「変だ」
 呟く。
「絶対、変だ」
 部屋で一人、呟く。
「……きっと、何か理由が―――」
 必死に記憶を探る。行動を振り返る。きっと原因があるのだ。何か、きっかけが。
「でなきゃ、真央に―――嫌われる筈がない」
 月彦は部屋で一人、呻く。
 いつのまにこんな事になったのか。最後に真央の顔を見たのはいつか、声を聞いたのはいつか。
 月彦は少しずつ、記憶を遡っていく。













―――五日前。














「えっ…風邪?」
 それは、ある晩の事。夕食を食べ、風呂から上がった月彦が自室に戻ろうとした所で、ふと真央に声をかけられた。
「うん…、朝から…ちょっと熱っぽくて……。父さまに伝染すといけないから、今夜は別の部屋で寝ようと思って…」
 そう言う真央の顔は確かに熱っぽそうで、今もパジャマを着、廊下の壁によりかかるようにして立っている。
「いやでも、別に風邪くらい俺は…」
 と、月彦が何気なく真央の肩に手を伸ばす―――瞬間、びくりと体を震わせて、真央が大げさに飛び退いた。
「えっ…」
「あっ……」
 同時に、声が漏れる。
「あ、あのっ……妖狐の風邪って、ちょっと普通の風邪と違うから…。もし、父さまに伝染ったら、大変なことになっちゃうかもしれないから、だから……」
 慌てて、真央が言いつくろう。
「そ……っか。真央がそう言うなら……でも、具合が悪くなったら、すぐに呼ぶんだぞ。夜中でもいいから」
「うん…。じゃあ、父さま…おやすみなさい」
 真央は小さく漏らして、空き部屋―――元々は月彦の父親の部屋―――の中へと入っていく。月彦もその後ろ姿を見送ってから、自室に入る。
「風邪、か…。そっか、病院に連れて行くってわけにはいかないもんなぁ」
 毎日の生活の中で、ついつい真央が半分狐だということを忘れてしまう。真央の言うとおり、妖狐の病気がただの人間に感染した場合の事を考えると、こういった処置もやむを得ないような気がする。
「まっ、しばらくの辛抱だ」
 室内灯を消し、ごろりとベッドに寝ころぶ。いつもは狭いと感じるベッドが、今日は妙に広く感じた。





















―――三日前。



















「ただいまーっ」
 学校帰り。おかえりなさい、と返す母、葛葉の声にも上の空で早足に真央の部屋へと向かう。
「真央、具合はどうだ?」
 コンコンと軽くノックをしてから、がちゃりとノブを捻り、ドアを押し込む。今や使う者の居ない机と本棚に挟まれる形で、中央に布団が敷かれていた。
「あっ……父さま…」
 パジャマ姿の真央が慌てて体を起こし、月彦の方に力のない笑みを送る。その顔はまだ熱っぽそうで、微かに息が荒い。
「…まだ良くならないのか」
「うん…もうちょっと、かかるみたい」
「そっか…。何か食べたいものとかあるか? 飲み物でも―――」
「大丈夫、さっき義母さまがリンゴ剥いてくれたから…」
 そうか、とやや寂しげな声を出して、室内に月彦が一歩踏み出すと、
「あ、あのね、父さまっ」
 途端に真央が大きな声を出した。思わずぴたりと、月彦の足が止まる。
「あのっ…本当に、伝染ると大変だから、あんまり、側には……」
 来ないで―――とまではさすがに言えないのか、そのような含みを持たせた言葉の切り方。当然月彦にも、真央の意は解る。
「ん、真央がそう言うなら。俺は隣に居るから、なんかあったら呼ぶんだぞ」
 そう言って、月彦は部屋を後にする。
「はぁ…」
 ドアの向こうには聞こえないように、小さくため息。
 ここ数日、数えるほどしか真央と会話をしていなかった。それも毎回、真央が病気の感染や、疲れて眠りたいといった事を切り出してきて一方的に終わらせてしまうのだ。
「なんだかなぁ……」
 なにやらモヤモヤとした澱が腹の底に蹲っているような感覚。釈然としない何かが、月彦の中で頭を擡げ始めていた。














―――現在。

















 こんこん、とドアをノックする。部屋の中から、微かに衣擦れの音。
「真央、まだ具合が悪いのか?」
 控えめな声で尋ねる。うん…という返事が微かに聞こえる。
「稲荷寿司買ってきたんだけど、食べないか?」
「……父さま、ごめんなさい。今は…」
 掠れ気味な声。だが拒絶を示しているという事は十分に解る。となれば、月彦は引くしかない。
「そっ……か。じゃあ、また後でな」
 その“後”がいつになるのか、月彦にすらも解らない。はあ…とため息をついて、階下に降りようとすると、階段で姉の霧亜とかち合った。何故か小脇には洗面器を抱えている。
 霧亜がちっ…と、咥えたタバコの裏で露骨に舌打ちをする。
「邪魔」
 威圧的な声でただ一言。月彦は無言で壁に張り付き、道を譲る。霧亜はそのまま階段を上り、自室に入るかと思いきや、
「真央ちゃん、入るわよ」
 人が変わったような猫なで声を出してノックもせずに真央が寝ている部屋に入ろうとする。
 なっ…と、月彦は思わず駆け出した。
「な、なにやってんだよ! 真央は今、病気―――」
 慌てて駆け寄り、ドアを開こうとしている霧亜の腕を掴む。ぴくっ…と、霧亜の眉が動いた刹那、月彦は腹を蹴り飛ばされた。
「がっ…」
 廊下に尻餅をつき、鈍痛を堪えながら霧亜を見上げる。相変わらず汚いモノでも見るように月彦を見下ろすその顔が、ふいに緩む。笑顔―――ではない、嘲笑。
「病気だから、体を拭いてあげるのよ。…………ああ、そういえばアンタは部屋に入れてもらえないんだっけ。アンタ“だけ”」
 最後の“だけ”の所だけ殊更強調して、霧亜がくすくす嗤う。
「なっ……」
「あたしも母さんも部屋に入ったら駄目なんて一度も言われてないわよ。解る? 真央ちゃんが嫌がるのはアンタだけなの。……何か嫌われる様な事でもしたんじゃないの?」
 愉快そうに笑いながら、霧亜はさも簡単に部屋へと入っていく。月彦は呆然とそれを見送っていた。
「真央に……嫌われた?」
 呟きながら、よろよろと立ち上がる。
「嘘だ―――」
 真央に直接聞いて真偽を確かめないと―――そう思ってドアノブを握る。だが、それ以上ぴくりとも動かさせなかった。
 もし。
 もし真央に直接聞いて、そして霧亜の言うとおりだったら。
 父さまなんか大嫌い―――そう言われてしまったら。
「あッ………ぐッ……っ…」
 呻き。
 そのまま手を離し、ゆっくりと踵を返す。自室に向かって歩くと、何かが足に触れた。
 お土産にと学校帰りに買ってきた稲荷寿司のバックだった。霧亜に蹴り飛ばされた時に不覚にも体で潰してしまったらしく、原型を止めていない。酢飯の飛び散ったビニール袋を抱え上げ、部屋に戻る。
「真央…」
 ビニール袋をゴミ箱に放り、そのままベッドに倒れ込む。
「真央…」
 涙がこみ上げてきそうになるのを必死に堪える。そして考える。
 自分は本当に真央に嫌われてしまったのか。だとすれば、何故か。
 特にこれという心当たりはなかった。真央が風邪をひいたと言い出した日の前の晩までは普段通りだったのだ。それが急に、病気になった途端に月彦に対してよそよそしくなってしまったのだ。
 しかも、霧亜や葛葉に対してはそう言うこともないという。何故自分だけが、それも病気の症状の一つだというのか。
「もしかして―――」
 娘が父親を嫌いになる病気。否、それはある種の通過儀礼。月彦はそれに心当たりがある。
「反抗期って…奴か」
 そういう時期を迎える前に父親を亡くした月彦にはあまりよく理解は出来ない。だが、確かに母、葛葉に対して煩わしいと思うことはあったような気がする。
 真央はまだ生まれて四年程だが、肉体の成熟度的には人のそれとは比べるべくもない。ならば、そういう状態になる事もあながち頷ける話ではある。
「真央………………」
 どうしようもない胸の痛みに吐き気すら覚えて、月彦はマクラに深く頭を埋めた。隣の部屋からは姉、霧亜の楽しげな声が微かに漏れてくる。それが尚更に、月彦の寂しさを増した。


















 がさがさ。
 がさがさ。
 何か酷く耳障りな音に、月彦は目を覚ました。
 室内は暗く、恐らくは真夜中。ボンヤリとした頭で、自分がいつの間にか眠ってしまっていたのだという事を理解する。
「ん…?」
 意識が覚醒してくるに従ってより鮮明になる音。それに混じってなにやら話し声のようなものまでも聞こえてくる。もったいない、もったいない―――そうしきりに呟いているように聞こえる。
 暗いとはいえ、僅かに開いたカーテンの隙間から漏れる月明かりで室内のものの輪郭くらいは解る。一体誰が開けたのか、アルミサッシが少し開いていてそこから風も舞い込んでいた。
 まだ半分寝ぼけた頭で、耳障りな音はカーテンの音かと思ってサッシを締めても、相変わらず音は止まない。それもその筈、よくよく聞いてみると音は到底カーテンなどが弾き出すような類のそれではなかった。
 がさがさと、何かを漁るような音。ぶつぶつと聞こえる愚痴のような声。月彦は部屋の隅になにやら黒いものが蠢いているのに気がついた。
 何だろう―――そう思って、よくよく凝視してみると、不意にその黒いモノの動きが止まった。と思った瞬間、今度はもの凄い勢いで暴れ出した。
「なっ、ななななななんだ!?」
 黒い物体は不気味な音を立てながら、どたばたと縦横無尽に部屋の中を暴れ回り、はね回る。月彦は慌ててベッドの上に立ち上がり、室内灯を付けた。
 突然明るくなった室内に目を細めながらも、暴れ回っているものを見る。それは―――
「………………なんだ?」
 蒼い変な頭をした生き物がさも珍妙な動きを繰り返している図だった。しかしよくよく見てみると、頭だと思われたそれは月彦の部屋のゴミ箱であり、頭以外の部分は狐のような姿形をしているという事が解る。
 その狐の部分の前足がしきりにゴミ箱を引っ掻いたり、飛び跳ねたり、壁にぶつけたりしては奇妙な叫び声を上げていた。
 月彦は訝しみながらも狐の尻尾を掴み、さらにはもう片方の手でゴミ箱を引っ張ってやった。
 やがてすぽんと頭が抜けるや否や、狐はぼふんと煙を噴いて第一声、
「………あー………死ぬかと思ったわ」
 やたらと露出の多い着物を着た女―――真狐が目をぱちくりさせながらぶるぶると頭を振る。
「…やっぱり真狐か、一体人の部屋で何を―――」
 と、そこまで言いかけて、月彦はゴミ箱の中を見た。そこには破られたビニール袋、そして食いかけの稲荷寿司が残っていた。
「お前…拾い食―――」
「う、うるさいわね! 何処で何を食べようがあたしの勝手でしょうが!」
 真狐は大げさに怒鳴りながら、月彦の腕からゴミ箱をひったくる。そしてチラリと中を見た後、口惜しそうに月彦に視線を戻す。
「…あんたまさか、こんな事であたしに恩を売ったつもりになってんじゃないでしょうね」
「なんだそりゃ。まあ、ここに俺が居合わせなきゃ、あのまま窒息してたかもなぁ…」
 ふあ…と、何のけなしに月彦が欠伸を仕掛けた時、いきなりどんと胸を突き飛ばされた。ぐえっ、と悲鳴を漏らしながらベッドに倒れ込むと、真狐がひらりとその上に跨ってくる。
「ッて……いきなり何すっ―――」
「あたし、借りを作るの大嫌いなの」
 だから体で払うわとでも言わんばかりに上半身を被せてくる。ようは、なんだかんだと理由を付けた所で最終的にすることは変わらないという事なのだ。
 勿論―――というか、少なくとも普段の月彦であれば、この唐突な誘惑に一も二もなく飛びついている所なのだが、生憎と今日ばかりは事情が違っていた。
「悪い、今日はそういう気分になれない」
「む……本気で言ってるの?」
 真狐は不審そうな顔をして、なにやら月彦の額に手を当てるような事をしてくる。どうやら“熱でもあるんじゃないの?”と言いたいらしい。
「何よ、真央と喧嘩でもしたの?」
 真央、という言葉にズキリと胸が痛む。露骨に強ばった顔から、真狐は推測を確信に変えた。
「図星か。………で、喧嘩の原因は? また浮気でもした?」
 人の不幸は蜜の味とでも言わんばかりに笑みを浮かべ、うりうりと頬を突いてくる。
「そんなんじゃない。………………真央は、反抗期なんだ」
「…反抗期ぃ?」
 またしても首を傾げる真狐に、月彦はその結論に至るまでの経緯、ここ数日の真央との事をかいつまんで説明した。真狐は全部を聞き終わった後、珍しく難しい顔をしてうーんと唸る。
「……それ、多分反抗期じゃないわ」
「何言ってんだよ! じゃあ、ただ単に俺が嫌われたって言いたいのか!?」
「そうじゃなくて、ただ単に勘違いしてるだけ。アンタも、そして多分あの子もね」
「真央も…?」
「そ。要するに、真央は今―――」
 




















「はぁ………」
 熱っぽい息を吐いて、寝返りを打つ。
 体が火照って眠れない。夜は特にそうだった。
「父さま…ごめんなさい……」
 呟き、また寝返りを打つ。室温は決して暑くはない、だが、パジャマはしっとりと汗ばんでいた。
 体の火照りが日に日に増してくる。始めは微かなものだったが、それはいつしか容易には抗いがたいものへとなりつつあった。
 真央は本能的に、“それ”が何か悟った。そして思った。父親の―――月彦の側に居てはいけないと。
「んっ……!」
 僅かに。月彦の面影を思い出しただけで下腹が疼く。反射的に指を伸ばしてしまいそうになるのを必死に堪え、握りしめる。
 昼よりも夜の方が辛い。壁一枚隔てたその場所に月彦が居るということを考えるだけで体が火照ってたまらない。
 気を抜くとすぐにでも立ち上がって、ふらふらと父親の部屋に行ってしまいそうになる。―――それを、賢明に堪える。
「はっ…ぁん…」
 寝返りを打つ。パジャマと素肌の摩擦にさえ声を漏らしてしまう。痛いほどに勃起した乳首を刺激しないように注意して、また寝返りを打つ。
 まるで、別の意志が芽生え始めたかのように、何かにつけて手が局部へと向かおうとする。だが、それは無意味。自分でどれほど慰めても終わりが無いことを真央は既に知っていた。
「もう少し……もう少し、だから……んッ……!」
 本当に“もう少し”で体の火照りが収まるのか。それは真央にも解らない。しかしそれでも、そう思わなければとても耐え続ける事など出来なかった。
 一つだけ、今すぐに治める方法は知っていた。だがそれはある種の禁忌。一時の快楽の後にある責任。自分には到底背負えないと思う。
 だから、我慢する。そう決めた。しかし―――
「………ッ………!」
 突然、背後で物音がして、真央は咄嗟に身を竦めた。布団に頭を埋めながら、恐る恐る背後を振り返る。
 ドアが開いていた。そこに、人影が一つ。
「だ、誰…?」
 答えはない。そして代わりに聞こえる、ドアが閉まる音。人影がゆっくりと近づいてくる。
「と、父さま―――!?」
 慌てて体を起こし、逃げようとする。が、それよりも早く人影が忍び寄り、布団に押し倒された。
「真央…」
 聞き慣れた声が、耳元を擽る。瞬間、全身に痺れが走った。
「っ…ぁ……と……父さま……どうして………んっ……!」
 力強い腕に絡められ、ギュウと抱きしめられる。か細い抵抗の甲斐もなく、真央は背後から抱き竦められるような形になる。
「だ、だめっ……病気が、伝染っちゃう……!」
「…………………もう、伝染ってる」
 えっ……と聞き返したのは真央の方。ぎゅうっ………と、また包容が強くなる。
「真央、風邪っていうのは、嘘なんだろ?」
「………っ………………!」
 心臓が跳ねる。くすっ…と、背後で微かに笑い声。
「病気なんかじゃなくて、本当は……発情期」
「ちっ…違うッ…そんなんじゃ……ひっ……!」
 もぞもぞと、月彦の腕が動く。指の一つが、パジャマの上から膨らみを、撫でる。
「あっ…ぁぁっ………ぁっ……やっ……だ、だ、めっ………!」
 咄嗟に月彦の手首を掴み、動きを制止しようとする。が、愛撫によって与えられる快感に両腕ともあっという間に屈してしまい、手首を掴んでいる事すら難しくなる。
「あ、あ、あ……あぁぁ、ぁッ……だ、め……父さま、…や、やめ、てぇ……」
 パジャマの上からの愛撫。ブラを付けていないことが災いした。痛いほどに勃起した先端はすぐに月彦に見つかり、そこばかりを重点的に擦られ、つまみ上げられる。
 はあはあと呼吸ばかりが荒くなり、抵抗が出来ない。媚薬で感度を上げられるのとは比較にならない快楽に屈してしまいそうになるのを必死に堪える。だが、それ以上の事が出来ない。
 だから、月彦がパジャマのボタンを外しにかかっても、全く抵抗が出来なかった。やがて、その隙間から、直に手が差し込まれる。
「んっ……ぁ…やっ……! は、ぁ……!」
 始めこそ、やんわりと捏ねられるだけ。だがそれもすぐに荒々しい、搾るような愛撫になる。そう、真央が最も好きな、月彦らしい揉み方に。
「暫く触らないうちに、また大きくなったんじゃないのか?」
 苦笑しながらも、手は止めない。真央の呼吸がより荒くなるように。もどかしそうに蠢く太股が、より激しく動くように。
「ひっ…ぁっ……あっ…! だ、だめっ…本当に、駄目っ…なの、お願い…父さま…も、もう…ぁッ…あん…!」
 堅く尖った先端をぴっ…と、軽く擦るだけ。それだけで真央は体を仰け反らせ、声を上げる。
「駄目? 何が駄目なんだ?」
 月彦は手を止める。
「だ、だから…病気……父さまに、伝染っちゃう、から……」
「その病気っていうのはシたくてシたくてたまらなくなる病気、つまり発情期なんだろ? 熱があるのも、真央の体がこんなに敏感なのも、全部発情期だからだ」
「ち、違うっ…の……本当に、病気……」
 嘘をつく後ろめたさのためか、小声だった。説得力など皆無。
 だが。
「そうか、あくまで真央が発情期じゃないっていうんなら、別にこのまま続けても問題ないよな。勿論、真央の中にたっぷり膣出なかだししても、妊娠なんてしないわけだ」
 えっ…、と真央が声を漏らすより早く、月彦の手が動いていた。すっ…と胸から下がり、腹の辺りを意味深に撫でる。
「だ、駄目ッ…そんな事したら…父さまにも病気が伝染して……し、死んじゃうかもしれないから―――」
「そうなってもいい。………それくらい、今……真央を抱きたい」
 ぎゅっ…と、包容。あぁ…と、思わず声が漏れる。体に、火がつく。
「そ、そんなッ……わ、私………あッ…!」
 腹を撫でていた手が、不意にパジャマのズボンの下―――ショーツの中に潜り込む。くちゅり…湿った音が、不自然な程に室内に響く。
「…発情期でもないのに、もうこんなに濡らしてるのか。いやらしいな、真央は……」
「…ぁッ……! そ、そこッ…やっ……父さまっ…ゆ、指っ……あっあんッ! っ……ぁっ…ぁ、ぁあああぁっあッ!」
 仰け反り、叫ぶ。先程の胸へのやんわりとした愛撫とは裏腹に、荒々しくも的確な、真央の弱いところばかり攻める愛撫。部屋中に蜜壺をかき混ぜるような音を反響させながら、パジャマのズボンのシミがみるみるうちに広がっていく。
「真央のなか…凄いな……指が…溶けそうだ」
 月彦もまた、僅かに呼吸を荒げながら囁く。そのまま、狐耳をしゃぶり、舐める。
「ひっ…あ、あッ…! だ、めッ…あ、あぁッ………やっ…指ッ…そんな、奥、までッ……ぁ、ぁぁぁっあぁッ!」
 噎び、たまらず、月彦の腕に爪を立ててくる。勃起した尻尾が月彦との間で窮屈そうに暴れ、毛を逆立たせていた。
 また背後から、くすりと笑み。そしてショーツから抜かれる手。
「ぁッ……んッ…」
 再び、胸元。指先に絡み付いた恥蜜を塗りつけるような愛撫。あっという間に両胸ともローションでもぶちまけたかのように濡れそぼり、月彦の指の間で卑猥な音を立て始める。
「真央…挿れたい。……いいか?」
「ぅ………」
 戸惑うような声。甘い囁きに負けて即座に承諾してしまいそうになるのを理性を総動員して我慢する。
「…っ……と、父さま……ぁっ………」
 尻の辺りに押しつけられる強張り。その固さと熱に、思わずうっとりと惚けてしまう。
 もし。
 もし今、月彦に抱かれたら、どれほどの快感を得られるのか。それを考えれば考えるほど、疼きも、焦れも耐え難いものになっていく。
「と、父さま……ごめんなさい……」
「うん?」
「私…嘘、ついてたの…。……父さまが言うとおり…今、発情期、なの…。……だから、………ごめんなさい………」
「………やっぱり発情期だったのか。…どうして嘘をついたりしたんだ?」
「そ、それは……」
 口ごもる。それは?…と、月彦が続きを促すように優しく尋ねてくる。
「は、発情期になったなんて…恥ずかしくて、父さまに言え…なくて……だから……嘘、を……」
 そうか。と背後から声。
「事情はわかった。けど、真央…いくら恥ずかしいからって、“父さま”に嘘をつくのはよくないな」
「ぁ………ご、ごめんなさい……でも―――」
「でも、じゃない」
  ぐっ…と、尻尾を掴む手。
「嘘をつくような悪い娘にはオシオキが必要だな。真央?」
「ぇ……ぁっ…!」
 ぐいと尻尾を持ち上げられ、俯せから尻だけを持ち上げたような体勢にさせられる。
「と、父さま……まさかっ……やんッ…!」
 抵抗する間もなく、ショーツごとズボンを降ろされる。……ぞくっ…と、反射的にこみ上げてくる、悪寒に近い、何か。
 絶えず聞こえてくる、荒い息づかい。ほんの少しの間の後、熱い強張りが濡れた局部に押し当てられる。
「えッ……や、やぁぁっ……と、父さまっ…ダメっ…や、やめ…て……!」
 月彦からの返事は無い。かわりに、ゆっくりと腰が前後し始め、剛直が浅い谷間をゆっくりとスライドし始める。
「ぁっ……ぁぁ、ぁッ……ぁぁぁ、ぁッ……だ、……ダ、メ…ぇ……ぁッ……!」
 尻尾をぞぞぞとそそり立たせながら、両手で敷き布団を握りしめる。
 逃げてしまえばいい。
 立って、逃げてしまえば。
 だが、それが出来ない。体の火照りに、疼きに抗えない。月彦から、離れられない。
 だから、拒絶した。
 一度体を重ねれば、どれほど拒んでもこうなってしまうことが解っていたから。
 月彦の両手が、腰のくびれに触れる。
 熱く滾った肉柱が徐々に、真央の膣内なかに入ってくる。
「あッ……あっ、あ、ぁッ……あ、あぁぁぁァァァッッ!!」
 柔らかい肉の割れ目を裂き。
 しとどに汁を溢れさせながら。
 ゆっくりと。
「あっぁッ…あッ…ひッぁ……やっ………こんなッ……やっ……やぁぁ……き、気持ち、いィ…ッ…んぁッ…く、ぅ、ぅ………!」
 肉柱が埋まるにつれて、何かを堪えるように真央の背が曲がっていく。そして―――
「はぅうッ…!!」
 剛直の残り半分が一気に突き込まれ、奥を小突かれた瞬間、反る。
 ふぅう…と、背後で息を吐く音。
「さすが、発情期だ…。ぎゅうぎゅう締まって…絡んできて……そして、凄く熱い……」
 被さり、抱きしめる。んっ…と、微かに漏れる声。
「ぁ…ふ……とう、さま……お願い…もう……」
 だが、月彦は聞き入れない。再び体を起こし、腰を掴む。
「あッ……!」
 ただ、腰のくびれに振れられただけ。それだけなのに、声が出てしまう。
 今から、何をされるか。それを、想像してしまう。
「ぁ…あんっ…!」
 軽く腰を引いて、奥を小突かれる。さらに、立て続けに、小刻みに、何度も。
「ぁっ…ぁ、ぁ、ぁ、ぁっ……んっ…ぁっぁ…やっ…ぁッ…ぁぁああっあ……ぁぁぁあッッ…んんんっ……ぁっ、あんッ……!」
 体が、芯から徐々に溶かされていくような快楽。四肢から力が抜け、ただただ痺れるような快感だけが突き抜ける。
「んっ…ふっ…ぅんッ! ぁっ…あんっ……ぁぁぁああァッ…! ひっ…」
 腰に当てられていた手が、這う。背中を、腹を。そして、胸を。背後から突かれる度に、たぷたぷと忙しなく揺れるそれを、揉む。
「あんっ…」
「真央はホント…胸だけは明らかに真狐似だな」
「んっ……そんな、こと…ない…。母さまの…方が…」
「ああ、真狐の方が全然大きい。……けど、真央だって…始めて会った時に比べたら―――」
「ぁッ………」
 搾るように揉む手が、一瞬止まる。
「―――真央も、母親になったら…真狐ぐらい大きくなるのかな」
 ぼそりと、耳元に囁かれる。えっ…と、聞き返す前に、月彦は体を起こしていた。
「と、父さま……もしかして―――んんんぅッ!!」
 突然の荒々しい抽送。真央は悲鳴に近い声を上げるも、月彦は止めない。
「やっ…父さまッ…あんっ! いきなり、激しッ…ぁっ…ぁあぁッ! あっ…ひっ…あ、ぁぁぁっあっ…あっあっあんッ!!」
 腰と尻がぶつかり、柏手かしわでのような音を響かせて、抽送。月彦自身、息を乱しながら、ケダモノのように真央の体を貪る。
「今日…膣内なかに出されたら子供が出来るんだろ?」
 剛直を突き入れ、掻き回しながら囁く。真央に対しては珍しく、意地悪い口調に、思わずひっ…と声を漏らす。
「と…父さま……何っ…考えてるの……? …だ、駄目っ……膣内なかは…膣内なかに出したら…ぁぅうッ…!」
 真央の言い分は聞かない、とばかりにずんっ…と一際強く突かれる。
「今日の真央の膣内なか…本当に凄いな……もう、イきそうだ……」
「っっっ……だ、駄目ッ! 父さまっ…お願い、だから…外っ……外っ…にいっ……あン!」
 僅かに暴れようとする真央を押さえつけ、無理矢理に剛直をねじ込んでくる。カリで肉襞を引っ掻き、拒絶の声を甘い嬌声へと染められていく。
「あっ…あっあんッ! ぁぁぁっ……だ、め……と、父さま……ぅッ…ぁ、ぁあああッ!!!」
 ちらりと、背後を顧みる。
 月彦の血走った目を見た瞬間、ぞくりと体の芯が疼く。
 ―――あぁぁ………。
 止めなければ。
 ―――発情期、なのに………。
 抵抗しなければならない筈なのに。
 ―――私、父さまに犯されてる………。
 快楽に、体が痺れる。
 ―――父さまに……孕まされちゃう…!
「ひっ……ぁ、やぁぁ、ぁ、あああんッ!!!」
 ぞくんっ。
 一気に、感度が跳ね上がり、たまらず声を上げる。
「やっ……らめっ…!……い、く……イッちゃうッッ!!!」
 たっぷりと、牡の味を染みこまされた膣が痙攣する。まるで、月彦の絶頂に合わせるように。
 「真央……」
 狐耳をしゃぶっていた唇から、そんな囁き。ぐっ…と剛直が一際深く挿入され―――。
「ひんッ………と……さまッ…、あッ…やっ……らめッ…やめっ…あ、あっ…お、奥ッッ……やっ…ぁ、ァッあ、あ、あぃぃぃぃいィッ!!!!」
 
 びゅぐんっ!
 びゅぐっ…びゅぐっ……!
 
 逃げられぬように両腕で抱きしめられたまま、膣内なかにたっぷりと牡液を吐き出される
「あっ……あ、あ…………やっ……何、こ、れ……ひっ……す、凄っ…い……………!」
 膣内なかに白濁が撃ち出されるたびに、体が震える。どろりとした特濃の白濁のうねりを受けるたびに、通常の絶頂以上の快楽に浸される。
「ひっ…んッ……やっ…い、イくっ…ま、た…イッちゃうゥッ!」
 唾液で布団を濡らしながら、はしたなく叫ぶ。
 何度も、何度も。
 白濁が窒奥を叩く都度にサカッた声を上げさせられ、イかされる。
「はー……はー…………凄い、気持ちよさそうだったな、真央?」
 ぐったりと、月彦が被さってくる。今だ強張ったままの剛直が僅かに動きそれだけで真央はまたイきそうになる。
「と……父さま……本当に、膣内なかで…………」
 責める―――口調ではなかった。すっかり濡れた……牡の虜になってしまった牝の目で月彦を見る。
「こんなに…いっぱい出されたら……絶対…赤ちゃん出来ちゃう……」
 声が震える。その頬を、優しく月彦が撫でる。
「ああ……そのことなんだけどな、真央………どうやら大丈夫らしい」
「えっ…父さま……大丈夫って………?」
「それは―――」




















「それはね、こういうコトよ」
「「ッ……!?」」
 突然の明後日の方向からの声に月彦も真央もびくりと体を震わせ、慌てて体を離しつつ振り返る。
「母さまッ!」
「ま、真狐ッ…!」
 真狐は父の机の上に腰を下ろし足を組み、その上に頬杖をついたままくすくす笑っている。月彦も真央も、反射的に体を掛け布団で隠した。
「お前、帰ったんじゃなかったのか…い、いつからそこに……」
「さぁ、いつからだと思う?」
 にったらにったらとさも意地悪げに嗤う。その笑みを見るに、多分一部始終を見られていたなと月彦は確信する。
「いやー、良いモノ見せてもらったわぁ。月彦、アンタも悪ねぇ、本当の事も教えずにいきなり押し倒すんだから」
「ぐ……そ、それは……」
「母さま…どういう事…?」
「ん…まあ、考えてみれば何でもない話よ」
 ふっ…と、軽く鼻で笑ってから、流し目ぎみに真央の方を見る。
「ねえ真央、アンタ…まだ生理来てないでしょ?」
「えっ………」
 真央の顔が一気に朱に染まる。そして月彦の方を一瞬チラリと見た後、無言で頷く。
「でも、発情期は来てる。ようするに、アンタは年齢的に狐としては成熟してても、人間としてはまだまだって事なのよ。てことはつまり、どういう事か…解るわね?」
 と、真狐が見たのは月彦の方。意地悪い笑みのおまけ付き。
「生理が来るまでは、絶対に妊娠しないって事……だろ?」
「そういうコト。……真央、良かったわねぇ。あと十年弱くらいは発情期が来ても中出しし放題よ?」
 発情期に膣内なかに出されるのってたまんないのよねぇ、とスケベな笑みを浮かべる真狐とは対照的に、真央は益々顔を赤らめて、そしてまたチラリと月彦を見た。今度は妙に意味深に。
「ふふっ………。さーて、そんじゃあたしはそろそろ退散するわ。これ以上見てたら混ざりたくなっちゃうし」
 途端、ぎろりと敵意むき出しの目をする真央にふふふと笑って、真狐はぴょんと机から飛び降りる。
「あ、真狐……」
「ん?」
 ドアではなく、窓を開けながら振り返る。月彦はしばし、言葉を選ぶ。
「っと、その…今日は、助かった。ありがとな」
「いいわよ、別に。借りは今度来た時にたっぷり返してもらうから」
 にぃッ…と嗤う。右手の甲に走る痛みに耐えながら、月彦はなんとか空笑いを返す。
「……母さま、今度はいつ来るの?」
 という真央の顔は些か険のある、さも“来ても父さまは渡さない”とばかりの顔をしている。
「気が向いたら。まあでも、そう遠い話じゃないわ。…………………………孫の顔も見なきゃいけないし
「えっ………………?」
 さらりと言い残して、真狐はひょいと窓をくぐる。
「お、おい真狐ッ! 今、なんて………………!」
「父さま、駄目っ!」
 慌てて月彦が追いすがるも、左手を真央にがっちり掴まれて布団から出ることも出来ない。
 真狐は品のない笑い声を朝焼けの空に木霊させながら、家の屋根から屋根へとぴょんぴょん跳ね、遠ざかっていく。その影はいつの間にか人のそれではなく、狐のそれとなっていた。
 それすらもやがて、月彦の目には映らなくなる。
「あいつ……冗談、………だと思うけど」
 冗談だとしてもあまりにタチの悪い捨て台詞だと憤慨しながら、真央の方を振り返る。―――と、ギョッとするくらい頬が膨らんでいる。
「父さま,…あんまり、母さまと仲良くしないで」
 ぎゅっ…と、掴んだ腕に爪を立ててくる。
「わ、解ってるって。ちょっと…礼を言っただけだろ?」
 それすらも駄目なのか?という顔をすると、真央はあからさまに駄目、という顔をする。
「っ…て言ってもなぁ………」
 月彦は思い出す。
 ほんの数時間前の、あの絶望的な気分を。
 それを晴らすきっかけをくれたのが―――他ならぬ真狐なのだ。
「真央…」
 急に、どうしようもなく愛しくなって、抱き寄せる。微かに声を漏らして、真央もくったりともたれ掛かってくる。
「真央、さっきは意地悪してゴメンな。……っと、その……真央に避けられてるってのが…ホントにショックだったんだ。だから…」
 強く、抱きしめる。ぎゅう…と、痛いほどに。
「ぁっ……とう、さま………」
 ごめんなさい―――そう呟いて、真央も体を預ける。顔を上げると、そこには月彦の顔。自然と―――
「んっ……」
 唇が重なる。
「ん……って、真央…! 何処、触って……」
 不意に下半身を触られ、慌てて真央を引きはがす。真央はすっかり瞳を濡らして、微かに呼吸を荒げながら、左手で愛しそうにまだ勃起前の剛直を撫でさすっている。
「父さま……まだ、体が…熱いの………」
「そんな…事言ったって……もう、朝―――」
「お願い、父さま……。……父さまの…飲みたい……」
 早くも呼吸を乱しながら、真央は半勃ちの剛直にむしゃぶりつく。
「ちょ…真央っ…こらっ………だ、ダメだって……っ…ぁ…!」
 当然、月彦には拒絶できる筈もなく。
「んっ…ふっ……んっ…あむっ…………」
 お尻をふりふり、尻尾をふりふりさせながら、さも美味しそうに剛直をしゃぶる真央に理性がぶっ飛んでしまうのも。
「ぁっ……くっ……ま、真央……ちょっ……なんで、そんな……巧ッ……ッ!!!」
 時間の問題なのでした。と。

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