新エッセイの部屋

 第 39 回  洋種山牛蒡(ヨウシュヤマゴボウ)

                          ( H20年9月15日 )

  帰化植物、北アメリカ原産で別名アメリカヤマゴボウとも呼びます。

 花序は花の頃は上を向いているけれど、果実が熟すにつれて垂れ下がります。まるで針金を一本入れたか

 のような曲がり方で、絵を描くにはもってこいの素材です。

  この植物に初めて出会ったときの感動は、今でも鮮明です。
  
  夫の転勤に伴って一年あまりを過ごした鹿児島から豊橋の地に足を降ろして間もない頃、幼稚園に通い

 始めた長女を通園バスの停留所まで送り、一歳半の次女をバギーに乗せて少しばかり遠回りをして帰宅


 するのが日課になっていました。

  それは田んぼのハゼや畑の隅に植わっている

 野の花を楽しむという、ささやかなゆとりの時間で

 あったわけですが、今にして思えば、それが絵を

 描く再スタートのきっかけでもありました。

  あれは夏の終わりの頃だったでしょうか、傾き

 かけた日差しを浴びて強烈に輝く背の丈2mにも

 及ぶかと思われる植物と出会いました。赤紫色

 の軸に黒紫色の果実が垂れ下がっているさまは 

  美しいというよりは異様でした。葉はあくまでも青く、下の方についている葉の縁取りに軸の赤が染まっ

 ていて、そこのあたりが何ともいえない良いバランスを保っているのでした。

  「 絵になる! 」

 と直感して、久しぶりにスケッチブックを用意しました。とはいえ、子育て真っ最中の主婦にとって、思い

 立ったらすぐ実行という時間は、なかなか巡ってきませんで、数日の後にまとまった時間を確保してその

 場所に出かけたときには、畑の所有者の都合で洋種山牛蒡は、他の雑草と共に根こそぎ引き抜かれて

 畑の隅に横たわっているというありさまでした。

  でもそのことをきっかけに子育て中心の生活から少しずつ、主軸を絵の創作のほうに置いていったの

 だとしたら、それはそれで喜ぶべき出来事だったかもしれません。

  今年の夏の終わりに夫と共に郊外の雑木林を歩いていたら、背の丈30cmほどの洋種山牛蒡に出

 会いました。ふと30年も前の出来事が思い出され、一枝手折って家に持ち帰りました。自己満足かも

 しれませんが、気持ちのいい絵が出来上がりました。

  余談ですが、洋種山牛蒡の黒紫色の果実は、つぶして果液をとると、赤紫のきれいなインクとして

 遊べるそうです。アメリカではその色から、インク・ベリーと呼ばれているとか。今度孫と一緒に遊んで

 みようかしら。ただし、毒草なので決して口にしてはいけませんよ。 

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