第164回 ローマの老舗レストランの閉鎖に思うこと このところ、衛星放送でイタリア旅行が連日放映されている。 「また、イタリアなの?」 「まだ、イタリアなのか」 毎日、夫婦で言い合っているけれど、 ローマの老舗のレストランでぼったくりの被害にあった日本人の話題を思い出した。 事の次第は、ローマの伝統的イタリア料理の老舗レストラン、 「イル・パセット」が、ランチ代として約700ユーロ(約9万3千円)を 日本人カップルに請求した。 ちなみに日本のガイドブックに掲載の同店のランチの予算額は40ユーロからで、 料金は良心的とあるから請求額は桁外れである。 上記に加えて更にチップ代115.50ユーロを請求され、 さすがにカップルは抗議したが聞き入れられず、 カードで支払いその足で警察に届けたが聞き入れられなかった。 一度は諦めたが、宿泊したB&Bの日本人オーナーが警察に掛け合った結果、 ようやく聞き入れられた。 その後、ローマ市長命により衛生当局と価格捜査官が抜き打ち検査を行った。 厨房も不潔、不法入国者を雇った等の行政違反が発見され、 同レストランに閉鎖を命じたというもの。 同店はチャールズ・チャプリンやグレース・ケリー、ハリソン・フォード、 レオナルド・ディカプリオら、著名人も通っていた。 149年の歴史を誇る老舗で、これだけ騒ぎが大きくなった理由は 「被害額の大きさと、被害者が狙われやすい日本人だったから」 近年はイタリアへの日本人観光客の数が落ち込んでいるせいか、 髪が長くモデルのように美しい観光相までが出動騒ぎとなり、 「イタリア政府が費用を負担するので、被害にあった日本人に もう一度ローマに来て欲しい」と、異例の謝罪のコメントまでした。 B&Bのオーナーのサイトへは、この件の書き込みが多く寄せられ、 日本人観光客のチエック体制の甘さを指摘する人、 イタリアの店のモラルのなさに憤慨する人と見事に二分されたが、 イタリアへ何回か行っているわたしは、双方の意見を持っている。 異国で日本人が同様な被害に遭うのを何度も目撃しているが、 被害者の多くが抗議をためらうあまり、 「自分さえ我慢すれば」と諦めているように感じた。 ハワイのレストランで隣席に陣取った大学生のグループは、 頼みもしない料理やビールが次々に運ばれ「頼んでいないのに」と困惑していた。 店員はわたしたちが日本人と見ると、夫が頼んだビールビンが空になりそうなとき、 間髪を入れずに新しいビールを持ってきてさっと取り替えた。 頼んだ覚えはないので「ノー・サンキュー」と、少し強く言った。 その後は、他の席の外国人と同じように扱われたが、 大学生たちは「ノー・サンキューって言えばいいんだ」と囁き合っていた。 彼らの脳ミソは、わたしよりもはるかにフレッシュで、 中学生の英単語能力のわたしよりも、単語のインプットの数は断然多いはずだが、 「ノー・サンキュー」の一言でさえ、自分で考えて発することができなかった。 このような態度を取り続けている限り、 後からやってくる日本人も同様な目に遭わされるだろうと思い、 店を出る際に、単語をつなげただけの語学力でマネージャーに言った。 「日本人を特別扱いにしているように見えましたが、 どうせなら良い方の特別待遇をお願いしたい。 このようなことは悪い噂となりガイドブックに紹介されるので、 お店のためになりません」 支配人は恐縮しているように見えたが、 その後は日本人への対応は変わったのだろうか。 しかしイタリア人の神経も、真面目な日本人には理解できないものがある。 20年以上も前のイタリアのベネチアで、 国鉄職員が列車の切符のオツリをごまかそうとしたが、 20年後のベネチアでも、また鉄道の切符のオツリをごまかそうとした。 このような国では観光客相手のレストランのぼったくりなど珍しくないはず。 これはイタリアに限らず、他の国の観光客を相手にする場所にも言えますが、 イタリアは件数も多く手口も強引で悪質のものが多いような気がする。 嘘か真かローマでは小さいころから「騙されないように」と教えるのが常識であると、 どこかで読んだ覚えがある。 1ケ月間イタリアの周遊ドライブをした際は、 高級レストランなど一度も利用しなかったし、利用しようとも思わなかった。 もっぱら食堂のような体裁のお店で、安くておいしいものを見つけることに腐心した。 ガイドブックにこれでもかと紹介されているお店はもとより性に合わないし、 観光客ずれしたお店で「これがあの有名なお店かぁ」と感激し、 料理皿もガイドブックで仕入れた味の情報を追認するような儀式に、 高い代金とチップを払うのは馬鹿馬鹿しいと思っているから。 どこか国は忘れたが、請求書の金額がおかしいと抗議して店主とやりあったとき、 最後に店主は笑いながら「本当におまえは日本人か? あっぱれだ」と言った。 わたしは外国で日本人が馬鹿にされるのは我慢がならないので、 語学力はなくても迫力やジャスチャー等を総動員して対処している。 その心は、日の丸を背中にしょっている気分かもしれない。 海外旅行をする際は、最低限のその国の挨拶の言葉とともに 「お勘定が違います」「オツリが足りません」「この料理は注文していません」等の、 レストランやみやげ物店で使う言葉をガイドブックやネットで調べて 書き出すなり印刷するなりして持参し、相手に見せる必要があると思う。 これだけでもズルイ相手をかなりけん制できる。 日本での自己主張は「自分の我がままを押し通す人」の印象が強く、 どちらかというと悪い印象を持たれがちですが、 自己主張の本来の意味は「自分の意見や考え方を他に強く示すこと」である。 自分の意見や考えを持つことはとても大切であり、海外では特に感じる。 今の日本では、自分で考える教育の大切さが欠落しているように感じられるので、 <騙されやすい日本人>の烙印は、まだまだ消えないのではと気になります。 HOME TOP NEXT |