平成16年医薬品卸業展望 

                     国際シュンペーター学会会員 丹羽武正

 

寡占化する医薬品卸売業界の将来ビジョン〜合併劇、詰めの処理に万全を〜

 

平成15年を振り返ると、本格化する医療制度再構築論議の中で、医療界も経営実態・医師と金の問題、医療技術研究の行方、介護のありかた問題を内包し、それと表裏一体の製薬業界、医薬品流通業界も、否応なしに突きつけられる薬価見直しがある。2年周期の下降時期にきた。右肩下がりを継続せざるを得ない骨太政策の中で、質的にも大きな変革を余儀なくされてきている。薬価基準と医療制度に守られてきた業界ではあるが「嵐の前の静けさ」の実感である。そんな折メディセアホールディングの設立も発表された。卸段階の形(当面の到着点〜平成9年ごろからの合併・提携・子会社化・・行き着く先)が更にはっきりしてきた。あと5年で国民皆保険から50年という節目を迎えるこのときに仮面を装ってきているように見える流通業界の中で、合併劇の処理に万全を期し、今こそ真の原点に立ち帰って進むべき道、ビジョンを確立すべき時期にあるのではないだろうか。

 

大きくなることだけがいいのか?

合併提携の進展により形は占拠率としては寡占状態が促進されている。表面的には格好はいいが被保険者保険本人3割負担による受診抑制も、包括医療の進展、ジェネリック品の普及、納入価格の下落が加速する中で、しかし営業の実体は競争の激化、無駄な競争が続く。いい例が今年の、生物学的製剤のメーカー報告方式である。大手卸はそれぞれ違う様式でわが社こそベスト体制と豪語しあった。違った様式で報告を受けるメーカーの方も大変であるが、これも業界再編過程の一駒であろうか。スローガンが先行しがちなIT政策の本質論を見詰めて欲しいものである。

 

社名は変わっても・・MSは捨て駒か“合併・提携・子会社化 歴史と一緒に忘れられ”という川柳がある。ユーザーから「A社って何だっけ?」と聞かれ「すみません、甲商店の私です」とMS。「じゃー、今まで通り甲商店の君でいいんだね?昨日はB社とか言っていたが乙商店だって言うじゃないか」「はあ、その通りで。ご注文は私に今まで通りでよろしいのです」「社名ばかり変わって・・これじゃ仮面舞踏会だよ君。年末は今まで通りに君のところからやっといてくれ。」

数量は増えても売上は伸びない。利益も伸びない。市場の伸びは平均1%も無理になっている(クレコンの推計では0.5%といわれている)。年が明ければ、薬価改正がらみでの買い控えが発生してくる。インフルエンザもワクチン接種が進行して品不足の様だ。

合併により直ぐ話題に出てくるのはMSのリストラ。業界ではリストラの対象となるMSの情報ばかり。システム化されて売上伝票には会社で認めた建て前の価格しか打ち込めないから次々に売上を繰り回しながら時期を待つ有様。時期がくればあとは後任者が前任者の未処理を処理する事に汲々となる・・この繰り返しであってはならない。

 

残るのは仕入れ業務になるが・・

大切なのは仕入れ業務 正味仕入価の戦いだけだが、実態が経営的に反映されないからメーカーとの交渉も思うに任せない。社内では厳しい実体を表に出そうとすると、管理機構の締め付けにあってしまう。医薬品卸の付加価値とは何だろうか。患者さんの医療・治療に役立つ医薬品の仕入・配送と言うことになろうがこれと並んで金融が卸の機能を発揮できる領域といえるがこうなれば今までの医薬品卸でなくても経営が可能である。いわゆる卸不要論の再燃となる。 最終原価と自社基準加重値2本柱を価格交渉の前面にとトップは言うが、決算を考えない時点での途中経過的スローガン、言葉の上だけではないようにして欲しい。言うだけなら組織のトップは言えるが実行は誰がするのか?決算時点では、未決定の価格をどう決めて処理していくのか。最終原価を決めるのはメーカーの決断になるのではないか。トップは言う、夢の実現には「自分達で利益を創出するためにも、スケールメリットや機能を最大限に発揮し、患者さん、お得意さん、メーカーさん全てにベストの方法を提案していきたい。全最適機能を模索し、追求し続けていくことが医薬品卸の宿命である」と、然りである。だが、・・・

企業にとってもう一つの大事な情報はマーケットつまり現場のオン・ザ・スポットにある。オン・ザ・スポットに弱くては!債権管理でトップは債権滞留日数チェックなどといっているが現場は逃げ率(危ない得意先からいち早く上手に手を引く)のための情報交換に憂き身をやつしている実体なのである。新流通における商社型卸売業者と独占禁止法の問題を含めて考え抜くことをやめてはならない・・これが肝要である。

 

神は細部にやどる

神は細部にやどるという言葉が私は大好きなんですが、情報化社会において、大事な

情報は細部にあるものだと日本の企業家は見ている。従って、情報がミクロのレベルから

ヘッドクォーターにのぼっていくループが問題になってくるわけで、そのループの性質を

どう考えるかが肝心だと思っています。」(今井賢一“ネットワークデザインを超えて”)

これを読みながらY会長の平成15年年頭所感を思い出した。Y会長の「哲学」「信念」の真髄を感じた。

 「小さな危機管理の積み重ねを と題し、医薬品という生命関連商品ゆえに、私たちの

間違いは命に関わることになりなり、ただの間違いでは決してすまされない。今までと同

じ道を踏襲してはいけない。(中略)健康を願う人々と、それを支える人々のために、惜し

みない努力と貢献を続けていこうではありませんか。」(月刊卸薬業1月号抜粋)

 

アルフレッサ設立

福神とアズウエルが経営統合、持ち株会社「アルフレッサ」設立、第3の1兆円卸誕生へ。設立後1年間は2社の独自性・自立性を維持しながら、新企業グループ創設の助走期間として事業分野ごとに戦略を同期化させ、一体的な運営を強化する。売上増加、仕入コスト削減、情報化投資などの統合効果を見込む。理念同じ企業の参画も促す。実質的なフルライン卸である。

卸業界は1992年から、医薬品流通の近代化として新仕切価格制度に移行。その後、卸のシェアー争いが過熱してきた。また東西を問わず、生き残りをかけて再編劇が繰り返された。再編の主軸は常に武田薬品系、三共系、そしてスズケンであった。今回のアルフレッサとスズケンそしてメディセア(後述)東邦の4大卸が、売上1兆円超時代に突入することで、全国を股に掛けた競争時代に入ると見られる。今後、こうした企業との連携を強化するなど、地域卸の動きも活発化していくことは必至の情勢である。こうした中で東邦の共創未来グループ共栄化政策は静かにだが着々と進んできている。興味深いことである。

 

そして事業持ち株会社メディセオホールディングスが設立される

1212日クラヤ三星堂はアトルとエバルスを株式交換制度により完全子会社化することを発表した。近年の医薬品業界は、再編が進行しここにきて、卸段階の様相(仮面〜当面の到着点〜平成9年ごろからの離合集散の行き着く先)が更にはっきりしてきたように思われる。経営統合効果として@営業力の強化A仕入れ機能の強化Bコスト削減があげられるが@Bは重複帳合の整理、過剰営業所、センターの効率化、リストラの推進により目途が立つがAはメーカーのリベート政策との絡みがあり交渉は難航するものと思われ予断を許さない。

平成15年の主要卸の主な動きについては別表を参照されたい。

 

ホールディング会社に残る幾つかの疑問点

・古い歴経緯を持つ個人的連携だけが先行しなかったか。

・メーカーはどの程度資金を投入するのか。メーカーの支援は得られたのか?

・設立後1年間、平成16年の工程表に債権精査が組み込まれているか。そのチェック体制は?調剤薬局への売上の伸びが高いが債権管理上の問題を含んでいないか。

・双方の不良債権を曖昧なまま先送りをしないように願いたい。さもなければ合併後に厳しい対応を迫られることになる。過去の、長年の経験があるからとはいうが注意怠らないように願いたい。今の時点は薬価改正後であり、常に卸業は好決算の因縁がある。そんなときに甘い決断は墓穴を掘ることになる。ホールディング設立とは本来は、提携先の子会社化への厳しい道のりではないか。メーカーとの信頼関係構築へ、友好卸のさらなる参画も視野にと動いているがその動向が一番の問題である。医薬品製造部門を持つのは1兆円市場をバックにしているだけに強みの要素ではある。メーカーからの譲受け品目も出ている。着々と創造的企業への道を歩んでいく卸となるように願いたい。

 メーカーとして2頭立て方式で行くとしてもルート的には若干の恩義がある地域もあろうが時代の変化を先取りすれば重点とする選択肢は明白である。

 

不良債権問題

卸の自主性回復にはメーカーの庇護からの離脱をせねばと言う意見がある、例えば卸の売上債権回転月数とメーカーへの買掛債権回転月数の差の問題。この背後には勿論不良債権問題がある。しかし、日本経済の不良債権処理と同じでは前進は無い。根本的に卸サイドの売掛債権管理を変えなければならない。どの卸も言いたがらないが本音のところ医療業界を支えてきたのは卸であり、過去からの営業上の足枷、(しがらみ)、因習があるというがそれを具体的に表現すれば会計的に表現すればどうなるか。これをまず除外(棚上げ)せねばならない。平均を大きく上回る回転月数のものがその対象であろう。不良債権の顕在化予測は非常に難しい。少し先行した言い方ではあるが、こうした不良債権を分離した形、その上での新しい展開が望ましい方向を呼ぶのではないか。

木村文治氏がヒルトップセミナー(一昨年の8月22日開催)で「医療費改定の卸経営への影響」として講演した中で債権問題を取り巻く環境変化の中で月次決算の公表やクレジットユニオンの創設などの具体案を提示しているのは興味深い。

 

新たな潮流への対応

K社長はいう。合併後の課題、ほぼクリアー 今年システム統合を完成させ、ようやく合併作業が完了したが3年を要した。今期の業績見通し 2%前後の伸び確保、情報を流通の要に 市販後安全対策を最重視卸の重要な機能に与信管理があるが、これは結局、眼と感覚によるしかなく、現実問題としてマンパワーを投入するしかない。MSが取引先の経営者や従業員、他の卸の動きなどを見て肌で感じながら警戒信号を発信するのだから、闇雲に持ち軒数を増やして人員を削減することは疑問。

グループ・パーチェス・オーガニゼーション(GPO) 日本も卸が再編して大きくなったことは、メーカーから見ればGPOであり、これと同じようにユーザーに同じ動きが出てきてもおかしくない(共同購入)。これにより1地域での特定病院との取引では成り立たなくなる。何らかのグループインをしていかないと入札権そのものを失う恐れがある。全ての分野で,他との比較は重要であり全国スタンダードを示すことによって県内や全国との比較が可能になる(薬事日報9.5)としている。仕入正味原価や債権管理・入札権の鍵を握っているものの存在を、流石に良くわかっておられるようだ。

 

要するに3月期決算の言い訳材料を蒔いて置くのでは本末転倒ではないか

企業の無能をさらけ出したくないから、格好を(落としどころ)を求めている。各社の9月中間決算を見て誰しもそう思うだろう。仮面舞踏会もそろそろ本音の顔が出てきている。子会社化による事業持ち株会社への転進により実態反映を先伸ばしつつ時間稼ぎをしていることだけは避けて欲しい。合併劇の後始末だけは先送りしてはならない。

年明けと共に買い控えをカードとして持つユーザーとの本音の価格交渉、そして薬価改正の影響を抱えねばならないメーカーへの正味仕入原価交渉の正念場が近づいている。

 

来年の薬価改正は矢張り厳しいものになる。

中医協の論議が業界内では活発である。しかし国民の関心は低い。2年周期の浮き沈み・・・平成14年と同様の影響が出よう。医療制度と薬価基準に守られてきた業界である。しかしそれに甘えて厚生労働省に業界を守ってほしいといってもお門違い。被った仮面に魂を通じるように願うや切なるものである。

 

医療用医薬品卸売業将来ビジョン2003 に期待する

卸連が纏めたこのビジョンはまさに歴史的うねりを思わせる画期的な指針で、元気な卸業へ向かって委員長吉村次生氏の迫力を感じせられる。医薬品卸業盛衰の鍵は医薬品の最終消費者である患者の安心感や利便性の向上にどれだけ貢献できるかにかかっている。いま医薬品卸業の役割は、工場を出荷した医薬品が処方され服薬されるまでの長い流通過程の中で、小さな一部を担っているに過ぎないが、MS機能の再構築をベースとしながら、医薬品サプライチェーンの重要な結節点として、魅力ある機能を構築し、提案し、元気あり業界として、医薬品卸業が健全な発展を遂げることが、医療機関や製薬メーカーをより活性化し、良質かつ効率的な医療、医薬品流通に資することになることを確信するとしているが、「創造的破壊の成果としての商社的存在への進化」の正論だと高く評価したい。自主性を失って業界が荒波に漂流しないようにその実現が待たれる。

 

 

  きみはたしかにシェリーに会ったのか

   かれは立ちどまってきみに話しかけたか

  きみもそれに答えたのか

   それは珍しい耳よりなことだ(大庭千尋訳)

 

これはロバート・ブラウニング詩集「男と女」(Men and Women)のなかの「思い出」(Memorabilia)の一節で一昨年の国際シュンペーター学会の冒頭講演(Reflection on the Schumpeter I knew well)でP.A.サムエルソンが引用した詩です。シェリーはロマン派の詩人ですが、サムエルソンがここでシュンペーターとシェリーを重ね合わせて、求める本質が何かを明確にすべきと述べているように思います。

流通経済が大きく変貌しようとしている医薬品卸売り業界の現状で相応しいのではないかと引用しましたが、この詩が隠喩,暗示するものは興味深いものと感じております。

 

(別表)大手卸の平成15年の主な動き(平成153月期決算短評も含む、12月現在)

【クラヤ三星堂】

西日本物流センター稼動 潮田・千秋から一般用医薬品卸売営業譲受 

新物流拠点HC東日本物流センター(加須市)H164

株式交換で平成薬品ならびに井筒薬品を完全子会社化 

納入価維持の粗利率アップで大幅増益を達成(03.3月期決算)

副作用情報収集結果の小冊子「KS DEM」を作成

メディセオホールディングス設立(20044月)

【スズケン】

オオモリ薬品との合併で売上1兆円台二ケタ増益達成(03.3月期決算)

株式交換によりサンキを完全子会社 安藤薬業公司との合併

アスティス、スズケン沖縄、沖縄薬品との業務提携

MS-CUP(call up program)の展開

【福神】

 

 

 

【アズウエル】

 

事業買収の増収効果と経費削減効果で大幅増益を達成(03.3月期決算)

松田医薬品と医薬品学術情報の共同利用などで業務提携 

大正堂の合併平成16

アズウエルと共同出資で持株会社アルフレッサ ホールディング株式会社を設立して経営統合

ERPの導入と展開

事業構造改革による経営効率化で大幅増益を達成(03.3月期決算)

中川佳英氏(旧中川安・現アズウェル会長)630日ご逝去。

【東邦薬品】

ファーマネットワークと業務提携・資本提携 CSO市場展開

幸耀(高松市、讃岐+オオモリ四国+梅花堂)と業務提携 

共創未来グループ38県17社の売上8,915億円、1兆円達成早まる

広域化進展の売上げ増と採算重視で収益大幅回復(03.3月期決算)

小川薬品に資本参加 岡山物流センター 本社新館の建設

業務提携先のヤクシンと資本提携  ショウエーへの営業譲渡契約

 

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