「かごめ賛歌!」

 一刻会のそるとも一区切りかも…ということで、この際、恥ずかしながら告白いたしましょう。

 私はこの歳になって、一介のマンガのヒロインに惚れちまってます(^_^;)。子持ちの身でなんとまあ幼稚な、と自分でも思います、はい。まあ何とかの恥はかき捨てと申しますし、思い切り素直に心情を吐露するのも、少しは会誌の頁数稼ぎ(失礼!)に貢献できるかなと思い立ち、書かせていただきます。

 今更いうまでもないことですが、かの『犬夜叉』のヒロイン・日暮かごめ嬢…(ほらそこ、「天道かすみさんはどうしたんだこの裏切者!」とわめかないように^^;。それはそれ、これはこれ)いえね、昨年の冬コミで上京して久しぶりに会員諸兄にお会いするまではですね、単に「いい娘だよなあ」程度だったんですけど、犬夜叉本数冊からネット界を知り、膨大な犬関連HPの存在を知り、数々の「犬かご物語」に触れるに及んで、にわかに風向きがおかしくなったんですね。

 年が明けて数ヶ月…とにかく無性にコミックスを読み返してみたくなり(実は第5巻以降買い揃えてさえいなかった)、近所の古本屋で娘に冷やかされながら買って目を通してみて驚いた…かごめちゃんが光って見える(^^;)。あ、こりゃいかん重傷だと自覚してはや半年です。こういう感覚はうる星の時のラムにも、らんまの時のかすみさんにもなかったもので、なんでだこれは、と考えましたね。

 一つの理由はあれ、アニメ『犬夜叉』の存在だったかもしれません。ご承知のとおり、アニメでは桔梗復活あたりから妙に原作から離れ始め、犬夜叉もかごめも桔梗も性格設定がまるで迷走状態に陥り、原作ファンがあちこちで怒るわ叫ぶわ泣くわ嘆くわ、喧々囂々の様相を呈し、ついには監督の交代(一説には更迭とか…)に至りました。アニメでことごとくカットされたのは、軒並みいわゆる「犬×かご」の重要なシーンなものだから、アニメでこの作品の存在を知ってコミックスを買い揃えた方が「原作のかごめちゃんって、こんなに素敵な子なんだ」と某サイトに書き込んでいるのを見た時、妙に胸が熱くなったものです(^^;)。アニメのキャラクター設定が原作と異なって原作ファンが批判する構図、なんてのはそれこそアニメの歴史と共にあった現象で、珍しくもなんともない話。ましてやるーみっくでは長期連載過去3作の前例がまだ記憶に新しいというのに、毎週カミさんに頼んで録画してもらったアニメ犬を観続けるのがちと辛くなりかけた時期がありました。

 原作のかごめちゃん。コミックス第7巻までの彼女は、戦国時代という物凄い環境下においても、えらく前向きで元気があって、半妖である犬夜叉をまっすぐに見つめ、何の偏見も恐れもない態度で接します。この過程でるーみっくのお家芸ともいうべき「カップル漫才」といいますか、痴話喧嘩の風景が示されるんですが、実は主人公の特殊な生い立ちを考えた時、このことがいかに重大だったかに我々は気づかされます。地念児のエピソードで本人が語ったように、人間にも妖怪にも「異形の者」「半端者」と気味悪がられ蔑まれ、自分の特殊な力・要するに暴力のみが自分の居場所を保障するという過酷な世界観の中で生きてきた犬夜叉。巫女というやはり人間界で特殊な立場にあったために、偶然にも「似ている」と感じて、初めて心を開きかけた桔梗との仲を、奈落によって無惨に引き裂かれて封印された犬夜叉。でもそんな彼に対して真っ正面から「バカよ! あんた、バカ!」とわめくし「あんたが死んじゃうと思ったから…」と涙を流す。自分以外の誰も信用などできない、という凍てついていた彼の心を、かごめという異国の少女はごく自然に、ゆっくりと溶かしていくのです。彼女はまっすぐな視線をくれました。

 冷酷な妖怪・殺生丸の野心によって父の墓に連れ込まれた時、「一発殴りに^^;」ついてきたかごめが形見の妖刀を抜きます。人間を愛しむ心に反応して力を発揮するこの武器によって、犬夜叉の戦いに変化が現われます。彼女は鉄砕牙とそれを生かす力をくれました。

 桔梗が復活して、50年前の因縁が罠であったことを知った時「もとのかごめ」が目を覚ました。犬夜叉の安堵ぶりが彼女の存在の大きさを示します。「怒ってた方が犬夜叉らしいよ」という一言が、どれくらい彼を癒したでしょう。彼女は笑顔と安らぎをくれました。

 右手に風穴をもつ法師・弥勒との出会い。言動から彼の本質を見抜いたかごめが身を挺して戦いの仲裁に入り、犬夜叉にとっては初めての「相棒」が誕生します。性格の違いからしっくりいかない間柄でしたが、殺生丸との戦いの時に犬夜叉のかごめへの想いを痛感した弥勒は、二人のよき理解者になります。遠慮無しにタメ口をきく一方で、風穴を切られた事件では、弥勒に襲いかかる妖怪群を犬夜叉が鉄砕牙の一振りで吹き飛ばす…彼女は仲間をくれました。

 そして地念児のエピソード。深刻な身の上話を「嬉しい」といい、「時々は弱いところも見せてほしい」といい、「今は一人じゃないんだから…」といってくれる。彼女は居場所をくれました。

 成り行きで冒険を続ける中で、見返りを求めるわけでもなく、あくまで自然に着実に、かけがえのない存在になっていくかごめ。桔梗に口づけされた事件では、あまりに正直な気持ちを口にしたために脱力させてしまうんですが(^^;)、かごめはかごめ、代わりはいないとの精一杯の言葉を彼女は受け入れてくれます(その後の肝心の言葉を眠ってしまって聞いていないところがまた可愛い)。鋼牙の登場で嫉妬心を知った犬夜叉は、一度派手にケンカをすることになるわけですが、たとえ目覚まし時計にかこつけたぶっきらぽうな謝り方でも、しょうがないなあ…とばかりにかごめは受け入れてくれます(このあたりがアニメとの決定的な違いでもある)。

 奈落の罠で大ピンチに陥った一行を救った破魔矢の一撃(あんたって最っ低アロー、と勝手に呼んでます^^;)でも、「犬夜叉のことバカにして…頭にきちゃった」からだというのが重要萌えポイントなんですね。これは赤くなるわな。
 そして18巻。私自身「愛人宣言」だなんて茶化した時期もありましたが、あれは驚きでした。命まで投げ出した恋敵を見捨てることができない犬夜叉の苦悩に、「生きていてほしいから」「ただそばにいたいから」自らの意志で一緒にいることを選ぶかごめ。続く19巻では、変化の結果ただの人間を手にかけてしまい、「あれは化け物だよ!」と村人に言われた時の彼の苦しみを、何もいわずに「わかってるから…」と包み込んでくれるかごめ。弱冠15才の少女がここまでいけるもんだろうかと思いつつも、この娘が悲しむようなラストだけは想像したくない、と心底感じるんですね。

 結論。「そりゃ、惚れるって」(^_^;)。るーみっく歴代3大連載のどれよりも過酷で切なく、巨大な障害を間に抱えるこの主人公とヒロインの仲が、どんな結末を迎えるのか。いい年こいて「俺はかごめに惚れた」と胸中でだけ宣言している全国一体何人くらいいるんだろう男性ファン諸氏とともに、「かごめの笑顔で終わる最後のコマ」を切望しております。あー…恥ずかしかった。
[初出;高橋留美子作品愛好会「一刻会」会誌「そると16号」(2001年12月発行)]

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