<正念場を迎えた流通業界>    論文目次へ
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最終段階に入った流通再編と卸企業動向

    (上)薬価改正後の問題点を探る

 今年の卸企業としては、昨年暮に公正取引委員会からお灸をすえられたこともあり大事にしたい出発点である。思えば、1981年(昭和56年)にヤミカルテル疑惑で医薬品メーカーが公正取引委員会に立入検査を受けて20年経過している。製薬協がカルテル排除勧告を受けた83年(昭和58年)再販売価格維持の廃止をメインにした「建値制」に移行するまでが10年(平成4年)。移行してから昨年の東北地区卸が排除勧告を受理するまでが10 年。長い流通改善の歴史の中でも特筆すべきこのH4年からH13年までの10年間を流通問題に焦点を絞ってみると、今年こそ正念場の年といわれる所以である。

 

10年前の新流通はどうスタートしたか

まず、本題に入る前にこの10年間の流通変革を振り返ってみることにする(年表参照)。平成3年〜4年にかけて「流通近代化」の波が押し寄せた。即ち、SII,流通近代化協議会、厚生省、公正取引委員会、日本製薬工業協会、卸連、そして医療機関、メーカー、卸企業。業界上げての取り組みであった。当時の本格的仕切価制に対するそれぞれの考え方は概要次のようなものであった。

1.厚生省(H4年1月)

@適切な仕切り価格の設定

A仕切価格を出来る限り早く特約店へ提示してほしい

B医療機関への公正な販売

C値引補償に実質的に代わるものは一切慎んでほしい

DMRの行動の適正化

E薬価引き下げ分を量でカバーすることは慎んでほしい

Fリベートの適正化

2.流近協の提言(H3.2)

「メーカーについて」

@仕切価格の適正化と薬価告示後速やかな提示

A値引補償やこれに相当する行為は一切行わない

BMRは価格面での交渉は行わない

Cリベートを縮小し、仕切価格に反映するとともに、支払条件を明確かつ透明にする

「卸企業に対して」

@すべての医療機関に対し節度ある取引を行う

A営業担当者の研修、医薬品情報の提供、利益管理システム等の充実により経営体質の強化に努める

B過度な薬価差要求の受け入れ、取引価格の未妥結、仮納入、総価山買いの受け入れ、さらにはメーカーへの値引補償の要求は行わない

Cモデル契約の締結を進める

「医療機関等について」

@流通改善の趣旨を十分理解し、医療経営見直しの契機とする

Aすべての医療機関に対し公正に販売されることに鑑み、過度の薬価差要求、仮納入強要、総価山買い等、不適切な取引慣行の是正

Bモデル契約の締結を進める

 

革新の流通時代と現状

新流通スタート時点と現在を比較して見ると、 “いつかきた道”を実感せざるを得ない。21世紀初頭の行政サイド、医薬品業界の毅然たる政策推進が注目されるところである。新流通の行方、即ちそれは革新の流通であり、新流通の進む道は、時代文脈からすれば超流通、IT流通をも含めて、革新の流通時代という言葉が相応しい。

昨年の中医協薬価専門部会6月取引分について自計方式で調査した際の業界の意見として

@医療機関は調整幅を薬価差2としか評価していない

A仕切り価に上限を定めるようなことはどうか

Bメーカーの仕切り価も医療保険制度の枠内で考えよう

C薬価改定頻度を多くすれば全体のパイが小さくなる

D卸の経営実態をもっと理解してもらう

E価格妥結率が低いのは調整幅が小さいからだという論法は説得力がある

などが挙げられていた。

20年前の「被疑事件」から10年前の「新流通」時代を経てきているが、今日の議論は、新流通を踏まえて、以前の方が良かったという議論はさすがにないだけ進歩はしている。しかし、実態はどうだろうか。相変わらず護送船団ではないか。競争回避型システム。ぬるま湯の快適さを維持している。上述の意見も@は医療機関のバイイングパワーABはメーカーへの批判CDEは調整幅への責任転嫁でしかない。流通再編を担う卸としてあまりにもビジョンがなさ過ぎるように思われる。

 

10年前の新流通はマントラになりつつあるのか

新流通はマントラ(呪文)になりつつある。医療経済の効率性とは需要と供給の事情原理に委ねれば必ず実現されるとの保障はない。医療経済の中で医薬品の占める割合は高々2割でしかない。独禁法による[被疑事件]だけを負い目としているが、マントラから脱出しようとはしていない。

本当の弱者は「患者さま」来年からは負担が増える、病院経営の悪化も伝えられる(H4年は医療費引き上げと流通改善がセット)、ポジティブな健康産業を目指すための無駄の排除こそが望まれる。薬価算定の透明性、流通価格の透明性、流通業へのコミッション提供による安定供給基盤の確立そして安定した健康産業世界の創造が望まれる。

市場競争の結果生じる経済的格差は市場に参入した際の初期条件の格差に依存するといわれるが、現状打開の議論が進まずに居る事は、それだけ新時代移行への時間稼ぎにもなり、医薬品全企業が平準化されて、競争格差を生じない状況を生みつつある。革新の起りにくいぬるま湯の環境になっている。割戻し、拡売意識付け、アローワンス・・・・。グローバル経済とは言うが、結局のところ価格の引下げゲームなのだろうか。流通ガバナンスをどこに持たせるか。これが課題であろう。苛立ちを覚えている企業も出てくるのではないか。

 そして、第6ラウンドは、最終ラウンドにもなり「正念場ラウンド」と言った方がいいであろう。

長期収載を含め大幅な薬価改正によりメーカーも真の流通改革へ向かって責任ある仕切価格を実施すべきだし、卸も今度こそ流通業の砦、機能を守る為にも、メーカーの仕切価格を厳正に審査し卸としての主体性を主張すべきである。

 

改善の為の幾つかの提案

○卸のこれからの経営は2年後の納入価の状況を念頭に行なうべきである

4半期決算移行が行われれば尚更、いよいよ長期視点に立った経営の舵取りが求められる。

卸各社は自社経営の責任を果たすべく厳正な仕切価格審査を行い、2年間という中期レンジで十分メーカーとの正味仕切価格の交渉を行なうべきである。納入価水準にリンクしたアローワンス、リベートの契約が望まれる。薬価改正が2年毎であれば経営の考え方も2年を期間として経営・利益計画を立てたほうが賢明である。

調整幅2%は年に1%ずつ納入価格が下落する経験則からすれば2年経ってチャラという裏の真理も踏まえるべきであろう。H14年の第一四半期や第二四半期の経営状況が一瞬改善されたかに見えるのは、長期視点を無視した安易な判断であり、是をもとに、行なっているリストラや流通改善の推進力が弱まらないように肝を据えていくべきだろう。

メーカーは売れなければ困るが、卸は適正な利益が出なければ生きられない。今年のトップが語る内容でも判る通りメーカーが「困る」のと卸が「生きられない」のでは温度差が違うわけだから卸としては、不退転の真剣な対応が必要である。

 

仕切価格審査の基準

 自社の市場を区分し、価格分布を把握する。これに品目を縦軸にしてマトリックスを作りあるべき仕切価格、正味仕切価格を作成する。その場合市場別の損益を2年のレンジとする。メーカー別に集計してメーカーへの交渉手順を踏む。メーカーも4月以降の状況を踏まえ年度決算を考慮してくるこの時期こそ、交渉第二段の好機である。

今年度は特に調剤薬局市場を重点的に審査する。債権管理も加味しておく事は当然である。経験則によれば遇数年の調剤薬局動向、特に薬価改正を境にして2年間に大きく不安化する先が多いからである。債権管理を甘くすることの怖さは十分に経験済みのことである。

大口ユーザーのメーカー交渉も曖昧にせず、場合によっては納入価はメーカーの直接交渉としデリバリーだけを卸が担当することも一案である。卸数も集約化されてきているし、共同購入へのシフトが今年は相当進展しそうである。この場合は再販売価格拘束の違反にならぬよう別契約にすることなどが肝要であろう。

 

○止まらない過当競争、粗利益の低下は卸の機能が評価されていないということの証明である。これでいいのだろうか?

メーカーは仕切価格の明示を行い、卸は調整幅2%を勘案した粗利益の取れる仕入れ価格の審査と適正な販売価格の設定と年次実行推進を行なうべきであろう。

別紙資料:「真の流通改善へ向けて」を参照ください。これにより平成14年から始まる6ラウンドを平成4年から始まった第1ラウンドからの経緯と比較対照する事ができるものです。歴史は繰り返すのか、それとも今度こそ流通改善を実現できるのか。流通業者のビジョンと実行力に掛っている。

 

流通再編について

再編は6つ位の流れに収束されたといえる。ここでは詳細は避けるが、顧客視点の提案型営業としてグループ的ゆるやかな提携の方向で進めているケースや経費率の削減に焦点を当てて取り組んでいるケースの帰趨が注目される。

前に発表された、製薬協・流通適正化委員会の「医療用医薬品流通ビジョン」によると、2010年には卸企業50社、e−コマース時代の到来でメーカーと医療機関とが直接価格交渉をする時代が来ることを予測している。これこそ、卸企業の方向性を如実に示しているといっていい。それは卸企業の商社化、これまでの卸契約から総代理店契約(一手販売権の付与)という取引形態も示唆されている。フィーが確立されればDIサービスが決め手となるかもしれない。こうなると卸企業は物流と医薬品情報に特化しなければならなくなるのだが…。

 

業界動向と卸企業の進む道

公正取引委員会の排除勧告受託で過度に慎重に対応している印象がある。メーカーにも医療機関にも甘く見られてしまう。卸業の存立を目指して活発な企業展開が望ましい。苦しいですから助けてくださいとのお涙頂戴では本質的な問題解決にはならないと思う。

メーカー、卸の関係4団体の流通問題担当者で構成される流通適正化研究会が「医療用医薬品流通の一層の推進について」提言し、価格や取引条件の決定はメーカー、卸の 自己責任を基本とし、平成7年の「流近況提言」の原則に準拠するとの事である。業界は別紙により流通改善10年の歩みをここで振り返ってみて何をなすべきかを確認すべきであろう。

卸として何をすれば良いか。自社の損益構造実態を冷静に認識する事から始めるべきであろう。ITとか難しいことはいらない。そんな事は言わなくても、データをジックリ見れば実態は自ずから浮き上がってきて問題点が判ってくる筈である。自己のテリトリーの施設別品目別の正味納入価を過去と現在を時系列的にプロットしてみる。そして、施設別全品目の正味納入価を並べる。自社の標準粗利益率を基準にしてABCに3区分してみる。こうすれば、どう経営を進めればいいか方向性が定まること自明である。

 

ほど遠い真の流通改善

卸連として4月薬価改定に伴う医療機関等との価格交渉・改定に伴う一連の作業は、経営計画の見直し後に行なうべきと提案。病院などへも協力を求めて行くことを表明した。要望書では「取引価格など取引条件にかかわる事項は、団体または同業者間で話し合うべきものではなく、各当事者が個々に、自己の責任に於いて決定すべきもの」としている。これは新流通時代の第一歩として高く評価したい。

確かに、大手卸企業のなかには強引なバイイングパワーに対して納入拒否まで打ち出したところもある。しかし、現状では卸連が要望するような経営計画に基づいた自己責任による説得力ある納入価提示にはなっていないようだ。そのため、これまでと同じことの繰り返しになる可能性のほうが強い。