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 小原 鈴子    明治24年(1891)12月30日〜昭和51年(1976)4月12日
 大正〜昭和期のキリスト教伝道師。文筆家としても健筆を奮って伝道活動を進めた。牧師小原十三司の妻。

<生い立ち> 
 徳川篤守の四女として東京師赤坂氷川町で生まれた。
 徳川篤守(清水家)は、御三卿・清水徳川家7代当主。安政3年(1856)出生。水戸藩10代藩主・徳川慶篤次男。幼名は常三郎。明治元年(1868)、叔父で6代当主であった昭式が水戸藩11代藩主に転出後、清水徳川家は「明屋敷」となっていたが、明治3年に篤守が家督を相続。この年、藩塀に列した。廃藩置県後に海外ヘ留学。鈴子は、「父は明治初年エール大学を卒業いたしました由で」と回顧している。大正13年(1924)に没した。なお、明治期に伯爵の爵位を授けられたが、返上。後年、子の好敏が陸軍に入り、航空の分野で活躍。この功で、好敏に改めて男爵を授けられた。

 鈴子は、地方に出向くと葵の紋に向かって平身低頭おじぎをされる体験をして幼少期を過ごした。
 当時の家屋敷は、周囲を一巡するために1時間余を要する広さであった。名誉と財産と教育には何不自由ない環境に生まれた鈴子は、物心がつくに従い、「高等孤児」と例えられるような両親の手でなく他人の手にばかり世話されている物足りなさに寂しさを感じた。

 幼少時から手先の器用だった鈴子は女学校時代に絵描きになろうと決心して学びを深めた。この道ならば生涯自分を楽しませうると思ったからだ。だが、絵筆を夢中でとっているときは一切を拭き消される楽しいときであったが、いったい自分は何のために生きているのかという疑惑に悩まされた。そうした過程で、近親者から信仰を持つように勧められもしたが、あまり気乗りしなかった。

笹尾鉄三郎との出会い> 
 幼少時に日曜学校へ行き、礼拝やその他の集会にも伴われて出席したことがあるなかで、忘れることのできない記憶として笹尾鉄三郎の存在があった。笹尾鉄三郎の印象は鈴子の心に消し去ることのできない光を投げかけていたのであった。笹尾鉄三郎の信仰による輝きを、まだ鈴子は知る由もなかったが、笹尾の輝く光を手がかりにいわゆるキリスト教信者にはなりたくないが、笹尾先生のような輝きのある生涯が送りたいと心底からの思いを秘めて、周囲に勧められるままに笹尾に会った。そして、鈴子は神田淡路町中央福音伝道館で入信するきっかけを掴んだ。

 笹尾鉄三郎の「神様は生きております実在者ですから、本当に信ずる気ならば祈って御覧なさい。きっと答えてくださいます」との勧めにしたがい、鈴子は数日間祈りの日々を過ごした。ついに目が開かれ、永遠者の前に罪の身を見出し、まったく悔い改めのキリストの贖いによって救いの恵に浴する身に変わった!

 このようにして救われ罪の許しを得て創造主なる神を仰ぐときに、鈴子は生きる目的がすっかり変わった。いつしか生き甲斐としていた絵筆が鈴子の手から離れ、心が変化するにしたがって趣味も願望も変わった。もはや自分のために、また自分を満足させるために生きるのではなく、創造主なる神の御旨に従っていこうと決心するに至った。

<受洗> 
 とうとうその目的遂行のために献身して伝道者にならんと決心を固め、大正2年(1913)6月、東洋宣教会聖書学院に入学した。その後、同5年中田重治から受洗した。『女性人名』の記述どおりとするならば、当時は未受洗者も入学を許可したことになる。あるいは鈴子だけが特例であったのだろうか。

 いずれにせよ、ホーリネス教会の正式な創立は大正6年(1917)10月31日である。一方、鈴子を信仰に導いた笹尾鉄三郎は鈴子が聖書学院に入学した年の4月には東洋宣教会の重要な地位を去り、淀橋教会牧師も辞任して、独立自給伝道を開始している。学院内において笹尾から直接的指導はなかったと言えよう。笹尾鉄三郎は大正3年に急逝している。

 昭和17年(1942)6月26日ホーリネス系諸教会に対する弾圧事件の際、拘置された夫に代わり残務整理委員として牧師家族援助につとめた。そのために処分された地方の教会と伝道者家族、それに係る土地建物があったことを、忘れてはなるまい。
 また夫の牧会する日本基督教団淀橋教会に正教師として働き、同時に文筆家として広く活躍した。クララのペンネームで『かくれし力』(日本基督教団出版部、昭和28年、40円)、『泉あるところ』などがある。前者は、銀婚記念と長女のテーラー大学卒業式に参列するために渡米した折に行く先々で過去25年間について講演したものをハワイ在住者から請われて活字にしたものが、ホーリネス教会が一斉に受けた宗教弾圧によって出版物を差し押さえられたために、戦後、再販という形になって世に出たものである。

<やりかけ>
出 典 『かくれし力』 『キリスト教人名』 『キリスト教歴史』 『女性人名』

徳川御三家・御三卿の人名辞典 http://s-mizoe.hp.infoseek.co.jp/m343.html
東洋宣教会聖書学院 http://www.jhc.or.jp/tbs/