HOME > アラカルト > 久遠の空 > 越後平野の稲架木
久遠の空 −1枚の写真に寄せて−
「昭和」という響きがもう既に懐かしい過去のものであるかのようになってしまった今、「昭和」というのはすべてがレトロであり、レトロというのは「昭和」であるかのように語られることが多くなりました。しかし、「昭和」というのは64年もの長い年月をさすもので、とても昭和レトロの一言でくくられるものではありません。特に私たち昭和生まれの人間にとっては、昭和の各年代はそれぞれ全く別の時代であったはずです。
そこで、そういった昭和のある一コマを切り取った写真をご紹介するコーナーを作ってみました。
越後平野の稲架木(1985年)
撮影:帯織−東光寺(1985.3.8)
雪の越後平野を行く信越本線の普通列車です。
編成は9両編成ですが、そのうち手前の3両は荷物電車です。かつて国鉄の長距離普通列車は、たいてい荷物車を連結しており、各駅で荷物の積み降ろしを行っていました。短い停車時間内に慌しく行われる積み降ろしや、ターミナル駅のホームで荷物を満載して轟音で走り抜けるモーターカーや、出札口に隣接していた手小荷物取り扱い窓口などは、今となっては懐かしい風景です。
国鉄の合理化により普通旅客列車の編成や運転区間が短縮されていき、並行して高速道路の整備とともに荷物輸送は自動車輸送へと移行していきます。そして、1980年代に入るとこのような荷物車を併結した列車と言うものは急速に姿を消していったのです。
このとき私は春休み。消え行く荷物車併結列車を撮影しようと、新潟県、長野県、静岡県へと旅をしていました。旅の初めに訪れた新潟県を最後に再び訪れ、この「三重連」に狙いを定めました。雪の原野に一人カメラを構えていると、足元からじんじんと冷えが伝わってきたものです。右側に並んで立っている木は越後平野独特の「稲架木(はさぎ)」です。これも姿を消しているそうです。
Copyright "Age25". All rights reserved. Never reproduce or republicate without written permission.