小説
アフターコロナ
Episode 03 ジャイアントパンダの見解
ああそうなの。どうりで、最近、見物人が来ないと思った。
見物人だけじゃないんだよ。飼育係も来ないんだよ。
そろそろ笹の在庫が尽きるんで、困ってるところなんだ。
最初はね、感染症の影響で、見物の人を制限してるのかと思ってたんだけど、そのうち、飼育係も来なくなっちゃった。
え? 中国から来たんだから中国人ぽく喋れって? 無理だよ。日本で育ったんだから。
「新しい笹、もてきてくれる人なくて、困たアルヨ」
これでいい? え? これ中国語じゃないの? 中国人がしゃべるっぽい日本語?
それはそうと、人間って、下品だったよね。
そうでしょ。とにかくね、僕たちの交尾を見たがるんだよ。隠しカメラまで仕掛けてね。あれ、裏ビデオとして流通するのかな。
それにね、交尾させるために、わざわざ中国からメスを連れてくるのはいいんだけど、僕より年上ばかりなんだよね。うん。かなり年上。
僕の守備範囲は、2歳年上までかな。
で、何もする気がないのでほっとくと、「早くやれ!」だの「産めないのか!」とか言うの。悪趣味だよね。
で、仕方なくやっちゃうと、僕たちがなにしたかって、ニュースにしちゃうんだよ。
恥ずかしいよね。
人間だって、自分がそういうことされたらいやでしょ。寝室にカメラ設置されて、翌朝には、「交尾成功」とかって言われるんだよ。
もっとも、そのあとは同じかもしんないね。「いつ生まれるの?」とか「オスかメスか」とか、話題になったり、祝福してもらえることは有難いからさ。
人間だって、「昨日、交尾に成功しました」って、職場で報告したりしてもいいんじゃない? 僕たちにそれをさせてるんだから、自分たちもやれよ、って話。
まあ、それはいいとして、人間から解放されるわけだから、僕も、もっと若いメスがいて、本場の笹があるところに行きたいな。中国に帰るには、どこから船に乗ればいいんだろう。
船を動かす人がいないって?
「それは困ったアルヨ」