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正念場を迎えた流通業界

最終段階に入った流通再編と卸企業動向

 (中)薬価改正と卸企業の新価格戦略

 

前号で平成4年から始まった10年間の「流通改善年表」に基づいて新仕切価制度がスタートした時点からの歴史を振り返ってみたが、今年の薬価改正こそ革新の流通時代の幕開けとなるべき「時」を迎え、卸経営の原点として薬価改正をどう捉えるべきかが大きな課題となってきている。しかし、薬価改正後、半年近く経っても、価格交渉は従来以上に難航している。そのため、某大手卸のメーカー別の粗利益からその実態を探ってみた。

 

メーカー別損益構造の比較

別表1は某卸企業での上位10メーカーの粗利益(1次、2次、3次)の状況で、1次の高い順にならべたものだが、この別表1を概観しながらメーカーの政策を理解し卸経営の課題を解く手がかりとしていきたい。

 

1)1次の比較(1次=売上−仕切)

一次とは卸企業が仕切価格で販売した場合の利益がどうなるかを示すものである。仕切り価格で納入価格を補えれば1次は0、すなわちツーぺーでこの段階では利益がないことになる。マイナスであれば一次で赤字になることを意味する。通常の卸売業であれば一次段階で適正な利益を確保できる。医薬品卸業では、この某卸企業の場合でも、1社のみが0で、他は1〜2%のマイナスが4社、マイナス3%以下が5社もあり、10社の単純平均が2.7%のマイナスというひどい状態にある。

メーカーは薬価改正に対してほぼ100%スライドで対応したといわれている。

ユーザーへの納入価格をどうするか。それは卸が決めていく問題だが、ほぼ100%スライドで対応したことは市場の条件を薬価改正後も変えようとしなかったことを意味している。メーカーは横並び思想の下に「みんなで渡れば…」ということになる。1次の比較をしてみてメーカーには平成4年新流通に対応した時のようなエネルギーは見られない。仕切価格の尊厳性確立よりも、現実決算直視だけの短期ビジョンに支配されているようだ。

卸の流通自主性に信を置いて仕切価格を設定する場合は、対応率を高めて薬価が引き下げられた率よりも多く仕切価格を引き下げる、すなわちスライド率を100%以上にしなければならない。卸の価格形成力の現状から1次利益は適切に獲得できず、結局は2次に依存してくることになるわけである。一方、メーカーが対応率を下げて仕切価格を厳しくすれば、卸の販売活動を牽制し、再び再販売価格維持に動く危険性もある。公取指導下の業界としては特例を除いて、薬価ダウン率にスライド対応することが一番無難であり、仕切価格も納入価格も従来の対薬価率を変えないほうが、流通段階の理解も得られやすく、抵抗も少ないと考えたものであろう。

 

(注)対応率とは:薬価改正後、新仕切価格を設定する場合、薬価ダウン率に対し何%対応するかの割合のことである。対応率100%ということは薬価ダウン率と同率にするということ。例えば、従来薬価基準100に対し仕切価格90となっている場合、仕切価格の対薬価率は90%(仕切価格90÷薬価基準100×100%=90%)。仮に薬価が10%ダウン(C)すれば新薬価(B)は90になる。この場合新仕切価格をいくらにするかがスライド率の問題になる。ケースを挙げてみるとこのようになる。

 

旧薬価100、仕切価格90:新薬価90の事例

 

スライド率

  D

仕切価格

ダウン率E

新仕切価格A90×E)     

対薬価率

A/B×100

ケース1

ゼロ(C×0)

ゼロ

90

100

ケース2

50%(C×0.5

5(95%)

85.5

95

ケース3

100%(C×1.0

10(90%)

81.0

90

ケース4

150%(C×1.5)

15%85%)

76.5

85

 

調整幅2%が今後とも継続することを考えれば仕切価格は薬価ダウンにスライド連動(スライド率100%〜ケース3)しておくことが一番自然であり流通段階でも混乱が少ない。メーカーとしては2次、3次即ち正味のところで調整可能だから仕切価格はいわば名目的なものとして、体裁を整えただけと思われる。

 

2)2次の比較(1次の不足を補う)

2次はいわゆるアローアンス類で、金融割引・数量割引なども含まれるが、月次などの販売実績等に応じて契約として支払われる販売報奨金である。10社の単純平均で6.8%、メーカー別には56%が4社、78%が5社、8%以上は1社となっている。1次+2次で4.1%となりやっと赤字脱出。仕切価格設定では各社の事情、従来からの市場状況があって仕切価格水準は異なり1次にはバラツキがあるが、2次段階で各メーカーとも1次を調整しての対応となってきている。これには、この事例卸企業の恐らく全社を上げてのメーカー交渉の成果であろう。全卸企業が個別にこういった切実な粘り強い交渉成果を上げていることと思う。

 

3)3次の比較

3次は期末に支払われるリベート類である。原則としてメーカー・卸間であらかじめリベートテーブル等による契約報奨金である。販売金額テーブルがメインの基準であるから、各メーカーとも当該卸企業が主力であればほぼ横並びになる。この卸の例では10社平均が3.5%。メーカー別に見ると、23%が2社、34%が4社、4%以上は2社となっている。

 

4)粗利益計

 1次+2次+3次を粗利益とする。10社平均で7.6%。総経費率を8%とすると、0.4%の赤字となる計算である。総経費率を7%としても、辛うじて0.4%の黒字。

メーカー別の粗利益率は、7%以下が3社、78%が6社、8%以上は3社である。(図1参照)

卸としてはこれをしっかり把握して、生きるための経営に徹し、メーカーに対して品目戦略を駆使してキッチリ最終正味仕入れの価格を交渉する必要がある。

 しかも、薬価改正レンジに合わせて、2年後の納入価格状況を視野に入れて納入価格がダウンするようであればダウンにスライドして2次を増やすこと(本来なら仕切価格を直すべきであるが)を契約しておくことが肝要である。平成4年以前の業界の歴史において、薬価仕切・納入価格までの値引き・値引き後の実績へのバックマージン還元・リベート提供という時代があったことを思い起こす。更に、新流通の段階で1?2次?3次との流近協の指導があったことは、前回の流通改善の歴史で見た通りであるが、実態を見ると1時代前の状況さえ思い浮かべ暗澹たる感じもしないでもないが、1次+2次?3次となっているから前進してきていることは確かである。21世紀を迎え、今こそ創造的流通革新実現の腹を持ってこの大切な2年を凌ぎきっていかねばならない。

医薬品流通業として自らの地位を確保してこそ持続する医療経済コミットメントが可能で、そこにこそ生きる「目」が「道」がある。

 

卸の価格戦略への新たな視点

@ メーカー別利益構造の徹底改善

卸としてコスト削減努力が経営として結実するためには上述の通り最終正味仕入れ価格の交渉がポイントになってくる。

Aユーザーの選別

非常時のマーケティング。オイルショックの時のあの緊張した商品供給を経験してきた医薬品卸企業なら、卸が生き残るためのユーザーの選別がどうあらねばならないかはわかるであろう。あの時は世界規模で仕入れが限定された中での、ユーザーへの安定した商品安定供給の確保に奔走した。今は、自社の生存をかけた試練の経営環境である。

今までは掛け声だけに終わっていたが、MSの口座維持依存営業からの脱却、極端な安値先は降りること、債権の不安先の徹底解消を実行していくべきである。

いずれにしても、プラスの部分を正当に見て、それを生かす積極姿勢を取る必要がある。

「医薬品業界もさまざまな問題が起こってくる。いろんなケースを想定して、最悪の事態でもここまででストップをかけられる、そのことを覚悟してできるだけよい形に収めていくという姿勢で取り組んでいくべきである」

これはある医療機関の責任者M氏の言だが、味わい深いものだと思う。

医薬品供給としては長期投薬や後発医薬品の使用にかかる環境整備が推進されるし、医療経営としては生活習慣病指導管理料の新設も画期的な動きである。流通業界の革新により、創造的発展を目指した現状破壊の過程が真の流通改善への道となることは必死と思われる。革新による創造的破壊の方向性を固めそれをどう実行するのかの観点から事態の進展を見守りたい。

コンドラチェフの50年周期の長期波動は、社会と思想の進化についての大規模なレトリックであるが、製薬業界にとっての長期波動循環としてみると、国民皆保険実施(1960年)による医薬品業界の革新が50年を経て(2010年)、新たな医薬品業界革新の時代を迎えようとしていることは間違いない。

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