仮名手本忠臣蔵 平成中村座 2008.10.6 W229

2日初日(AプロとBプロ)と4日(CプロとDプロ)、浅草浅草寺境内で行われている平成中村座公演をみてきました。

主な配役
大星由良之助良兼

仁左衛門(A)
橋之助(D)

塩冶判官高定 勘三郎(A)
勘太郎(C)
桃井若狭之助安近 勘太郎(A)
橋之助(C)
高武蔵守師直 橋之助(A)
彌十郎(C)
顔世御前 孝太郎
足利直義 七之助(A)
新悟(C)
斧九太夫 山左衛門
鷺坂伴内 松之助
加古川本蔵 小三郎(A)
仁左衛門(C)
早野勘平 勘太郎(A・D)
勘三郎(B)
おかる 七之助(A・D)
孝太郎(B)
大星力弥良春 新悟(A・B)
勘太郎(C)
鶴松(D)
小浪 七之助
戸無瀬 勘三郎
お石 孝太郎
与市兵衛 勘之丞
おかや 小三郎(B)
亀之丞(D)
寺岡平右衛門 橋之助(B)
勘太郎(D)
斧定九郎 橋之助(B)
彌十郎(D)
一文字屋お才 歌女之丞(B)
孝太郎(D)
判人源六 亀蔵(B)
勘三郎(D)
千崎弥五郎 勘太郎(B)
亀蔵(D)
不破数右衛門 彌十郎(B)
仁左衛門(D)
服部逸郎 勘三郎

「仮名手本忠臣蔵」のあらすじ
~段目の所をクリックしてくださると過去に書いたあらすじへ移動します。 すでにご存じの方はこちらへ。
大序 鶴ケ丘社頭兜改めの場(AとC)

二段目 桃井館の場(C)
桃井若狭之助の館では、先日の鶴ケ丘での言い争いのことを奴たちが噂している。そこへ塩冶判官の家老・大星由良之助の長男力弥が使者としてやってくる。力弥は桃井家の家老・加古川本蔵の娘・小浪とは許婚の間柄なので、二人きりで会わせてやりたいと心をくばる本蔵の後妻・戸無瀬は仮病をつかって小浪に力弥から口上を受け取らせる。

力弥はまず主人からの口上として、明日の登城時刻を颯爽と申しのべる。小浪は力弥と会えた嬉しさに寄り添おうとするが、力弥はそっとたしなめる。そこへ若狭之助が姿を見せるので、力弥はそのまま帰って行く。小浪はなごりおしげに見送る。

若狭之助は本蔵を呼び、絶対に反対するなと言いおいてから、先日師直から受けた屈辱をはらすため、明日師直を討つことを決心したと打ち明ける。本蔵はとめても止まらないと悟り、表面は賛同の意を表して、主人の刀で松の枝を切りこのようになさいませと言う。

だが、主人が奥へ入るやいなや、金をかきあつめて、家来がとめるのもきかずに馬に飛び乗り師直のもとへ賄賂を届けようと急ぐ。

三段目 足利館表門 進物の場(AとC)
     同 松の間刃傷の場(AとC)
     同 裏門の場(A)

腰元おかると逢引していたために、主人塩冶判官の一大事の場に居合わせることができなかった早野勘平は、近づくこともできない表門から屋敷の閉じられている裏門へのまわり、開けてくれと必死に頼む。しかし主人はすでに屋敷をだされ、他の場所に移されたと聞き、もはやこれまでと切腹しようとする。恋人のおかるはそれを押しとどめ、ひとまず自分の実家へ行って、時期をまとうと説得する。

四段目 扇ケ谷塩冶判官切腹の場(A)
     同 表門城明渡しの場
(A)

五段目 山崎街道鉄砲渡しの場(BとD)
     同 二つ玉の場
(BとD)

六段目 与市兵衛内勘平切腹の場(BとD)

七段目 祇園一力茶屋の場(BとD)

八段目 道行旅路の嫁入(C)
本蔵の妻・戸無瀬はなさぬ仲の娘・小浪を許婚の力弥に添わせるため、わずかな供を連れて旅にでる。途中で若い義母は娘に婚礼の夜のことを教える。小浪は恥じらいながら耳をかたむけ、湖のほとりで小石を拾い、力弥に想いをはせながらいとおしげになでる。富士を仰ぎ、浜名湖をすぎ、いよいよ琵琶湖が見えてくると親子は婚礼への期待に胸をはずませる。

九段目 山科閑居の場(C)

十一段目 高家表門討入りの場(B以下同じ)
       同 奥庭泉水の場
       同 炭部屋本懐の場
       同 引揚げの場 

    

中村座の従来のメンバーに仁左衛門、孝太郎が加わった今回の忠臣蔵は、仁左衛門が四段目と七段目の由良之助を演じる通し上演(AプロBプロ)、加古川家に関係するところだけを集めたCプロ、五、六、七段目を勘太郎が勘平と平右衛門を演じ、勘三郎、仁左衛門がごちそうででるDプロという、いろいろな切り口から忠臣蔵を味わおうという趣向です。

ことにAプロで34年ぶりに上演された裏門の場、Cプロの桃井館の場と珍しい場が見られたのはうれしく思いました。

さらにおかるが勘平に会いたいばかりに問題の文を持ってくる「文使い」もやれば、おかる勘平の二人と判官切腹との関係がよくわかったでしょう。仁左衛門のインタビューに今回は本蔵編をやるが、勘平編もやってみたかったとあるので、いっそDプロを勘平編にしたらさらに面白さがましただろうと思います。

長大なお芝居を~編と主人公別に分けるのはなかなか興味深いやり方で、中村座では「義経千本桜」をその方式で演じ成功したことがあります。

大序はAプロが師直の「はええわ」で判官、若狭之助三人揃っての見得の最後まで、Cプロの方は「環御だ」のところまでと少し短くなっていました。

橋之助は師直と若狭之助、定九郎、由良之助、平右衛門と五役を演じましたが、若狭之助が一番ニンにあっていて颯爽としていて立派だと思いました。師直も平右衛門も面白かったのですが、口跡の癖が人物になりきることを邪魔していたように思います。定九郎は出てきたところの美しさは錦絵のようで、ただ一つの台詞「五十両」も両がさがったりせずきまっていましたが、死に方は今一ぎこちなかったです。

仁左衛門の四段目の由良之助は判官切腹の場にこけつまろびつといった体で登場するところが素晴らしく、いかにも遠いところから必死の思いでやってきたという風情でした。瀕死の判官から仇を討ってくれと暗黙のうちに頼まれた由良之助が「委細」と言って大きく自分の胸をたたくところでは、この人はなにがあっても約束を守るだろうということを納得させました。

城明け渡しの場でも仁左衛門の由良之助にはあいまいなところが一切なく、輪郭がくっきりとした由良之助だと感じました。七段目も柔らかさや遊び、余裕があるにもかかわらず、きっぱりとした由良之助が印象に残りました。

Cプロの本蔵は二段目の桃井館で普通の父親として娘に優しい心遣いをするところや、婿になる力弥のことが大変気に入っているところを見せるので、それが山科閑居の背景となって、九段目だけを見ても分かりづらかった、自分が死んでも二人を添わせてやりたいという親心がよく理解できました。

またDプロの六段目の不破数右衛門も、どっしりとした存在感が由良之助とだぶって見え、この不破に対して勘平の勘太郎は一層若さとはかなさが強調されて見えました。

勘太郎はなんと八役をこなしました。勘平も以前よりずっと身について、今わの際で「かる、かる」とつぶやく様子にはジンときました。中でも平右衛門が似合っていて身体をおしまずに目いっぱい使う小気味の良い平右衛門でした。七之助は足利直義、おかる、小浪の三役で、七段目のおかるの台詞の言い方が、とても玉三郎に似ていてはんなりとした雰囲気がありました。

新悟は直義の台詞まわしが驚くほどよく、力弥は首が少し長すぎてバランスが悪いのが気になりました。亀蔵は薬師寺が秀逸。師直、定九郎も演じた彌十郎には石堂の人情味が一番似合っていました。鶴松の七段目の力弥も、幼いながら柔かさが出ていてよかったです。

勘三郎は今回塩冶判官と判人源六、戸無瀬それに服部逸郎の四役を演じ分けましたが、私はCプロの戸無瀬が一番良かったと思います。小浪を斬ろうと刀を構える件で、お石の「しばらく」と止める声が聞こえるたびに狼狽するところが、いかにも母親らしい気持ちがあらわれていると感じました。このあたりは緊張感にみちていてひきつけられました。

しかしながら引き上げの場の服部が赤穂浪士がみな花道へ引っ込んでも本舞台に残って最後に台詞を言うのはすっきりせず、去っていくのとと同時に幕にしたほうが潔いと思います。

孝太郎は顔世とおかると一文字屋お才、お石の四役で、顔世が良かったように思います。おかるはまだ初日だったためか、七段目で手紙を盗み見ている時に抜け落ちる簪が途中でひっかかってしまってハラハラしましたが、由良之助の仁左衛門が実にさりげなく助けていました。孝太郎の六段目のおかるが紫の帽子をつけていたのは上方風なのかしらと思いました。またお才には、遊郭の女将の酷薄なところがにじみ出ていましたし、お石にも戸無瀬に負けないだけの風格があったと思います。

鷺坂伴内の松之助は、ぽっちゃり型の伴内というのが珍しかったですが、とても間がよいなと感じました。片足を出したらバッサリというのも、ちょっと変わっていて最後にくるっと回転するところが御愛嬌。

ところで時によると、そのまま仏壇の前に戻ってしまう六段目の縞の財布も、今回はちゃんと不破の手に渡って勘平の代わりに討ち入りに参加できたようでほっとしました。(^^ゞ

平成中村座の忠臣蔵は、中村座の寸法にぴったりと合った正攻法の中身の濃い舞台で、役者さんたちが様々な役を入れ替わり立ち替わり演じるのも面白く、十分に楽しめました。

この日の大向こう

2日は昼も夜も会の方が5人くらいずついらしていて、とても華やかでした。四段目判官切腹の場では予想したよりは声が多く掛かっていましたが、歌舞伎座だったらもう少し少なかったのではないかなと思いました。中村座の雰囲気に合わせてということなのでしょう。

実際中村座は、飛行機の音とか近くのスピーカーから音楽などがどうしても聞こえてくるので、静寂はあまり期待できません。

4日は昼夜とも会の方はおひとりだけで、一般の方も数人かけていらっしゃいました。夜の部では一階で女の方が掛けていらっしゃいました。たいていは大向こうさんの後からでしたが、一度だけ下女・りんの引っ込みで「小山三」と、おひとりで掛けられた声には、小山三さんの姿に似合った可愛らしさを感じました。

勘三郎さんの戸無瀬の刀をつくきまりで「十八代」という声がかかっていましたが、やはり十八代目では語呂が悪いということなのかしらと思いました。

10月平成中村座演目座メモ

「仮名手本忠臣蔵」
Aプロ
大序    鶴ケ丘社頭兜改めの場
三段目   足利館表門進物の場、松の間刃傷の場、裏門の場
四段目   扇ケ谷塩冶判官切腹の場、表門城明渡しの場
Bプロ
五段目   山崎街道鉄砲渡しの場、二つ玉の場
六段目   与市兵衛内勘平切腹の場
七段目   祇園一力茶屋の場
十一段目 高家表門討入りの場、奥庭泉水の場、炭部屋本懐の場、引揚げの場
プロ
大序    鶴ケ丘社頭兜改めの場
二段目   桃井館の場
三段目   足利館表門進物の場松の間刃傷の場
八段目   道行旅路の嫁入
九段目   山科閑居の場
Dプロ
五段目   山崎街道鉄砲渡しの場、二つ玉の場
六段目   与市兵衛内勘平切腹の場
七段目   祇園一力茶屋の場

仁左衛門、勘三郎、橋之助、孝太郎、勘太郎、七之助、彌十郎、亀蔵、
新悟

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