新エッセイの部屋

 第 36 回  カタバミ( H20年8月3日 )

  その辺の土手や畑の隅に咲いている、ごく一般的な野の花です。日本だけでなく世界的に分布している草の

 ひとつということですから、繁殖力も旺盛なのでしょう。

  葉や茎にシュウ酸を含むので、噛むと酸味があって別名スイモノグサと呼ばれているそうです。

  花の黄色が可愛くて描いてみたところ、思っていた以上に素敵に描けました。深い緑色に包まれるようにし

 て咲いている様子は他の花を描いた時脇のスペースがちょっと余ってしまった時等、添えるのに適しています。

  そういえば同じような花をつけるのに花の色が赤茶けたも

 のがあったけれど・・・と気になり野草辞典を開いてみました。
 
  するとアカカタバミという種類があって、それは花も生育環

 境も明らかに違うのだそうです。

  カタバミのように多様な環境には適応できなくて、砂利の

 中や石垣など陽がよく当たり、夏には石が熱くなるような所

 にだけ生え、葉も茎も赤茶色になるのが特徴で、名前の由

 来もここからきているということでした。

  同じカタバミの仲間にムラサキカタバミがあります。実は

 この花には息子の幼少時代の思い出がギュッと詰まって

 いるのです。

   外遊びが好きで、帰ってくるときはいつも泥んこのお土産をどこかにくっつけて来るやんちゃ坊主。どこから

  見ても男の子という風情の息子でしたが、あるときムラサキカタバミの花を一握り、私へのプレゼントに持ち

  帰ったのでした。

   「ママ、この花描いて。」  ありがとうと言って受け取ったものの、摘んだあと相当の時間、彼の手の中に

  あったのでしょう。机の上に置いたムラサキカタバミの花束からは、湯気が出ている始末で・・・。絵のモデル

  になってもらうには、ちょっと苦しいというのが正直な話でした。

   でも、遊び場で見つけた花は、幼心にもきれいだと感じられたのでしょう。いつも花を描いている母親に

  持って帰ったらきっと喜ぶぞ、そんなふうに考えてうきうきと摘んでいる姿を想像したら、日頃のやんちゃぶ

  りに振り回されていることも忘れて、大感激したのでした。 

   その後、ムラサキカタバミは、ベランダで一番大きい鉢の中で大切に育てられることになります。今年も

  梅雨明けの頃まで、鮮やかなピンクを楽しませてくれました。もともと観賞目的で日本に持ち込まれた帰

  化植物だそうです。でも根を張って爆発的に繁殖する性質を持っていて、いったん畑などに侵入すると駆

  除するのにそれは大変なのだそうです。耕せば耕すほど増えてゆくということで、おそらくはこの植物に泣

  かされている人もいるのでしょう。

   花は美しけれど、実態を知ってしまうと見方が変わってくるというのが、植物図鑑の解説でした。幸い我

  家のベランダに咲くムラサキカタバミは、お行儀よく一つところで季節になると花を咲かせてくれています。

   そのうち絵のモデルになってもらうことでしょうから、楽しみにお待ち下さい。
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