューチェーンであっても、機能的にプロセスを分割することが可能なため、効率経営としてアウトソーシングすることにより、新たなビジネスを創造することができる。と同時に裾野の広がったグループ経営、ネットワーク経営が展望されてくる。

 

1999118 国際医薬品情報

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