わたしは退屈しのぎに、ゲームセンターでUFOキャッチャーをやっていた。100円で2回なので、よほど余裕があるときでないとできない。ふと立ち寄ってしまい、買うはずだった夕飯のおかずが変えずにコンビニのパンで済ませたことも多い。
このゲームは結構得意で、昔は後ろに人だかりができるくらいだった。今はたまに取れたらラッキー、程度の思いでやるくらいだ。
しかし、今日は少し違っていた。
わたしは今日の戦利品、5つのぬいぐるみを袋に入れると、ゲーセンを出る。すでに外は暗くなり始めていて、日中以上に冷え込みが激しくなる。できるだけ寒くないうちに、しかしできるだけ暗くなってから実行したい。今日こそ、かねてからやってみたかったことを実現させるのだ。
今まで取ったぬいぐるみが入った袋を抱えて、わたしは裏通りに入った。
目的の場所が見えてくると、それからしばらく電柱の周りをうろうろして時間を潰す。寒くてじっとしていられない。この辺りは住宅街で、冬ともなれば、ほとんど人通りはない。怪しい人だと思われることもないだろう。
北国の冬は、日が落ちるのが早い。大して待つことなく、辺りは真っ暗になった。
周囲の家々の窓から光が洩れる。その光に照らされないよう気をつけながら、わたしはある建物の裏に回り込み、そっと裏口に近づいた。となりの家から見られないよう、身を低くしてドアの前の階段の上に袋を差し出す。近づいたとき、窓の奥からくぐもった、子どもの声が聞こえた気がした。
用事を済ますと、素早く建物の隙間から抜け出し、裏通りを出る。ほっと息をつくと、真っ白い煙のようなものが立ち昇った。
あの建物にいるのは、理由があって両親と暮らせなくなった、あるいはもともと親の顔を知らない子どもたちだ。人数は21人と、調べてある。
本当はクリスマスにやりたかったが、サンタクロースの訪問やそれを取材する地元の記者などがいては、こっそり訪問することはできない。それで、この大晦日に実行することにしたのだ。
取るのが楽しいだけなので、家に放っておいた、安いぬいぐるみなんてもらって嬉しいのかどうかわからない。メッセージカードを入れたので落し物として処理されることは無いだろうが、捨てられるかもしれない。いや、捨てるに捨てられなければ、押し付けがましい偽善ということになるだろう。中途半端な、おせっかいな行為だ。
単なる自己満足……それはわかっている。
でも、やらずに後悔するよりやって後悔するほうがいい。何かをすることで、人を喜ばせる可能性と哀しませる可能性の両方が生まれる。しかし悪い結果を恐れていては喜ばせることもできないままだ。
それも、しょせん自己満足の理論だけど。
自分も満足できなければ、他人を満足させることもできない。
FIN.