トップへ

<正念場を迎えた流通業界>

最終段階に入った流通再編と卸企業動向

    (下)流通改善の光と影〜卸企業の将来像を探る

前号では薬価改正後の流通価格実態を事例検証した。実態は1次利益+2次利益?3次利益となっているから一歩前進していることとし、卸企業の新価格戦略について方向性を提示した。21世紀の卸自立に向かって確かな「光」が差し込んでいるといえる。しかし、「光」には革新流通創造をさえぎる「影」が伴うものである。「光」の部分に未来を委ねつつ「影」の部分があることを常に意識していくことが流通革新を担う流通業が抱える課題であることを忘れてはならない。今は、実り豊かな卸企業の将来像を描いて決断すべき時期である。

 

「価格決定が遅れている」

薬価改正後、半年を経過しているのに、ユーザーとの価格交渉が遅れているという。卸連では、早期妥結を会員に要望した(9月11日)。遅れている要因として@ユーザーの入札に対する意思がないA卸としても早期妥結を申し入れていないことがあげられているという(12日日刊薬業)。

早期妥結要望が公正取引委員会として「独禁法上問題ない」としているが企業経営の基本を推進しようとする行為であり、当然のことである。しかし一体、価格未決定の原因は医療機関にあるのか、それとも卸自体にあるのか。そもそも価格の交渉は、当事者(卸と医療機関)の合意でなされるもので卸連の発言はその当事者への要望であると共に当事者を支える諸要因(メーカー、患者など)すべてに対し問題を提起し総括して表現している。

 

「改善されているといっても年度が終了して初めて実現することである」

1次利益+2次利益?3次利益とやや改善された状況で薬価改正後のスタートがなされていることは前述したし卸サイドのメーカー交渉の成果ではあるが、2次利益、3次利益とも個々に決定する価格交渉ごとに確定するわけではなく、半年なり1年なり一定の期間が経ってはじめて実現する利益である。個々の価格交渉の時点においては「未実現」勘定を考慮しながら売り上げざるを得ない。そして、納入価格が今後ダウンするようであればダウンにスライドして2次を増やすこと(本来なら仕切価格を直すべきであるが)を確約しておくことは前述した。MSに対する評価を「利益」重点に転換し、仕入原価が判らぬままの過度の価格競争を脱却していこうとする環境に進みつつあるようである。

じっくり腰をすえた営業展開を望みたい。

 

「メーカーは競争格差が平準化されるままでよいのか」

薬価算定の透明性、流通価格の透明性、流通業への適切なコミッション提供による安定供給基盤の確立、健康産業の世界創造が望まれる。市場競争の結果生じる経済的格差は市場に参入した際の初期条件の格差に依存するといわれるが、現状打開の議論が進まずに居る事は、それだけ新時代移行への時間稼ぎにもなり、医薬品全企業が平準化されて、競争格差を生じない状況を生みつつある。主要各社別の流通価格は前号で分析した通り1次利益+2次利益?3次利益として文字通り横一線である。これで差をつけようとすれば、画期的新製品がない限り、拡売意識付けを図るしかない。グローバル経済は結局のところ価格の引き下げゲームである。流通ガバナンスをどこに持たせるか。これが課題であろう。メーカー、卸、医療機関それぞれに、護送船団方式に満足せず、苛立ちを覚えマイペースを実現したいとして独自の道を歩む革新企業も出てくるのではないか。

 

「患者ニーズが革新の決め手」

ゲノム創薬時代を迎え、情報量が多く、開発投資もシステム会社と提携が報じられている。その開発投資も各社が現在想定しているものの数倍の規模となることが予想され、具体的成果導出のためには巨額の投資となる事が予測される。システム構築の巨額費用の実態はこれから明るみに出てくる筈である。IT投資負担が危惧されるが、それがまた企業合同の引き金になる。

医薬品需要の効率化方向が見えないから、供給サイドは動けない。護送船団の安泰、薬価は改正の都度、下げられる事は明らかであるし、薬価基準削除も含めて、ジリ貧が続くだけであろう。自由価格制、DRG、民間保険の導入、保険給付の効率性、など「日本的医療システム」の大変革スタートが目前である。創造のための生みの苦しみ、創造的改革の過程である。現在の医療経営体系が、バリューチェ−ンにより幾つかの単位に分割され、新たな医療経営体系へ統合され結合されていくことになる。そして行き着く先は、需要と供給のバランスの取れた医療経営である。これが革新流通の辿る道であろう。

前途多難ではあるが健康産業としての21世紀の希望を明確にして、常に「患者」のニーズを念頭に、治療の透明化などベストの効率化を求め革新していくことの大切さが報じられている。過去からの体系と個々の意識された革新活動との間の、変化する相互作用は敏感かつ微妙である。革新は多様性を創造し多様性は発展する過程において、革新による競争を実現可能にさせる。次々に競争は利益をもたらす革新の研究を刺激し、その過程で、革新システムを創造するものであろう。

 

「購入側も無い袖は振れない」

医療機関サイドの経営実情をしっかり見極める必要がある。この4月以降、患者の減少が続いている。経営改善効率化が遅れている医療機関への刺激を狙いとしてなされた医療制度の諸改革も、患者が減少する流れの中ではインセンティブ策も獲得できない医療機関が増え、一層経営格差を高めることになろう。今後は患者負担増の受診動向も考慮せねばならず、薬価差を縮小できる環境にはない。経営の苦しい卸が提示した価格を理解は出来ても了解できる経営状況にはない。グループ購入も視野に入れて交渉してこよう。

(注)新流通幕開けのときの業界環境は(上)の項で回顧したが、ここでは平成4年の項だけを再掲しよう。

年次

     流 通 改 善

       薬 価 関 連

1992年(H4)

・「完全建値制」の新仕切価制度へ移行

・厚生省−「流通改善実態調査」実施

・流近協−「医療用医薬品の流通近代化の促進について」を報告・大口ユーザー問題見合わせ

<第1ラウンド>薬価算定方式「加重平均値一定価格幅方式」に変更(R幅15%)

8.1%薬価引下と医療費引上 バランス 

●インフルエンザ・花粉症〜卸の好決算〜業界安泰の謳歌

平成4年は医療機関経営に配慮し医療費も引き上げ、患者動向もプラスであった。今にして思えば、流通改善実現千載一遇のチャンスであった!今回は健保法改正による患者負担の増大と、長期収載品の薬価追加切り下げが影響して「医薬品市場はマイナス成長」と見られている。健保法改正による患者負担の増大、財政的にも無理を生じさせる。短期的には、診療報酬に手をつけざるを得ず、今回初めて引き下げられた。

 

「本番を迎えた医療経営の実態に今こそ関心を」

厚生労働省改革本部が医療制度改革の課題と視点として高齢者医療を提起して来ている。独立保険、突き抜け、年齢リスク構造調整、一本化。要は、無条件の出来高払いの是正という医療保険審議会での論調をベースとしている。

市場万能、伝統の保守,秩序の維持という20世紀型保守主義の信条から流通革新への処方箋が求められる。医薬品の需要供給の効率性は、医療の特殊性から需要と供給の市場原理に委ねれば必ず実現されるという保証はなく国民経済の観点からの評価が必要である。

平成14年版「厚生労働白書」は「画期的な医薬品が国民に対して、出来るだけ早く合理的な価格で提供されることを実現していきたい」とし、「21世紀においても、わが国の医薬品産業が発展を続け、質の高い医薬品を開発できるようにすることがきわめて重要」と指摘している。

医療制度の歴史の中で、国民皆保険(1960年)により革新企業者となった医療機関は国民所得の安定成長と密着して経営基盤を確立し絶大な独占イノベーション利潤を享受してきた。革新の反作用がブーメラン効果によって50年前の革新者医療機関に及ぼうとしている。

コンドラチェフの50年周期説は前回触れたところであるが、1960年のイノベーション後の調整期を迎えた今、財政問題を背景に医療利益の平準化が求められているともいえよう。

 

「卸契約から総代理店契約へ〜新流通ビジョンが示唆するもの」

いわゆる「大口ユーザー問題」を独禁法ガイドライン41ページではこう規定している。『(6)なお、次のような場合であって、メーカーの直接の取引先が単なる取次ぎとして機能しており、実質的にみてメーカーが販売していると認められる場合には、メーカーは当該取引先に対して価格を指示しても、通常、違法とはならない。(以下略)』

この問題は、卸の価格決定権、卸機能の定義、範囲、契約書とその取り扱い、更には卸機能対代理店機能、医療機関の購入体制の変化や何よりも現実の価格交渉および納入価格と仕切り価格の乖離実態などを勘案し、創造的流通制度確立のためにメーカー、卸ともに総合的に検討すべき時期に来ているように思われる。メーカーの系列卸も商社機能という大義名分によりグローバルにオールラウンドの流通業の使命実現を目指していける。

メーカーにも自社品は処方工作が成功しても価格への関与不能、目標達成が保証されないアローアンスの支出などのジレンマがある。

卸サイドにも積年の不満がある。医薬品卸業の自立が阻害されている最大の原因は、「メーカーと卸の間に横たわるリベート、アローアンスなどのウエイトが余りにも大きいために、日常の取引の中で、卸が自分の利益を売値との間で正確につかめないことにある。利益が半年後でないとわからない。しかも、売値と経費が先行して決まっていくために、結果として生命線をメーカーに握られているといわざるを得ない。卸が生き残るためには、メーカーから利益を獲得できるかどうかの交渉力を持つしかない。(月刊 卸薬業8月号)」

卸再編の最終ラウンドである。ビッグ2の動向、注目される次の4社がどう流通地図を塗り替えるのか。医薬品流通業の本質は何か。「卸」「問屋」「代理店」「商社」「運送業」「治験代行業」等、いろいろ挙げられるが、同義語であろうか?医薬品卸として、どの機能を目指すか、社会が求める機能にどう対処し取り組んでいくのか。

健全な医薬品卸売業経営「医薬品卸の復権」のために、医薬品流通業の存在を正しく位置付ける大切な時期であり、合併や提携による対応、調整にのんびり時間を掛けている暇は無い。

 

「一つの思想を考え抜くことは、その結果としてただその不必要さが判るという時でも、尚一つの功績でありまた必要であろう。かくてわれわれは真摯に各々の理論を理解することに努める。克服をではなく理解を、批判をではなく習得を、単なる肯定或いは否定をではなく分析と各命題における正しきものの抽出とをわれわれは欲する。」

J.Aシュンペーター“理論経済学の本質と主要内容” 1908)

(国際シュンペーター学会会員 丹羽武正)

 論文タイトル