妖奇譚 其の壱 もののけたちの住む街
1.昼の世界
闇の世界で起きる不思議な事件。それを解決する正義の妖怪たち。今回は都会の片隅で起きた小さな事件について語ることにいたします。
niga:新しい冒険が始まります。D&Dに続いて選ばれたゲームは”GURPS妖魔夜行”。そして当グループ初の掲示板によるオンラインセッション。まずはお試しセッション。やりますか!!
88:D&D以外でマスターってのはなんだか違和感があるな。手探り状態ではありますがとりあえず始めてみましょう。
これから起こる出来事は、あなたとこの物語を読んでいる全ての人の想像上の出来事です。仮にあなたの記憶にある実在の地域、団体、人物が出てきたとしても、この物語との関係は一切ありません。
これからしばらくの間、あなたの心はあなたの体を離れてこの不思議な世界の住人のもとへ移ります。この旋律とともに…。
●オープニングテーマ:パープルヘイズ/ジミ・ヘンドリックス
裏コメント:チャットでのセッションも、なかなかメンバーがまとまった時間をとれなくて、ゲームが出来ない状況が続いていました。そこで出会ったのが掲示板セッション。
これなら時間を気にせずプレイができるのでイケるのではないか?ということで始めてみました。
■田町16:00
GM(88):静寂の中、突然の君の携帯電話の着信音”パープルヘイズ”が鳴り響いた。君は田町にある三田図書館の閲覧コーナーで、今日締め切りの原稿「虐待を受けるこどもたち」をパソコンに打ち込んでいた。
氷牙(niga):慌ててディスプレイを閉じて、パソコンを小脇に抱えてその場を立ち去るね。
GM:ではここでPCの自己紹介をどうぞ。
氷牙:オレの名は飛騨 氷牙(ひだ ひょうが)。オレは物臭な人間だ。人間と言っては少し語弊があるかな。まあその件については追々わかるはずだ。オレは二つの仕事を持っている。一つは某オカルト雑誌の記者。どちらかというとオレ向きの仕事ではないけど、人間は労働しないといけない生き物だろ?…とりあえずこんな感じかな。
GM:オッケー。着信音は30秒間弱まることなくなり続け、氷牙がちょうど図書館を出たところで止まった。この着信音は特定のメールで鳴るように設定されている。氷牙は赤いボーダフォンを取り出し内容を確認した。
【発信者】豪徳寺 たまき(ごうとくじ たまき)【件名】今夜のデート。
【内容】「渋谷で待ってるよ。たまき」
GM:例の如く彼女から誘いのメールだ。携帯電話の時刻はちょうど午後4時を表示していた。
氷牙:そして自己紹介モノローグはこう続くわけだ。…これがオレのもう一つの仕事。こちらは簡単でオレ向きだ。発信者の豪徳寺たまきはオレの仕事の相棒だ。
裏コメント:妖魔夜行のPCはヒーローであり妖怪なのです。そして普通PCたちは”ネットワーク”という妖怪たちのグループに所属しています。氷牙とたまきも同じ”ネットワーク”の一員なのです。
GM:メール着信から2時間以内に指定された駅のコインロッカーに行かなければならないお約束になっています。だから午後6時までに渋谷のコインロッカーに行けるように行動してください。ちなみに田町〜渋谷は電車で約20分です。また、図書館は午後8時に閉館します。原稿を仕上げるもよし、もう渋谷に向かうのもよし。まずはこんな感じでどうでしょう?
氷牙:まだ仕事まで時間はある。今書いてる原稿を仕上げてしまおう。
■田町17:00
氷牙:「虐待を受けるこどもたち」ってオカルト雑誌のネタなの?
GM:「虐待を受けるこどもたち」。これはオカルト雑誌のワンコーナー「都会の闇を覗く」の今月の記事だ。自分の体を痛めて産んだ子供に対して虐待する母親の行動は正気とはいえず、まるで妖魔が憑依したかのようだ。また、虐待を受けた子供たちも将来同じ行為を我が子に繰り返し行ってしまうという。こんな内容をオカルトっぽく記事にするのが氷牙の仕事だ。再び図書館に戻り原稿を書き始め、今夜のデートのためか、1時間で仕事を仕上げ編集部へデータを送信した。
氷牙:とりあえず原稿は編集部へメールしたし、電車で渋谷に向かおう。しかし、たまきの奴、いつも件名に”デート”という言葉を使うのはなんとかならないだろうか…。うかうか女の子にケータイを見せることができないじゃないか…。オレは苦笑を押し殺して電車に乗り、田町から渋谷のほんの15分くらいの間を少しまどろむことにした。
GM:なぜまだモノローグ調!?。
氷牙:掲示板だとついこんな発言になってしまう♪
■渋谷15:00
GM:時間は少し遡って…。15:00の渋谷です。
渋谷のセンター街は常に人の波が絶えない。そのなかでひと際目を引く、白いセーラー服を着た女子高生の姿がある。白いセーラー服(スカートも白!)だけでもかなり目立つが、赤いスカーフと赤いソックス、更に天然なのか巻き毛のショートカットが彼女の存在をより際立たせている。
「彼女ぉ、芸能界とかに興味ある?」若い男が彼女に声をかけた。今風のイケメン男性の前に彼女は立ち止まった。「写真集とか、ビデオとか作ってる事務所なんだけど、キミならすぐに売れるって!」と言ってイケメンはサッと名刺を出した。
名刺をじっと見た彼女は「ゴメンなさい。あたし、ちょっと今から行くとこあるの。その気になったら連絡します」と、両手を合わせてごめんなさいのポーズをとって「じゃ!」と、足早にその場を立ち去った。
「名刺GET!」彼女はニッと笑った。「ひょーがとデートの約束しちゃおっと」。
■渋谷17:20
GM:プレイに戻りましょう。氷牙はJR渋谷駅に到着した。この時期(6月)の夕刻は昼間の暑さも和らぎ、氷牙にとってはすごしやすい時間帯だ。それでも彼にとっては「東京は暑い所」には変わりないが。
氷牙:そうだね。
GM:デートの内容(とその相手も)は渋谷に行かないと分からない仕組みだ。なぜなら、このデートはたまきがお膳立てしたものだからだ(と言っても、氷牙は出張ホストという訳ではない)。
氷牙:そんな設定(出張ホスト)も面白いかもね。
GM:早い時間帯にも関わらず、氷牙と同じようなスーツ姿の男性も目立つ。が、やはり制服姿の高校生や大学生風の若者が多い街である。氷牙は人が賑わうハチ公口から外に出た。
氷牙:人ゴミをかわしつつ迷わず”シブチカ(渋谷地下街)”へと向かう。東急の食料品売り場”Food
Show”でお気に入りのソフトクリームを買う。
GM:氷牙は体を程よくクールダウンし、いよいよ待ち合わせの場所へと向かった。更に地下へ降りると、東急田園都市線の改札へ出た。目的地は券売機の後方にあるコインロッカーだった。ロッカーに対峙した氷牙はロッカーの扉を数え始めた。左側の上段から始めて、下へ2つ。更に右へ9つ。そこから左へ9つ戻る。その結果は、左側の上から2番目の扉ということになるはずだが、不思議なことに、その左側にもロッカーの扉が存在した。
氷牙:なんか怪奇スポットぽくていいね。
GM:氷牙はロッカーの中から、布で包んだ長い棒状の物(ロッカーの奥行きからは考えられ
ない長さ!)と寿司の折り詰めを取り出した。
寿司の折り詰めには女の子っぽい字で書かれたメモが付いている。
氷牙:たまきからのメモを読む。オレは相棒の指示に従うだけ。相棒が頼りさ。
GM:メモの内容は。
今夜のデートのお相手は、黄桜 銅男(きざくら てつお)、カッパです。今夜10時に渋谷TSUTAYA4階のアダルトコーナーに現れます。まぁ、一目で確認できると思うけど…。いつもの様に二人っきりにセッティングしとくから、思う存分プレイを楽しんでね。
追伸:アイスばっかり食べてるキミにジミーさんから差し入れです。どうぞめしあがれ。
GM:男と二人っきりで楽しいプレイって…。念のため言っておくが、氷牙はホモではない。
氷牙:当たり前だろ!
GM:さて、折り詰めの中身を確認すると、当然中には一口サイズにカットされた「かっぱ巻き」が入っていた。場の空気が2度程下がった気がした…。
氷牙:河童だから、カッパ巻…。ジミーさんの洒落はいつもあまり笑えない。まあ晩飯かわりにはちょうどよかったか。ロッカーの扉を閉める。
GM:ロッカーはその場から姿を消した…。
裏コメント:仕事の依頼方法などの設定はあらかじめ88とnigaで話し合って決めてました。
氷牙:そのまま地下鉄駅構内を早足で歩く、本屋の旭屋に入って新刊本などをチェックする。本屋に入るとなぜか落ち着くんだ。そして人間という生き物の知識欲と想像力にはいつも驚かされる…。本屋を一回りしてから地上に出た。
GM:不意に携帯電話が反応した。パープルヘイズのメロディではなく通常の着メロで、発信者は雑誌の編集長だった。電話に出ると、「ひだっち、今月のこれでOKだよ。それから今回の記事、続編もあるつもりでさ、先週、世田谷で起きた母子変死事件について詳しく調べておいてよ。この家庭も虐待があったらしいよ。
今度の記事も期待してっからね!」一方的に話して電話は切れた。
氷牙:午後10時までまだ時間は十分あるな。映画でも観るか。
氷牙:平日の映画館は空いていて好きだ。カッパ巻を口に放り込みながら映画を観る。吸血鬼と人間のハーフの黒人が、銃や剣を使って吸血鬼を倒すという映画らしい。ド派手なアクションと圧倒的なパワーで吸血鬼を倒しまくっている。オレの気持ちは少し複雑だ。現実はこんなにかっこいいものじゃあないぜ。
GM:「ブレイド」?
氷牙:そう。妖魔夜行の世界を暗示しているという演出です。
GM:なるほど。
氷牙:映画も終わり、映画館を出てTSUTAYAの2階のスターバックスカフェへ。
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