夏祭浪花鑑 進化する夏祭 2008.6.18 W219

10日、渋谷シアターコクーンで「夏祭浪花鑑」を見てきました。

おもな配役(10日)
団七九郎兵衛 勘三郎
お梶 扇雀
一寸徳兵衛 橋之助
お辰 勘太郎
磯之丞 芝のぶ
遊女・琴浦 七之助
釣船の三婦 彌十郎
おつぎ 歌女之丞
義平次 笹野高史
大鳥佐賀右衛門 亀蔵

「夏祭浪花鑑」のあらすじはこちらです。

ドイツとルーマニアで公演を行ってきたばかりだという串田演出の「夏祭浪花鑑」。この演目はコクーン歌舞伎では3度目です。まず幕が開く前の様子が前回とは違っていました。私が客席に入って行った時、ボロ笠をかぶった義平次の扮装の笹野だけが客席の前の方でお客さんとなにやら話していて、見ているとそのまますでに幕が開いている舞台へあがり物陰に所在なげに腰をかけたのには、一体どうなっているんだろうと不思議に思いました。

そうしているうちに地方の方たちや登場人物すべてが三々五々客席中ほどの脇の扉からでてきて和気あいあいと顔見知りと挨拶しながら舞台へあがって行きその様子は、盆踊りに集まる町内会の人たちのようで、お芝居への期待感が高まります。

開演時間になると、団七が牢屋へおくられる原因となった喧嘩が始まり、それに続いて筵のはった何枚かの動かせる衝立の前に緋毛せんをひいただけの簡単な道具で「お鯛茶屋」の場が演じられるというスピーディな展開。

印象に残ったのは、背景の真ん中から上が全て一目で夏!という感じのまっさおな空に入道雲の絵だったことで、ヨーロッパの観客に季節をはっきりとわからせるためなのかと思いました。この空は後半の「団七家の場」ではたそがれ色になっていました。

ニューヨークでの法界坊をテレビで見てアドリブが多いのではと想像していた団七の勘三郎は、余計なものをそぎ落としたようなしまった団七でした。今回お辰は勘太郎と七之助の二人が前半と後半でダブルキャストで演じ、初日は勘太郎でしたがシャキッとした感じが良かったです。このお辰は半分くらい襟を返し、透けた黒の着物の下に赤い袖守りをつけていたようでした。

義平次の笹野は前回登場したときの、爬虫類を思わせるような独特な雰囲気が忘れられませんが、今回は幕開きの前にすでに普通の人としての姿をさらしてしまっているせいか、強い印象はありませんでした。と思ったら筋書きに笹野のコメントとして「今回は人間的な義平次をやりたいと思っています」とあってなるほどと納得しましたが、人間的な義平次からはあのねばりつくような暗い情念は感じられません。

泥場に入る前は、前回は休憩になりましたが今回は客席下手で和太鼓の奏者が威勢良く演奏する間にカッパなどを配り休みを取りませんでした。序幕で長町裏まで一気にもっていってしまうわけで、以前よりもますますスピードがましたように感じます。

コクーンの泥場ほどたくさん泥を使う夏祭の泥場は見たことがありません。ゆるい液状の泥をたっぷりとたたえた泥の池を真中に本ものの火がともされた紙蜀が舞台のふちへ並べられ、駕籠を返してしまったあとだんだん暗くなっていく中、団七と義平次を面明かりが照らし出し、赤い褌ひとつになった団七が見得をするたびにスポットライトのような照明があてられ背後の黒幕に団七の影がくっきりと浮かびあがるという手法は串田演出ならでは。

団七が全身泥まみれの義平次を殺してしまったあと、面明かりが燃え上がるのと同時に黒幕が落とされ、舞台がぱっと明るくなって奥から祭りに浮かれる人たちが「ちょうさやようさ」と踊りながら客席になだれ込んでくる場面は色彩豊かでエネルギッシュ。

人々が去ったあと泥の池に片足踏み込んで「悪い人でも舅は親。おやじどん、許してくだんせ。」と叫んだ団七は階段をかけあがって客席後方に走り抜けていきました。その後へ来た徳兵衛が団七の雪駄を拾い、団七が義平次を殺したことを悟るという場面は、普通の長町裏では見られないところです。

二幕目の「団七家の場」では人が変ったようになって後悔にうち沈んでいる団七のために、徳兵衛と団七の女房お梶が示し合わせて一芝居うち、お梶を離縁させて団七を親殺しの残酷な刑にあわせまいとします。以前も感じたのですが、この家の中に強く青白い色の照明を使うのは、少し現代的すぎるようで違和感がありました。

団七が逃げ回る場面ではミニサイズの家を捕り手が投げ合ったり、寺の大屋根の上に登った団七を人形で見せたり、そこから降りてきた団七が人形振りだったり、大梯子を使った客席内通路での立ち廻りなどは、前と同じ演出だったので初めて見たときの衝撃はなかったものの和太鼓のリズムにのっての立ち廻りは迫力十分。

最後に舞台奥の壁を壊して劇場の外に逃げていく、団七と徳兵衛。サイレンが聞こえてきて、サーチライトが点滅する中、スローモーションで戻ってくる二人を追って壊れた壁のところにあらわれたパトカーの上には「POLIZEI」とドイツ語でかかれていたのにはニンマリ。そういえば始まるまえに、だれかがドイツ語とおそらくルーマニア語で観客になにやら質問していたようでした。

それからもはやコクーン歌舞伎恒例となったスタンディングオベーションとカーテンコール。メンバーが順々に登場し、勘三郎の簡単な挨拶がありました。和太鼓の奏者がひとくさり笛と演奏し、この音楽にのって二度目のカーテンコールはメンバーが中央の通路まで出てくるU字型行進。スピード感があるエネルギッシュなお芝居に観客はおおいに盛り上がっていました。

最後に筋書きに載っている役者さんたちの写真が、皆テキヤのおやじさんような格好だったのはいかにもコクーンらしい趣向だと思いました。

この日の大向こう

初日のこの日は序幕から大向こうの会の方たちも5人見えていたので、この分では他の劇場はさびしいだろうなと思いましたが、良い感じに分散して声を掛けていらっしゃいました。コクーン歌舞伎は充分な間のあるときもあるんですが一般的に大向こうを入れることができる間が普通より短いようで、それは演出の意図ではないかと思います。

花道のお辰が「うちの人が好くのはここじゃない、ここでござんす」とポンと胸をたたいた時には、一斉に気持ちよく声がかかっていました。

コクーン歌舞伎演目メモ
「夏祭浪花鑑」 
勘三郎、橋之助、扇雀、勘太郎、七之助、彌十郎、亀蔵、笹野高史、

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