(このページは、2003.09に書き下ろしたものです)

12.ブルーアンスラサイトパールエフェクト

 ブルーアンスラサイトパールエフェクト(以下、ブルーAP)という色は、VWの中では実はかなり歴史のあるロングセラー色で、20年くらい前から設定があったようです。しかし、ことGOLF4に関してはこの色は不人気で、ごく少数しか売れていません。ひとつの理由は、GOLF4におけるこの色がGTI専用色であるためと思われ、そもそもGTIの販売比率があまり多くない上、GTIを買うようなタイプの人から見ると、この色は地味に過ぎるのかもしれません。でも、じっくり見れば深みのある色であり、私自身はこの色をとても気に入っています。

 車の塗装色は、それを識別するための色記号があり、ブルーAPの色記号はLC7Vです。板金塗装などの際には、この色記号に対応する調色データというのを使って大まかな色を決めて、それに対して微調色を加えるのが基本的なやり方です。国産、輸入車を問わず、同じ色名(色記号)であっても年式等によって微妙な色違い(色ズレ)があることから、ひとつの色に対する調色データは、2〜3種類あるのが普通です。このLC7Vは非常に歴史のある色のため、調色データの種類が多く、しかも色の違いもかなり大きいようです。つまり、ブルーAPはVWの歴史と共に進化してきた色だとも言えます。

 さらに、このブルーAPは年式が近くても色の違いが起きやすいらしく、先日オフラインミーティングで同色車が3台集まった際に見比べたところ、それぞれ微妙に違った色をしていることが分かりました。私は自分でも塗装に興味があることから、先日お世話になった板金屋さん(プロフィットさん)で、この色の調色データを見せてもらい、技術的なことも教えていただきました。プロフィットさんは仕上がり品質に厳しく、非常にこだわりのある板金屋さんなのですが、そのプロフィットの塗装担当さんが「ブルーAPはガンメタ系の色の中では個人的に一番好きな色」と仰ってました。ちなみに、シルバー系の中では「BMW(E46)のシルバーが一番好き」なのだそうです。

 さて、 このブルーAPがどういう色なのかというと、分類上は「ツーコート」塗装の、その中でも「マイカリック」と言われる塗装です。アルミニウムの粒子(メタリックと呼ばれる)と、マイカの粒子(パールと呼ばれる)を両方含んだ色塗り層の上に、クリアと呼ばれるつや出し兼保護のための透明層をかぶせた、二層構造になっています。メタリックは金属的な鋭い輝きを、パールは真珠のようなやわらかな輝きを想像してもらえば良いと思います。それらを細かく砕いたものを塗りつけて、その上から透明層で覆ってあるわけです。マイカリックのツーコート塗装自体は、最近の車では非常にポピュラーな塗装です。

 メタリックやマイカは、光りの当たる角度や、見る角度によって、輝き具合が違って見えます。通常は正面(この用語の定義は難しいのでここでは省きます)から見たときに明るく見え、すかして(同)見たときには暗く見えます。こうした輝き具合の変化を専門用語では「フリップフラップ性」と言います。このフリップフラップ性は、メタリックやマイカ粒子の大きさや、形状(角張っているか丸っこいか)によって違ってきます。例えばGOLF4のシルバー色で言えば、サテンシルバーのメタリック(たぶんこれはマイカリック)は非常に細かく、リフレックスシルバーのメタリックはそれよりも粗めです。このため、前者の方がしっとりした感じに見え、後者はシャキッとした感じに見えます。

 明から暗へのフリップフラップは、その変化度合いが大きな色ほど、ボディの形状(フェンダーの膨らみや、ボディサイド下部への回り込みなど)が強調されて見えます。逆にフリップ変化が緩やかな色は、ボディの形状がのっぺりした感じに見えます。最近の国産車は、車室を広く確保しながら外装もダイナミックに見せたいため、フリップフラップ性の強い塗色が多くなっていますが、これが強すぎると、ギラついた感じの品のない印象になってしまいます。シルバー系の塗色は、フリップフラップの強弱がハッキリ出ますから、街を走るシルバーの車を見比べると面白いです。GOLF4のシルバーは、サテンシルバーからリフレックスシルバーに変わりましたが、前者は微妙で複雑なフリップフラップ性を持ち、後者はよりダイナミックなフリップフラップ性を持っています。VGJがこの色設定を変えたのは、国内シルバー色の流行を意識したせいかもしれません。

 ブルーAPはと言えば、パールには主に「ミディアムファイン」というやや細かめのものが使われており、メタリックは「ファイン」と言われるさらに細かいものが使われています。含有比率で見ると、メタリックはごく少量で、パールの10分の1程しか含まれていません。つまり、上品な輝きの細かめのパールをベースにして、そこに地味になりすぎないようにメタリックを加えてあるのですが、その際に細かなメタリックを少量だけ使うことで、派手なキラキラ感を抑えながら、やや控えめに、あでやかさを表現しているのがポイントです。近寄って見ても、木目が細かくて、落ち着いた風合いになっていると思います(ちょっと親馬鹿モードです)。

 さて、メタリックやパールはキラキラ感を出すだけであり、赤系や青系などの色合い(色相、彩度、明度)を主に決めているのは、塗料に含まれる発色材料(顔料)です。この発色材料は、メタリックやパールの粒子に比較すると桁違いに細かいものなので、イメージ的には「絵の具」のような滑らかなペースト状のものなのですが、顕微鏡的にミクロの目で見れば、やはり非常に細かな粒子でできています。粒子ですから、この発色材料も光の当たる角度や見る角度によって色が微妙に違って見えます。とくに、マイカ粒子と混ぜ合わさることによって、色合いの変化が強調されてきます。最近の塗料では、その色味をできるだけ美しく見せるように、光による見え方の変化を積極的に工夫しているわけです。例えていえば、宝石の粒子のような感じを出すようになっています。つまり、明暗だけでなく、色合いにもフリップフラップ性があるわけです。

 色合いのフリップフラップ性について、最も極端なのは「マジョーラカラー」と言われる、玉虫色の特殊塗装です。この塗装は、見る角度によって色相が180゜反転したりします(黄緑から赤紫とか)。R33GTRのミッドナイトパープルなどは、純正色にマジョーラカラーが設定された例です。マジョーラカラーのような極端な変化は、美しく見える反面、ハデすぎて下品になるリスクがあります。R33GTRの場合は、濃いめの色で、かつ変化度合いも抑え気味にすることで、品位を保っているわけです。マジョーラは極端な例としても、フリップフラップによる色相変化は、上手く活かせば品の良い、深みのある色合いを作り出せます。

 ブルーAPには、ブラック、マゼンタ、ブルー、ライトブルーといった発色材料が入っていますが、国産車などでありがちなガンメタ色に比較すると、ブラックがやや多めで、全体としては落ち着いた暗めの調子です。そこに加わるマゼンタ、ブルー、ライトブルーなどの発色材料は、マイカ粒子との相乗でそれぞれ色合いが変化する性質をもつようになっており、光の加減によって青緑系から赤紫系にまで変化します。この色合いのフリップフラップ性は、先に説明した明暗変化と絶妙に調和して、季節や天候、時間帯やロケーションに応じて複雑微妙に表情を変化させます。ブルーAPの落ち着き感を基本とした繊細な変幻は、日本人の心に深く浸み入り、「わび、さび」すら感じさせます(再び親バカ絶好調)。

 さらに、これはVW車全般における特徴として、塗膜が厚く、もっちりとした肉持ち感があります。とくに、メタリックやパールなどのツーコート塗装の場合は、表面のクリア層に厚みがあるため、他社にはない独特の光沢感があります。塗膜に対する光の反射は、塗膜表面での反射と着色層での反射がありますが、分厚いクリア層を持つことで着色層での反射に深みが加わり、幾重にも塗り込んだ漆のような、ぬめり感のある輝きになっています。ブルーAPの主張しすぎない色合いは、このVW特有の深い輝きを際立たせる色合いでもあり、VWの塗装品質を余すところなく味わえる色だと言えます(もはや親バカ全開)。

 冒頭に記しました、「新車塗装の色が、個体ごとに違ってしまう理由」については、いくつか考えられるのですが、もっとも大きな変化がおきるのは、塗料の製造ロットの違いによって成分の配合比率が完全に同一でないことです。しかし、それ以外にも違いが生じる要因はあります。例えば塗料に含まれる粒子は重いものも軽いものもあって、じっとしていると重い粒子が沈殿して軽い粒子が浮いてしまうため、塗料用のタンクは常に攪拌しながら使用されているのですが、それでも色によってはタンクの使い初めと最後の方で色合いが違ってしまうようです。また、色を吹き付ける際の霧の細かさや、塗装する環境の気温によっても色は変化します。塗膜が固まる前に、その中で粒子が沈んだり浮いたりして、表面からの見え方が違ってくるからです。

 ブルーAPは、微妙なフリップフラップがあり、塗装条件による色の変化が出やすいため、同色車でも同じ色になりにくいのだと思われます。同色車でも微妙に色が違うというのは、オーナーにとっては密かに嬉しい気持になれます。ただ、この色の欠点として、板金修理の際に色合わせが非常に難しいという点があります。例えば、正面色を合わせてもスカシが合わない(またはその逆)、という状況が明暗だけでなく色合いについても起きてしまいます。板金業者は通常1時間くらいで調色を済ませるそうでが、プロフィットさんでは私のブルーAPの調色になんと半日以上を費やして下さったそうす。そのくらいに難しい色だとのことです。自分で塗装した感じでも、吹き方ひとつで色合いが大きく変わってしまい、本当に難しい色だと感じています。

 なお、不明の用語や、より詳しい情報にご興味のある向きは、このページからリンクしている用語集:トップページ左下「用語辞典」→「塗装と調色の用語」をご参照下さい。っと書き終わって、ブルーAPというだけのネタで、我ながらよくまあこんなに書いたもんですね。親バカとは言えちょっと褒めすぎたかもしれません。でも、私はブルーAPを人様にはお奨めしません。なぜなら、これからも希少であって欲しいから...(←何と自分勝手なんでしょう)。

(このページに記載の内容は、個人的な所感に過ぎませんので、あらかじめご了承お願いいたします)