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医薬品卸業界の新年展望
〜医薬品卸企業の新たな生き残り戦略の検証〜
平成14年は小泉内閣「骨太政策」の筋書きに従い、三方一両損の医療改革がスタートした年であった。改革の未来が新しい光とすれば、影の部分として、引き摺って来た歴史と経緯も無視できない。医療改革が進行し医療が進化しようとしている中での卸業界という観点でこの1年を振り返りたい。
1.
卸業界の平成14年の動向
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体制の強化等 |
システム等 |
中間決算・通期売上 |
クラヤ三星堂 |
熊倉社長就任 エバルスに動薬営業譲渡・平成一般用営業権取得・会計、受注、物流システム統合ヘ |
Medks−epi 薬局→病院トータルソリューション |
取引価格好転の採算性改善大幅増益・通期125百億円へ |
スズケン |
人事制度(物流専任職等) 安藤薬業公司・提携 オオモリ合併 記念講演会(明石洋子氏) |
スズケンClick |
大幅増収、粗利率改善で営業利益2.5倍・106.7百億円へ |
福 神 |
東証上場(二部) 医薬品情報収集活動 債権月数短縮を目標化 SAを400人以上に |
FINEPLAZAのリニューアル |
大幅な増収増益「経常利益率2%確保へ」・49.9百億円へ |
東 邦 |
東証二部上場 東海東邦(船橋薬品) 情報処理、臨床薬理事業軌道に ヤクシンと資本提携 |
ENIFシリーズ LXMATE |
増収増益・45.9百億円へ・総合営業政策の展開、事業所統廃合(下期) |
アズウェル |
本社事務所移転 世田谷区に所有土地売却 事業構造改革 物流インフラの高度化推進 |
情報ディスク「MS君」 選択と集中(ナレッジマネジメント) |
増収、粗利率改善と販管費削減効果で増益・48.1百億円へ |
(業界特記事項) ケーエスケー・・・・・・・・・・・ファルネット立ち上げ バイタルネット・・・・・・・・・・光ファイバ通信網の設置 成和産業・アズウェル・福神・・・・医薬情報会社設立 卸 連 ・・・・・・・・・・・・・東北卸公取委勧告受託、最終決着へ 会員宛早期価格妥結要望 松谷会長IFPW会長に就任 メディコードの推進 ロットの標準化要望 |
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2.
平成15年の卸業界展望
医薬品卸売業の中間決算発表の概略は上表の通りとなっている、その中間決算の評価と生き残り戦略の展開状況を点検してみることにする。
各社共通は売上増。特色を生かした決算なるもこれがニ年に一度の甘い夢の繰り返しとならないこと、いつか来た道の悪夢を再現しないことを期待する。
@ 合併後の営業戦線の地ならし
本年は福神(3月)、東邦(12月)が二部上場を果たし、既に東証一部に上場しているスズケン、クラヤ三星堂、アズウェル、バイタルとこれで大手6社が上場企業となった。卸薬業界をリードする6社の動向が一層注目される。
販売網の全国展開に当たっては当然空白の地域を埋める必要がある。空白を埋めるため進出する過程において、地域卸がどういう形で大手卸の参加に加わるかが流通再編の大きな焦点である。
企業合同大型化への選択肢、方式には、提携、資本参加、提携、子会社化、合併などのパターンがあるが上表には最終段階を迎えた各卸ごとの進行状況が読み取れる。
合併は社名、組織・人事が改革される。理念に基づいて実行できれば出血はあっても進歩に繋がる。しかし実態は新機能を生かせずに、単なる寄り合い所帯になってしまう危険も孕む。つい数年程前迄の多くの事例が歴史的にそれを証明している。
提携・子会社化は社名が変わらないからユーザーに対して抵抗が少なくマイルドな変化であり、当世代だけ地域卸の暖簾を守りうるメリットがある。この場合も構造改革やIT運用面でどの程度、改革改善しうるかがポイントになるが、社名継続、社長留任となるとやはり改革実現にはおのずから限界があるといわれている。従って、根本的に改革するには次世代での完成を視野に入れた息の長い忍耐が肝要になって来るのではないか。その長い忍耐期間の決算をグループとしてどう支えきれるかが大きな課題となろう。
各社の地域展開の概要はここでは省略するが上表で列挙した項目をみてもその苦労振りが窺えよう。
大型化の最大のメリットはメーカー口座である。取引メーカー群の拡大はホールセーラーとしての品揃えに、また主力メーカーの扱い高(シェアー)拡大は仕切価に続くアローワンス、リベートなどの取引条件、最終原価の改善に繋がるものである。
A システム展開の留意点
システム戦略について一瞥してみよう。
IT化の促進や医薬品の安定供給に対する一層の努力が求められている折から、医療機関や薬局が本当に必要とするもの、医療過誤問題、経営強化、顧客満足などに対する支援を行える卸企業が、医療機関および薬局のパートナーになれるといわれている。
たとえば「病院トータルソリューション」の新ビジネスモデル、ナレッジマネジメントの展開による営業力の強化や医療情報会社の設立などはうたい文句どおりに何とか定着出来ることを期待したい。
いずれもユーザーの参画が必須のテーマであるがプルの戦略に走るようだと投資を卸企業が負担する羽目になり結局行き詰まることもあろう。効率的IT投資のあり方は稿を改めて検討したいが、システムをユーザーが共に負担してユーザーが「患者思考」の観点から自主的に参画するように工夫することが一番大切なことであろう。推進をあせらずに医療機関側の自主的積極的IT設置要望の機の熟すのを待って推進する姿勢が必要であろう。医療機関がいま設備投資の余力があるかどうか見極めたいし、例えば安易な補助金依存投資は何度も苦い思いをしているように、中間間接セクションへの迂回出費を増進するだけではないかとの指摘がなされている。
卸企業としては、今までの反省に立って、慎重な取り組みを行っていると言われているが、設置台数を目標化すれば、それが故にがむしゃらな設置件数追求だけが一人歩きする危険、弊害を招かぬよう見守りたい。
B 債権問題と最終原価のスライド調整
各社とも売上減少が予想される10月〜3月の状況と構造改革推進に伴う不良債権処理が進展した場合のダメージを軽微に回避できるかどうか。クレコン木村社長が言われているように、信用情報をいかにオープンにし被害額を最小限に抑えるかが肝要であろう。
また巷間囁かれている医療機関等の経営悪化をベースとした来年4月以降の納入価格の下落不安要素を最終原価方式にどの程度織り込んでいるか。本誌で「最終段階に入った流通再編と卸企業動向」で提案した卸経営改善策の中で2年先を見込んだ「最終原価方式」を肝に銘じて欲しい。要は、経験的にいわれている1年で1%、2年では結局2%の納入価格下落を、見込んでいるかということである。果たして現在の「最終原価」がいつまで機能するのか品目ごとに慎重に見定めて置くこと、即ち経時的に「最終原価」の有効性を判定し対応することが欠かせない。(詳細は本誌10月14日通巻731号正念場を迎えた流通業界「最終段階に入った流通再編と卸企業動向 (中)薬価改正と卸企業の新価格戦略 」を参照されたい)。
医薬品卸業としてはメーカーの決算内容、今後の開発品動向、流通戦略などを含めて、メーカーの今後の行方はシッカリ見極めて選別眼を磨く必要はあるが、万が一にもメーカーの当面の決算に同情して「最終原価」交渉に手を抜いてはならない。いくら苦しくてもメーカーの決算原価はまだまだ余裕がある。その点は、卸の原価は仕入価格であるとの再認識を行って欲しい。
「最終原価」交渉に手抜きは許されない。
昨年一昨年の二の舞だけは御免こうむりたいが可能かどうか。
債権滞留日数の短縮を目標としてあげた福神、関連事業の目途付けを発表した東邦の今後の1兆円挑戦戦略にも注目したい。
(閑話休題)
戦後の業界は共同体の役割を果たしてきた。共同体は内に向かっては結束を、外に向かっては排除の機能を持つ。いま構造改革・事業改革という名目で共同体の破壊が行われている。そして築いてきた共同体は次の進化を遂げようとしているように思われる。業界はどこへ行くのだろうか、ゴーギャンの言葉がチラッと脳裏をかすめる。
オオモリとの合併とスズケン東京営業部開設44周年を記念して行った「心のバリアフリー」講演会(明石洋子氏)は医療とMSを繋ぐ核心をついた好企画との評価を受けているようだ。企業とユーザーの心のあり方も隠喩的に提案しようとしているのではとの感想も聞かれる。こういう企画が時代認識をふまえたものということが出来るだろう。
C 後継者の育成〜待たれる真のイノベータ−〜
変化の激しい医薬品卸業界にあって、これからの業界をリードできる後継者の育成が欠
かせないテーマである。高齢者医療改革案が提案され2005年成立へ向けて動き出すなど、医療改革が愈々本格化する時代に入る。国民皆保険発足以来50年続いた現行体制のもとで業界秩序も幾多の軋轢を克服しつつ確立形成されてきたが、これからの1年1年は医療経済の安定を目指し新しい基盤が固まっていくときである。業界の進化がなされようとしているこの時点で、経営環境として営業も管理もシステムも大きく様変わりしていくわけで、こうした進化を遂げようとしている時代の変化に対応した人材の育成こそが肝要である。それは創造的破壊の過程ともいえる激動期にあって、英知を持ってリードできる「企業革新者」(真のイノベータ−)の出現期待である。
D 結び:社内管理体制〜粛々と事業構造改革を敢行できるか〜
まず足元を固めよう。中間決算で折角順調なスタートを切ったかに見えても、足元がぐらついては元も子もない。下期においては、受診動向などの影響を受けての売上低迷、不良債権の浮上、納入価格の下落この3点に集約した管理体制の実行が肝要である。そしてこれらを推進するためには、何よりも大切なのは社内経営のガラス張りによる不透明な処理の排除が粛々と実行されることである。格好よい処理があたかもそれが真実のようになされることはよく引き合いに出される失敗事例である。
この不況下で管理体制を推進することは経営者にとっては文字通り「苦しみの連続」の筈である。中間決算がまずまずだからここらで一寸一息つこうという考えが出てくることが容易に想定される。
しかし今は単なる一里塚でしかない。本当の成功は2003年度決算で卸企業の将来展望が拓かれたときである。瞬間風速的な中間業績好調のムードに酔い、改革路線に甘さが出ないように気を引き締めていきたい。 (国際シュンペーター学会会員 丹羽武正)
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