14000Hit 記念 SS




─ゴンゴンゴンっ!!─ 部屋のドアを叩く音に、大神は目を覚ました。 「誰だい?こんな朝早くから…?」 寝起きは悪くない大神であったが、この手荒い起され方にすこし驚きながら返事する。 「大神さんっ、何時まで寝ているんですか!マリアさんはもう仕度を始めているんです よ」 まだ覚醒しきっていない大神の脳味噌に、さくらの声が響き渡り思わず額に手を当てる。 「もう、大神さんも早く準備してくださいね!」 大神の返事を待たずして、さくらは一方的に喋った後、パタパタと音を残しドアの前か ら立ち去っていく。 「……まだ六時半?」 寝ぼけ眼で時計を確認した大神が、情けない声を上げてベットに倒れ込む。 「俺の準備なんて、そんなに時間もかからないのに…」 天井を見上げたまま呟いた大神は、横を向いて窓を眺めた。 「そうだな…、起きるとするか」 勢いをつけ跳ねるように起き上がり、大神は勢い良くカーテンを引く。 晴天を予感させる明るい日差しに目を細めながら、今日という一日に思いを馳せる。 窓を開け放つと、朝独特の澄んだ香りを乗せた風が頬を撫でて行く。 「今日は良い天気になりそうだなぁ!」 何処までも青い空を見上げながら、大神は大きく背中を伸ばした…。 14000Hit記念SS ─舞い降りる奇跡と祝福─ Written by G7 「マリアさん、今度は此方を御向きになって…」 すみれの言葉に従い、ぼんやりとマリアは顔を横に向けた。 「あっ!マ〜リアさん、急に横を向いては駄目デ〜ス」 前髪をセットしていた織姫が抗議の声を上げる。 「ごめんなさい…」 何処か心在らずな表情で返事をするマリア。 「ほら、マリアさん。もっとシャッキリとした表情をして、今日の主役がそんな顔では駄 目ですわ」 マリアに対するメイクの手を止める事無く、すみれは苦笑する。 「本当に貴方達が人前結婚式を挙げるなんて…」 元々式の形式に関らず、マリア達二人はなるべく簡素に結婚式を済ませる予定だった。 勿論費用の問題もあったのだが、余りにも多忙を極める二人の為、十分な準備時間が取 れなかった事が最大の理由だった。 二人としては、もう少しこの婚約期間という微妙な関係を楽しみたかったものの、大神 自身も今までにも益して責任のある立場に就き、今後も忙しくなる事を見越した米田から の勧めもあって式を挙げる事にしたのだ。 ただ、式の日取りも規模も決まったが、肝心の式のスタイルが最後まで決まらなかった。 白無垢にウェディングドレス・・・。 決して装いで決める訳では無いが、式を挙げる当人達も其々に思い描く事があるのだ。 『特定の神様とかじゃ無く、今までお世話になった人や苦楽を共にした仲間の前で永遠 の愛を誓えば良いんじゃないかな…』 結局、二人して悩んだ挙げ句、大神の呟いた言葉が切っ掛けになり、形式には拘らず人 前という形で落着く事になった。 当初は行き着けのレストランを貸し切って行うつもりだったが、その旨を劇場のメンバ ーに報告した所、 『それじゃあ、みんなで手作りの結婚式を…』 さくらの言葉を皮切りに、大神達二人の意見も他所に動き始めるメンバー達。 普段以上のチームワークを発揮する彼女達に、二人も何も言えなくなってしまう。 こうして、とんとん拍子に話しと時間は進んで行き、今マリアは最後の準備に取り掛か っていた。 「出来ましたわ」 「完成デース♪」 同時に声を上げるすみれと織姫。 マーメイドラインのドレスに、セットされた頭に輝くティアラ。 ドレスはシンプルなデザインだが、何点かあった候補の中から大神の好みも聞き入れ、 マリア自身も気に入って決めた物だった。 マリアが顔を上げ正面の姿見を見ると、普段とは違う見慣れない自分が座っていた。 慣れている筈の劇場の楽屋、何度と無くこの鏡に向かってきたが、今日は何故か落着か ない・・・。 「マリアさん、折角の衣装にメイクを施しましたのよ。もっと笑顔、笑顔ですわ」 「そーデ〜ス、スマイル、スマイル!」 どこか呆けたようなマリアに声をかける二人・・・。 「ごめんなさい・・・。こんな時にどういう表情をしたら良いのか判らなくって…」 「確かに式の前ですもの・・・、落着かないのも分かりますわ。最初に人前式と聞いた時は ビックリしましたけれど・・・。でも、こうして私もお手伝い出来た事は・・・、その、とても…」 マリアを励ますつもりが、逆にすみれの方が感極まってしまい涙を堪えている。 「あーっ!すみれサン、泣いちゃ駄目で〜す!お化粧が…」 織姫の慌て振りに、マリアの表情も幾分和らいだものになる。 「大丈夫ですわ、織姫。マリアさん、幸せになってください…」 瞳を潤ませたまま、見上げるようにマリアに祝福を贈るすみれ、口調は普段と変わらな いものだったが、浮かべる表情はとても穏やかなものだった。 「ありがとう…、すみれ」 すみれが劇場を去った後、こうして彼女と面と向かって話すのは初めてだった。 その思いの他大人びた彼女の笑顔に、つい惹き込まれてしまうマリア・・・。 『初めて会った時から、もう随分と月日が流れたものね…』 マリアにまじまじと見つめられて、すみれは落着かない様子で顔を逸らす。 「よおっ!準備は出来たか〜?」 勢い良くドアが開いたと同時に、故郷である琉球の民族衣装に身を包んだカンナが入っ てくる。 「マリア…」 純白のドレスに身を包んだマリアを見て、カンナは一瞬息を呑む。 「やっぱり似合うよなぁ、美人っぷりが数段上がったってカンジだぜ」 おどけた表情を浮かべながら、カンナは突き出した親指を立ててみせる。 今回の式に出席するにあたり、彼女が正装として選んだウミナイビ。 南国らしい鮮やかな色使いのウミナイビは、カンナの朗らかな表情と相俟って楽屋の空 気を明るいものへと変えていく。 「カンナさん…」 初めて見るカンナの正装に、落着かない様子だったすみれも目を丸くして言葉が出てこ ないようだった。 「すみれも織姫も良い仕事するじゃあないか」 「当たり前ですわ、カンナさんの方こそ良くお似合いになってよ、その衣装」 いつもの調子を取り戻し、すみれも朗らかな笑顔を浮かべながらカンナに賛辞を送る。 「なんだよ、オメエに褒められると何か変なカンジだなぁ…」 すみれのストレートな褒め言葉に、カンナは照れくさそうに頬を掻きながら視線を泳が す。 「ふふっ、せっかく褒めて差し上げたのに、相変らずですわね」 そんなカンナの仕種を可笑しそうに見つめながら、すみれは口に手を当てたまま微笑む。 「なんだよ、暫らく見ないうちに妙に大人振りやがって…」 こうして、すみれとカンナの掛合いを聞くのも久し振りな気がする。 ついこの間まで、当たり前の日常として見ていた二人の掛合いだが、今はマリアをとて も懐かしく和やかな気分にさせてくれた。 「何やってるの〜?かえでお姉ちゃんが、呼んでるよ」 「カンナ、織姫達を呼びに行ったのではなかったの?」 入り口に立ったままのカンナの後ろから、色違いのドレスに身を包んだアイリスとレニ が顔を覗かせた。 「早くしないと、予定が遅れてしまう…」 暫くの間、ウエディングドレス姿のマリアを見つめていたレニであったが、名残惜しそ うな表情を浮かべながらも、珍しく急かすような口調でカンナの腕を引く。 レニが動く度に、彼女の腰に巻かれたリボンが紺地のドレスと相俟って、フワリと揺れ る様は天の川を想像させる。 「それでは、行きますわよ」 すみれの声にメンバー達が一斉に動き出し、何処か心在らずな表情のままマリアは一同 を見送った。 何か一声かけようと思ったマリアだったが、言葉が上手く纏らない。 普段であればこの様な事は無い筈なのに、この落着かない気持が原因なのだろうかとマ リアは自問する。 緊張はしているものの、何処かフワフワと地に足が着いていないような気分・・・。 自分以外の事は見えているのに、まるで自分の心だけが朧げで靄がかかったようになり、 はっきりと捉える事が出来ない・・・。 「じゃあマリア、後でな!」 一番最後に部屋を出て行くカンナは、振り返り際にウインクと共にマリアに言葉を掛け て行く。 「そう、もう始まるのね…」 楽屋に一人残されたマリアは、姿見に映る自分の姿を眺めながらポツリと呟いた…。 ◇ 「それでは新婦の入場です!」 加山の言葉に反応して、飾り付けられた中庭の入り口に絶妙なタイミングでスポットラ イトが当てられる。 中庭の隅では、紅蘭が自分の仕事に満足そうな笑みを浮かべていた。 普段とは違うお下げではなくお団子に纏められた髪型の為か、普段よりその笑顔が幼く 見える。 落着かない様子で、大神がそんな事を考えていると、スポットに続き織姫のピアノ伴奏 が始まった。 『ゴクッ』 厳かな旋律に耳を傾けながら、自分の発した喉の音が大きく聞える気がして、大神は目 だけで左右を見回して確認してしまう。 「「「わぁっ!!」」」 黄色い歓声が上げられ、慌てて視線を戻す大神。 『マリア…』 大神は感嘆を込めて彼女の名前を声に出そうとしたが、喉がカラカラに乾いていて声に ならない。 付き添いの米田に手を引かれ、ゆっくりと大神の立つ段上に近づいてくるマリア。 薄いベールで覆われ、僅かに俯いている為に細かい表情は分からない。 ただ、ベールの隙間から見える唇が、ドレスの白色と相俟ってドキッとする程に鮮やか に見えた。 大神がマリアに見惚れている間に、彼女を壇上まで送り届けた米田はギクシャクとした 動作で自分の席に戻って行く。 柄にも無く緊張しているのか、踏み出す足と振られる手が重なってしまい、周囲の苦笑 を誘ってしまう。 「それでは、新郎新婦が揃ったところで、お二人に誓いの言葉をお願いしたいと思います」 周囲のざわめきを他所に、加山の良く通る声が式を進行させる。 大神の横に立ったマリアは加山の言葉に頷き、促すようにゆっくりと顔を横に向けた。 今日、目覚めてから初めて顔を会わす二人…。 毎日顔を合わせている筈なのに、大神はベールの奥の彼女を見て言葉を失う。 化粧をした彼女を知らないわけでは無い、普段も大神が気付かない程に薄く、舞台に立 つ時は更にはっきりとしたメイクを施す時もあるのだ。 しかし今、目の前に立つマリアは、今まで見た事も無い美しさを湛えている。 見た目は勿論だが今の彼女が纏う雰囲気…、何処か捉えどころの無い柔らかな表情と相 俟って、不思議な透明感を大神に感じさせた。 ぽかんと口を半開きにしながら、マリアに魅入ってしまう大神・・・。 マリアの方も微かな羞恥に頬を染めながら、大神を見つめている・・・。 「ウぉっほん!えーっ、では改めまして新郎新婦から…」 二人だけの世界を創り出す新郎新婦に対し、加山が咳払いをしながら棒読みの台詞で先 を促す。周囲からもクスクスと笑い声が零れている。 「あっ…」 加山の声に我に返った大神は、慌てて言葉を紡ごうとするが声が出てこない。 昨夜まで何回も練習し、一言一句諳んずる事が出来た筈なのに、真白になってしまった 大神の頭の中には喋るべき言葉の欠片も浮かんでこない。 「……」 なかなか喋り出さない大神の沈黙は、逆に先程迄の参列者達のざわめきを鎮め、周囲を 再び厳粛な雰囲気へと引き戻す事に成功していたのだが…。 『やばい、何も思い出せない…』 周囲が自分の言葉に耳を傾ける状態になった事で、更に焦りの増した大神の右手に添え られた掌・・・。 振り向く事は無かったが、大神は手袋越しながらマリアの暖かさを感じて、如何にか落 着きを取り戻す。 マリアとて意識しての行動ではなかった。ただ気が付けば直ぐ傍にある彼の掌、人前式 という格式に縛られない形式もあってか、自然に大神の手に触れる事が出来た。 普段の自分からすれば、人前という事を鑑みても、驚くほどに大胆な行動だと思う。 しかしマリア自身、準備の時から感じている何処かフワフワした地に足が着いていない ような感覚に対し、大神に触れている事でその感覚が和らぐのを知っているような本能的 な行動だったのかもしれない・・・。 マリアは自分の行動に驚きながらも、掌を返しギュッと自分の手を握ってくれる大神に 対し、自分も力を入れて握り返す事で己の気持を伝えようとする。 「本当はしっかり練習して来た筈なんですが・・・。いざこの場に立つと頭の中が真白になっ てしまって、上手く言葉が出てきませんでした…」 そこまで口を開くと、大神は一旦言葉を切って静かに周囲を見渡す。 「私、大神 一郎はマリアを、マリア 橘を生涯の妻とし、幸せや喜びは共に分かち合い、          悲しみや苦しみは共に乗り越え、永遠に愛する事を誓います」 「私、マリア 橘は大神 一郎を生涯夫とし、幸せや喜びは共に分かち合い、          悲しみや苦しみは共に乗り越え、永遠に愛する事を誓います」 大神の力強い宣誓に続き、マリアも穏やかな声でそれに倣う。 「「私達二人は、本日皆様に見届けられ夫婦となりました事を幸せに思います。          今日からは心を一つにし、互いを思いやり、励まし合い、力を合わせ 温かい家庭を築く事を誓います」」 最後に二人が声を合せ宣誓を終えた。 式に参列していた全員が立ち上がり、二人に祝福の拍手と歓声を送る。 大神とマリアは其々に参列者の顔を一人一人感慨深げに眺めていく。 そして、示し合わせた様に顔を合わせると、最後に二人して空を見上げた…。 「それでは続きまして、指輪の授受と誓いの……」 加山の進行に会場の雰囲気は一気にクライマックスまで上り詰めて行く…。 ◇ 「最後に記念の写真を撮るから、みんな新郎新婦の周りに集まってんか〜」 式も終わり、残すは記念撮影を残すのみになり、紅蘭がカメラの前で大きく手を振った。 「写真だ、写真〜♪」 「おい、何一人だけ化粧なんて直しているんだよ。今更何も変わらねぇだろうが」 「煩いですわね、これだからデリカシーの無い人は嫌ですわ…」 それぞれが雑然とした雰囲気の中で大神とマリアの立つ段上に集まってくる。 「ほな、準備はOKちゅうことで…、行きまっせ〜」 蒸気カメラの遠隔シャッタースイッチを持った紅蘭が足早に集合した皆の元に戻って行 く。 「なぁ、大神〜。やはり帝撃の集合写真は、やっぱアレだろう?」 ちゃっかりと、かえでの横に陣取っていた加山が大神に声を掛ける。 「アレ、か?」 応える大神も満更でもなさそうに一同を見渡す。 「そうですね・・・、一郎さん」 ゆっくりと一同を見渡し、最後に大神の視線を受け止めたマリアが笑顔で肯く。 「じゃあ、俺が音頭を…」 様子を見ていた米田が声を上げた。 「ねえ、マリア…」 次の声が上げられる絶妙なタイミングで大神はマリアに耳打ちする。 「えっ!?」 大神の問い掛けに気を取られたマリアは次の瞬間、自分の身体が浮かび上がるような感 覚に小さく驚きの声を上げてしまう。 背中と膝に手を廻され、俗に言う「お姫様抱っこ」の状態で大神に抱きかかえられたマ リアは、恥ずかしさからか頬を染めながら抗議の声を上げる。 「いっ一郎さん、降ろして下さい!」 そんなマリアの言葉にも、大神はニコニコと笑っているだけで花嫁を降ろす気はないよ うだった。 「良いじゃないか、似合ってるぜっ!」 「いいな〜っ、アイリスもしてもらいたいなぁ〜」 「……うん」 周囲のメンバー達も突然の大神の行動に歓声を上げていた。 そんな盛り上がっている様子を見ていると、マリアもそれ以上強くは言えずに、観念し た様子で大神の首に廻す手に力を込める。 「ほな、盛り上がってきたところで米田はん、頼みまっせ〜」 シャッターボタンを持つ紅蘭が米田に合図を送った。 「いいかぁ〜、勝利の…じゃなくて、幸せのポーズ…」 「「「「「「「「「「「「「「「「「「キメっ!」」」」」」」」」」」」」」」」」」 思い思いの表現でポーズを決める一同。 その形はバラバラでも、浮かべる表情は皆が幸な笑顔を浮かべていた。 そして紅蘭がシャッターを押そうとした瞬間・・・。 ─カラ〜ン・カラン〜─ 何処からか澄んだ鐘の音が聞える。 聖夜に二人で訪れた教会の鐘だろうか、しかし二人の式を知る筈も無い教会の鐘が何故 絶妙なタイミングで鳴り響くのか・・・。 そして、一番最初にそれに気が付いたのは誰だったのだろう、その場に居合わせた全員 が空を見上げる。 雲の隙間からピンスポットさながら地上に差し込む陽光と遥か空の頂きから舞い落ちる 無数の小さな光の結晶…。 「羽根…?」 レニが手を伸ばし輝く結晶を掌に乗せると、淡く弾けるように霧散してしまう。 途切れる事なく舞い落ちる光の羽根は、ゆっくりと帝国劇場の中庭に舞い落ちる。 期せずして顔を見合わせたマリアと大神は、言葉も無く肯きあうと再び光り差す空へと 顔を向けた。 他の面々も言葉こそ無かったが、この祝福の贈り主に対して其々の想いを胸に天上を見 上げている。 時間が止まった様な空間で、最初に声を上げたのは紅蘭だった。 「あっ!シャッター切ってもうたぁ〜」 「え〜っ!」 「ワタシ、変な顔してたかも知れないデ〜ス」 「私もです〜」 再び動き出した時間、一斉に声を上げる一同…。 米田などは空を見上げながら号泣しており、見かねたかえでがハンカチを差し出す。 するとその姿が誰かと重なったのだろう、再びかえでの手を握って号泣する米田・・・。 何時の間にか鐘の音も止み、光りの羽根も消えていた。 先程までの静寂が嘘の様に、一気に騒がしくなる中庭。 「スンマセン、大神はんマリアはん。やっぱもう一枚撮った方が…」 紅蘭が頭を下げると、大神もマリアも笑顔で首を振った。 「大丈夫、最高の一枚が撮れたと思うよ」 「全員で撮った記念写真ですもの…」 二人の笑顔につられて紅蘭も笑顔を浮かべる。 「それもそうやなぁ、でも大神はん、いつまでマリアはんを抱っこしてるつもりなん?」 眼鏡のフレームを指で上げながら、紅蘭の笑みに含みが混じる。 「えっ…」 「あっ…」 二人は顔を見合わし、互いに頬を染めた。 「花嫁衣装にお姫様抱っこと来れば、後はお約束だよなぁ、大神ぃ〜」 加山が目を細めながら大神を囃し立てる。 いつのまに集まってきたのか、二人の周囲を囲むように全員が集合していた。 「チューしちゃえ〜」 アイリスが無邪気に加山の言葉に続く。 「キスって、誓いの言葉の後にしたじゃあないか…」 「そうです、先程とは状況が違いますし…」 大神とマリアは周囲を囲む面々を見ながら、小声で反論する。 「ここまで来たら、二人とも覚悟を決めろよ〜。そ〜れっ、キ〜ス、キ〜ス、キ〜ス…」 カンナの音頭を先頭に、全員から一斉にキス・コールが湧き上る。 やがて、止む事の無いキス・コールの中、新郎と新婦は諦めたように顔を見合わせ、お 互いにその瞳を閉じた・・・。 一瞬の静寂、そしてその後に続く大歓声・・・。 天まで届きそうな歓声に呼応するように、優しい一陣の風が花嫁のベールをそっと揺ら して行く・・・。 ─fin─ そして、その夜・・・ (年齢制限のお話になるので、注意してください)




戻る