意見書


1. 胸部X線上の右肺動脈下行枝について

 胸部X線上の右肺動脈下行枝(以下PA)の正常幅は一般の文献(甲B15号証、甲B16号)によると15mmである。16mmと記載されている成書があっても不思議ではない。なぜならこの基準値は絶対的な数値ではないからである。動脈の太さなどは体格によって異なるから、絶対値など設定できないのは当然のことである。臨床の知恵として胸郭全体の大きさを見て、PAの太さと近隣の肋骨の太さと比較したりして判断するのである。その時の判断基準となるのが15mmということである。本症例はPAの太さは20mmであるからいずれにしてもPAは拡大していると言える。また肋骨の太さと比較しても明らかに拡大していると言える。15mmとか16mmとかいう議論は臨床を知らない者の議論である。
 問題の本質は全く別のところにある。患者の死後、X線写真をぴっぱりだしてPAの幅を測定しても無駄なのである。12月15日にPAの幅を測定することが大事なのである。そして肺動脈高血圧症(PH)を疑ったかどうかなのである。S医師にはその認識がなかったのである。そして一回のX線像ではなんとも言えないので経過を追ってPAを観察して行かなければならなかったのである。つまり1ヶ月後、2ヶ月後も胸部X線撮影をしてPAの幅を比較検討しなければいけなかったのである。そのことがなされていないことが問題の本質である。

2.心電図所見について

 平成10年12月15日の心電図(以下ECG)所見については被告側が肺性Pと認めているものであり(被告準備書面(3))なにが言いたいのかよく判らないものである。U、aVfではむしろ0.3mVくらいあり、V誘導で0.25mVである。循環器の専門医によくみてもらってから準備書面を作成されたい。いずれにしても肺性Pは明らかである。12月26日のECGで胸部誘導の波形が電極位置によって異なるなどという主張は根底から病院全体の責任を認めるようなものである。開業医レベルでは看護婦がECGをとるので多少、電極位置が異なることがあったりするが、大学病院を含めた大きな病院では検査技師がとるので電極位置が異なることはあり得ない。検査技師のプライドをいたく傷つけるものであり情けない主張である。
 ここでも問題の本質は全く別の所にある。ECGは一回の所見もさることながら前後で比較することはもっと大事なことである。12月15日のECGをそれ以前のECGと比較したのかどうか、また12月26日以降も頻繁にECGをとり比較検討したのかどうかということが問題なのである。それが全然なされていなかったのである。

3.肺高血圧症の症状について

 肺高血圧症の典型的な症状は動悸、息切れである。成書を参考にされたい。肺高血圧症を積極的に示唆するものではないなどとは間違った主張である。12月15日の主訴は動悸息切れであり、12月26日はまさにその主訴が強くなって来院したのである。主訴は臨床の場ではもっとも重視することがらである。そのことを間違えて主張している準備書面はまさに信頼のおけるものではない。医学的根拠に基ずいて主張されるよう強く求められるのは被告側である。


平成16年1月13日

Y.A


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