与話情浮名横櫛 濡れ場と責め場 2003.3.15

14日、歌舞伎座夜の部を見てきました。

与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)のあらすじ
木更津海岸見染の場
伊豆屋の長男、与三郎は自分が養子なので身を引き、弟に跡を継がせようと考えわざと放蕩した結果、ここ木更津の親類にあづけられている身である。
海岸へやってきた与三郎は、そこで土地の顔役赤間源左衛門の妾、お富と出会い二人はお互いに強く惹かれあう。

赤間別荘の場
源左衛門が留守の夜 、噺家相性の手引きで与三郎はお富のところへ忍んで行く。二人が逢引していると、そこへ源左衛門が突然帰ってきて、見せしめに与三郎を顔といわず身体といわず、めった切りにし、簀巻きにして海へ放り込む。

一方海岸へと逃げたお富は「与三郎は殺された」と聞き、言い寄るみるくいの松を振り切って海へ身を投げる。

源氏店の場
それから3年たち、お富は海から助けあげてくれた多左衛門の囲い者となっている。
そこへ仲間の、こうもり安と一緒にゆすりにやってきたのが与三郎 。てっきり死んだとばかり思っていたお富が、生きていてしかも亭主まであると聞き、刀傷だらけの顔をかくしていた手ぬぐいをとって「この34箇所の傷は誰のために受けた傷だ」と言ってお富を責める。

お富は「囲われ者とは表向きで、色めいたことは何もない」というが与三郎は信用しない。そうこうするうち、この屋の主、泉屋の大番頭、多左衛門が帰ってくる。話を聞いた多左衛門は与三郎がお富の恋人だと悟り、一応15両の金をやって帰す。そしてお富に自分がお富の本当の兄だと明かす。

戻ってきた与三郎はそれを聞き、お富と抱き合って喜ぶのだった。

前回「赤間別荘の場」が演じられたのは、平成7年のことで最近では、「見染の場」と「源氏店」だけが上演される事が圧倒的に多いようです。

今回この「赤間別荘の場」が上演された事でお富の性格や二人の関係がよりはっきりと判るようになりました。
「見染の場」では一瞬で恋に落ちた二人の気持ちが、お富が何度も何度も振り返りながら去りがたい様子を見せる事で、良く出ていたのではないかと思いました。

「赤間別荘の場」ではお富が常に積極的で客席の笑いを誘います。この場の与三郎は本当にうぶで気が弱い大店の若旦那というかんじがよくでていました。

この場では寝室の中が透けて見え、お富が着物を脱いで襦袢姿になるところをみせたりする色っぽい場面があり、その後赤間源左衛門と子分どもによって、悲鳴をあげながら逃げ回る与三郎が切り刻まれる残酷場面があります。

普通濡場は濡場だけ、責め場は責め場だけがその場の見せ場になると思いますが、この「赤間別荘の場」には両方とも取り入れられているのが珍しいといえます。

この「赤間別荘の場」はいろいろな意味で効果的な場なので、いつもカットされてしまうのは惜しい事だと思いました。

ちなみに濡場で有名なのが「小猿七之助」「天衣紛上野初花」「十六夜清心」などで、この「赤間別荘の場」はかなり具体的でしたが、歌舞伎ではたいてい象徴的なポーズで表現される事が多いです。

また責め場で名高い演目としては「椿説弓張月」「曽我綉侠御所染」(通称時鳥殺し)「明烏」などがあげられます。

「源氏店の場」で傘を半開きにしてさし、赤い糠袋の紐を口にくわえて出てくる玉三郎のお富は、実に仇っぽくてお風呂上りのしっとり感が出ています。言い寄ってくる番頭の藤八のあしらい方も世慣れていて、したたかさを感じさせます。

そこへやってくる仁左衛門の与三郎と、勘九郎のこうもり安。勘九郎は顔をあまり老け顔に描いていませんので、時々若さが出てしまいますが何と言っても間がいいので見ていて楽しめます。

「おい安、てめぇそれでよけりゃ先にけえんな」からの二人の会話、勘九郎は私がCDで何百回も聞いた勘三郎とも違う自分の安を演じていたようです。人によってはやたら速くなってしまうこの場面、勘九郎の安はどちらかといえばゆったりと受けていて良かったです。

この二人の会話が絶妙なので続くお富の「あの時私もながらえる〜」が前に聞いたときはなんだかブツブツ切れて聞こえたのが今度は本物の情が感じられ、流れるようでした。

仁左衛門の「切られ与三(よそう)と異名をとり〜」のところは、伝説的与三郎役者、十五代目羽左衛門の台詞回しを取り入れているような感じです。十五代目のこの台詞をテープで聞いたことがありますが、まるで歌うような感じで現代の役者の台詞回しとはだいぶ雰囲気が違いますので、現代の観客にはかなり奇妙に聞こえるかもしれません。

さて、仁左衛門の与三郎、この家にやってきて、しばらくの間外の柳の下で待っているところがありますが、その時に何をしているのかずっと知りたいと思っていたんです。昨日ようやく確認しましたが、なんと小石を使って足で「おはじき」をやっていました。

なんといっても姿がいいのが仁左衛門の与三郎の最大の長所です。もって生まれた姿が良いというのでなく、歩く姿勢、あぐらをかく姿勢、背筋をピンと伸ばして前に手を組んで戸口に腰をおろす姿勢、立ち姿、どの瞬間をとってもきりっとしていて美しく、与三郎にこれほどピッタリな人は現在いないと思われます。

昨日はなぜか「源氏店」になって声の調子が少し悪くなり、咳をしながら演じていましたが、「見染」や「別荘」ではつっころばしのような与三郎ですので高めの声が役に合っていました。

この他は富十郎の「吃又」と勘九郎親子の「連獅子」。
富十郎の又平は最初の長台詞にはちょっと不自然さを感じましたが、後は又平の愛嬌が良く出ていて良かったと思います。
芝翫のお徳は富十郎の又平と相性抜群で良い顔合わせでした。

左團次の土佐将監も眼鏡をだしてかけ、虎を観察するところなどに彼のユーモアが生かされていると感じました。温かみが感じられる将監でした。虎に墨を塗って消す修理之助、「龍」と書いていたように見えました。虎をやっつけるのは龍というわけなんでしょうか。

「連獅子」は今回勘九郎と勘太郎、七之助の親子3人で演じられましたが、大分二人でやる時とは違うようで、普通は揚幕からでてきた子獅子だけが、後ろ向いたまま早足で花道七三あたりから一度引っ込むところを、三人が揃って後ろ向きで引っ込んだのでビックリしました。

毛振は勘九郎と勘太郎が完全に同時に振っていて七之助だけが少し遅れていました。全体を通して三人の気が揃って大きく見え、広すぎる歌舞伎座の舞台が狭く感じられました。ですが形が美しいのはやはり二人でやった時の方だと思います。

この日の大向う

沢山大向うさんの掛け声が聞こえました。田中さんは今日もいらしていて盛んに声を掛けていらっしゃいました。
連獅子の幕が上がって、すぐに長唄の今藤尚之に「たっぷり」「ひさゆき」と掛かったのはどなたの声だったんでしょう。

女の方で結構きっちりと掛けている方もいらっしゃいました。声の質が今一でしたが。
一階でも女の方の小さい声で声が掛かったりしてましたが、やはり三階でなければ思い切っては掛けにくいと思います。

源氏店で「ご新造さんへ」が始まる前に「まってました」と掛かりました。タイミングとしてはいいと思うんですが、知らない人は何を待ってたのかと変に思うらしくて少し笑いがきましたね。

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