左写真は、折れたステー部分およびクリップと、それがハマっていた穴です。穴の方が板金端面で受けているので、ひっ掛かって抜けてこない場合もあるわけです。ここでも分解性はあまり考慮されていません。中写真のように、このステー部分を直接こじれれば良いのですが、カバーがついている状態で、ここに直接アクセスするのはかなり困難と思います。外した部品は右写真です。左が前側で右が後ろになります。左から3番目が完全にもぎ取れていますが、他に一番左とその次も折れかかって白化してしまいました。まあ、こういう状態になっても、自分のやり方がヘボかったとか、落ち込む必要はありません。これは設計側の問題です。
最近の車は、この辺の内装材の作りが上手くなって、コストダウンも進んでいます。ここのカバーなんかも、シボの感じとか結構いい味だしてますが、材質はPP(ポリプロピレン)とPE(ポリエチレン)のアロイ材です。PP/PEはお安い材料で、環境負荷も少ないので、適用比率が高まっていますが、あまり丈夫な材料ではありません。また、外観とか難燃性を向上するため、添加剤を加えたりして、材質が余計に脆くなっています。形状もモールディングの引けを気にして、内側に突き出す部分は肉を薄くしたり、内角Rも最小限にしているため、とにかく折れやすいわけです。コスト、外観、軽量化、環境ときて、分解性などは優先順位が一番最後なので、一昔前の車と同じつもりでイジルと、そこいらじゅうがボキボキと折れまくります。
で、これで終わってしまうと、自分で配線を通そうという人は、怖じ気づいてやめてしまうか、スペアの部品を注文しないといけません。あるいは、専門のショップやディーラーに頼んだ方が安心と思うかも知れません。でも、専門のところに頼んでみても折れるもんは折れます。慣れている分だけ折れる可能性は低いでしょうが、もし折れたり、折れ掛かった場合は、そのままそ〜っと閉めてあとは黙っているだけかもしれません。つまり、オーナーは知らぬが仏の状態(!?)。次に自分で開けて折れていたとしても、その時に折れたんだと言われればそれまでですし(怖!)。まあ、どっちにしても、自分でやった方が納得がいくと思うのは私だけ?
じゃあ、どうするかって、折れたら直せば良いんです。救われるのは、エコ対策(リサイクルとか廃材処理)のために殆ど全てのプラスティック部品に写真のような材質表示がしてあることです。PP、PEの以外では、例えばPBT(ポリブチレンテレフタレート)とか、ABS(アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン)とか、PC(ポリカーボネート)とか、記号で書いてあります。記号の意味はインターネットなどでも調べられますが、要は一口にプラスティックと言っても、材質が違えば特性がまるで違うということです。裏を返せば、材質が分かればそれに合った接着剤も選べたり、対処のしようもあるというものです。しかし、ここで使われているPPとかPEとかは、表面エネルギーが低くて接着性が最悪です。何と言っても接着剤のキャップに使われるくらいなので、接着を試みても全く無駄。ゴム系、エポキシ系、瞬間系、全部ダメです。
というわけで、困っていたのですが、熱融着という作戦を思いつきました。幸い、PPとかPEは比較的低温でドロドロに溶けてくれて、素人が溶かしてまた固めても酸化したり強度が落ちることがあまりありません。だから、はんだ鏝で、はんだ付けする要領で、比較的簡単に補修ができちゃうんです。はんだ付けよりは、ゆっくりと熱をかけて、ジワジワと作業を進めます。母材も一緒に溶かす必要があるので、寒い場所での作業はダメで、事前に部材全体をドライヤーなどである程度暖めておくと作業がスムーズです。
左写真のようにセンターピラーのカバーの爪も、同じようにして補修しました。これは、思った以上に簡単で、しかもちゃんとくっつきます。中写真が、今回はんだのように使っている材料です。母材を溶かすだけで十分に融着できればそれでもOKなのですが、より丈夫にくっつけるためには若干肉盛りをする方が良いし、または母材が一部欠損しているような場合にも、肉盛りが必要になってきます。肉盛りには、母材と同じ材料を使うのが良く、部品自体から不要部分(あればの話)を切り出して使う手もあります。他に、スキーのソールリペア用のポリキャンドルも試してみましたが、これは強度不足で、まるっきりダメでした。
今回は、アンダーカバーの補修をやった際に出た残材を使いました。この材料は、PP−GF20というポリプロピレンにガラスフィラーが20%入ったもので、補修用には最適です。どなたでも自分のゴルフのアンダーカバーから切り取ることができます。詳細は「アンダーカバー補修」の項で説明してます。で、それを使って修理なった部品が、右写真です。元々よりもしっかりしてるくらいです。
あとは、好きなようにきれいに布線して、布線が終わったら元通りにカバー類を閉めればOKです。サイドシルのカバーは、金属のクリップ部分をプライヤーで少し摘んで、引っ掛かりを弱くしておくか、少し潤滑剤を塗っておいた方が次に外すときに安心かもしれません。この辺は、もう外す必要がないだろうと思っても、意外とまた外すことになったりするもんです。ともあれ、これでケーブル類を前から後ろに、綺麗に通すことができます。
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