与話情浮名横櫛 歌舞伎鑑賞教室 2003.6.25

21日、国立劇場で上演されている『歌舞伎鑑賞教室』にいってきました。

主な配役
与三郎 梅玉
お富 時蔵
蝙蝠安 吉弥
多左衛門 東蔵
鳶頭金五郎 玉太郎
番頭藤八 権一

歌舞伎鑑賞教室ということで劇場の前は制服姿の中学生が一杯。解説「歌舞伎の見方」の幕が開いて暗くなると、ピーピー口笛も聞こえ、こんな調子ではまともにお芝居が見られないんじゃないかと不安になりました。

ところが宗之助の解説が始まると、手際の良い説明のためか皆一生懸命聞いていて一安心。パソコンを使ってのプレゼンテーションなど「歌舞伎は時代遅れの代物なんかじゃないぞ」と言うところを見せたせいか、反応はとても良かったようでした。

「与話情浮名横櫛」(よわなさけうきなのよこぐし) あらすじはこちらをご覧ください。

今回も春の歌舞伎座に引き続き、筋を明快にするためか、ふだんは上演されない色っぽい場面のある「赤間別荘の場」が上演され、はたして中学生達にどう受け取られるんだろうと思っていました。しかし歌舞伎座の時は上手の寝室の中が見えるようになっていたのですが、今回は見えないようになっていて無難な演出。お富が海に飛び込む場もカットされて、全体として簡潔に演じられていました。

梅玉と時蔵のコンビは品の良いさらっとしたところが似ていて、お互いに演じやすいのではと思います。。時蔵も前に金丸座で仁左衛門と組んでお富を演じた時より今回の方がしっとりとしていい女に見えました。梅玉は最初の若旦那の時はそれらしい雰囲気が出ていて良かったのですが、切られ与三になってからは凄みがあまりなく、私には「押し借り強請り」をする人物には見えませんでした。けれど姿はきりっとした粋な「切られ与三」でした。

「源氏店」の与三郎、「おい、安」からのセリフは抑揚をつけない普通の会話調。「そりゃぁ、なぁ」からは歌っていましたが「しがねぇ恋の情けが仇!」のセリフの続きでお富に「おう、見や」というセリフのイントネーションが、聞き覚えた十一代目のとちょっと違っていたので気になりました。

このセリフ「髪結新三」の中で新三が手下の勝奴に「勝、見や」と言って弥太五郎源七を小馬鹿にする時と同じセリフですが、いかにもふてぶてしい感じのする独特の言い方だと思います。

このふたつの「見や」、意味するところは違いますが、このセリフひとつに新三や与三郎の、与太者らしさがにじみ出ていると思います。梅玉の与三郎は「源氏店」でもあくまで大店のぼんぼんが基本という風に感じました。

蝙蝠安の吉弥は小悪党らしいアクがあってはまり役。このさっぱりした「源氏店」に陰とコクを与えていました。藤八の権一も本来はもう少しお富にべたべたとまとわりつく、いやらしい役だと思いますがあっさり演じていて、やはり鑑賞教室というのが意識されているのかと思いました。

今度の上演にはその他鐡之助、歌江、幸右衛門などベテランの役者さん達が何人も名を連ねていました。しかしこういう脇役さんたちは目立たないように芝居を支えているので、特別眼につくというものではなく、そこがまた良い脇役と言うものだろうと思います。

小さい事ですが「木更津海岸見染」の場で、金五郎と一緒にぐるっと客席を一周してきた与三郎が、花道で酔っ払いとぶつかって羽織の紐を切り、それがあとの「羽織落とし」に繋がるという大事なところがあります。ここで思うように羽織が肩から落ちなかった与三郎の梅玉、反対側の手で羽織をずらしていたのには苦笑。もうちょっとわからないようにやって欲しかったです。

この日の大向う

幕間に、お上手だと評判の角刈りの大向うさんをお見かけして、どんな風に掛けられるかを拝見させていただきました。

その方はどちらかというと渋いお声で、その時によって大きくズバッと掛けられたり、独り言風に小さい声で掛けられたりするんです。掛けるポイントとしては「見染の場」でお富一行が花道を出て七三でひとしきりあって、さて本舞台に移動しようかと動き出した時「萬屋!」と掛けられていました。

それと金五郎と与三郎が客席の間をまわるために本舞台を降りてきて、歩き出す瞬間「高砂屋!」。こういう時なかなかどこで掛けたらいいのか分からないので、なるほどなぁと参考になりました。

大向うの会の方は「屋号、〜代目、〜町」の他は掛けられないと聞いていたので「源氏店」の名セリフ前で何と掛けられるか興味を持って注目していました。すると与三郎が部屋に上がってきて懐に手を入れグッと下げたその瞬間、「まってました」と絶妙の間で掛けられ、実に気分が良かったです。

与三郎とお富がふたりそろって見得をする時は、「ご両人」と掛けられるかなと思っていたのですが、ここは「高砂屋」。やはり主役は与三郎の梅玉、「高砂屋」ということなんだなと思いました。 柝頭の後には「高砂屋」に続けて「萬屋」と掛けられていたようです。

この方の掛け声で私が一番いいなあと思ったのは、「見染の場」でお富が(与三郎のことを)「それならあれが噂に聞いた・・」皆々「え〜」お富(あわててごまかすように)「良い、景色だねぇ」と言うセリフの時、「良い」の後に「ぃ萬屋!」という具合に掛けられた声!理想的な掛け声だと思いました。

この日、他に掛け声を掛けられた方は一般の方が1〜2人いらしただけでしたので、この大向うさんの独壇場。しかし中学生にとってもきちんとした大向うを聞けたのは良かったのではないかと思います。ウォッチングに書かせていただきまして有難うございました。

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