秋の風を頬に感じ始めたころに山道を歩くと、花の甘い香りに包まれることがあります。そんな時ふと辺りを見回せば 葛の 花に出会えるのです。 毎年、彼岸花が咲き出す少し前に郊外に出かけるのは、この花に逢うためです。今年は例年になくたくさんの花を付 けた葛の茂みに出会いましたので、そのことを花の好きな人達が集まっている水彩画教室で話しましたところ、 「葛の花ってどんなの?」 という声が多くて驚きました。
秋の七草の一つでもあるのですが、驚くばかりに勢いの いい葉に比べて花の咲く期間は短いので、見落としてし まうのかもしれません。 藤の花を逆さまにした状態で房状に咲き、色は紅紫色 をしています。大和の国栖(くず)の人が、根から澱粉を とって売り歩いたのでクズと呼ばれるようになったと植物 図鑑には、説明書きがついています。現在でも奈良県の 吉野では本種から葛粉を作っているということです。 万葉集にはなんと17首の葛の歌が詠まれているという ことですから、古のころから葛の花は人々の心の中で愛
でられてきたのでしょう。 葛の花を観賞できる期間は、本当に短く今年はもう見ることはできませんけれども、蔓性のこの植物は、河原の土手 とかフェンス越しなどいろいろなところで元気に成長していますから、絵のモデルになってもらうのには、事欠かないので す。花を描くためにはその何倍も葉を描く時間が必要なのです。