「それでは、出席番号順に返していきますので名前を呼ばれたら、取りに来る

ように」

 今日、最後の授業。この算数のテストが返ってくれば、総ての答案は返却終

了。明日からの3日間は、テスト休みに入るんだ。

 ……でもボクにとっては、それだけじゃない。この算数のテストの結果次第

で明日からの3日間が、天国にも地獄にもなる。正に運命の分かれ道…………

神様っ!

「……天河さん」

「ハ、ハイっ!」

(ドキドキドキドキ……)

 き、緊張で手が震える……ボクは全力を尽くした。だからきっと大丈夫……

あにぃ……!!

「……よく頑張りましたね」

「えっ!?」

 怖々と見た、その答案用紙には――



【100点】



 ――やっ……!!

「やったぁぁぁぁぁあ!!」



☆ Sister Princess ☆
<Short×2>

−physical contact/case 1−
MAMORU side



「……それでは皆さん、お休みだからってあんまり羽目を外さないように。早

乙女初等部の名に恥じるようなことのないよう、重ねて申し上げておきますよ」



[ ハ〜〜イ!! ]



(キ〜〜ン、コ〜〜ン、カ〜〜ン、コ〜〜ン……)

「それでは皆さん、よい休日を」










 はぁ〜〜……やっと終わった。それにしても、さっきの算数の時間は恥ずか

しかったなぁ……つい、飛び上がって喜んじゃった……

 でも……でも、これで明日は…………えへっ(はぁと)。

「…………ま……る……」

 …………えへへ……(はぁと)

「……も…………ま……」

 …………えへへへ……(はぁと)

「ま・も・る!!」

「うひゃあっ!?」

 び、びっくりしたぁ……

「……何だ、麻由美か……いきなり耳元で叫ばないでよっ!!」

 そう言って睨むボクの視線を、軽く受け流す麻由美。

「何だ、とはご挨拶ね。それに、いきなりじゃないわよ。アンタが何度呼んで

も、返事しないのが悪いんじゃない!」

 相変わらずの強気な口調で言い募る。その、さっぱりした性格がボクとは合

うのか、麻由美とのつき合いは結構長い――いわゆる、くされ縁ってやつだ。

……智里曰く「似たもの同士」らしいけど。……ボクはこんなに男勝りじゃな

い!――と、思う……(汗)

「なぁんかニヤニヤしてたねぇ……」

 横からその智里が、自分もニヤニヤしながら合いの手を入れる。

「どうせ、さっきの算数で100点取ったこと思い出してたんでしょ。まあ、

まもにすれば奇跡みたいなもんだしね。あんなに喜んでたし。まったく、まも

はお子さまよねぇ」

「……麻由美ちゃんひがんでる?」

「なっ!? 何でアタシがひがまなきゃなんないのよ!!」

 智里の混ぜっ返しに、顔を真っ赤にしてくってかかる麻由美。この2人はい

つもこんな感じだ。

「だって、麻由美ちゃんの場合、奇跡ですら不可能そうだもん。算数で100

点取るなんてぇ」

「うぎぎぎぎ……(怒)」

 可笑しそうに笑う智里に、殺意を漲らせて麻由美が迫る。

「ま、まあまあ2人ともその辺で……他に重要な話、あるでしょ?」

 そう言って、2人の間に割って入って仲裁したのはもう1人の親友舞子。こ

の舞子を含めて、ボク達はいわゆる仲良し4人組、と言うやつだった。

「……そうだった。ちさのバカたれの所為で、大事な話を忘れるとこだったわ

……」

「う〜〜、智里バカたれじゃないもん!」

「何か文句あんの!?(怒)」

「舞子ちゃ〜ん、麻由美ちゃんのバカたれがいぢめるぅ〜!(泣)」

「な、何ですってぇ〜っ!!(怒)」

「ま、麻由美ちゃん落ち着いて……(汗)」

 泣きすがる智里をなだめながら、舞子が必死に麻由美を押さえようとしてい

る。……どうでもいいけど、これじゃ堂々巡りだよ……

「ねぇ、大事な話って?」

 ボクの助け船にホッとした表情を見せる舞子と、獲物を逃がした獣のような

表情を見せる麻由美。チッとか舌打ちしてるし……

「あのね、明日からの連休のどっかで、皆で集まって遊びに行かない?」

「皆の都合の合う日に、遊園地でも行かないかって話になったのぉ」

 麻由美の話を智里が後押しする。……智里って変わり身早いよね(汗)。

「やっとテストも終わったし、皆でぱあっと息抜きするのもいいと思って……」

 舞子が微笑みながら、ぽんと胸の前で一つ手を合わせる。いつもなら二つ返

事でOKするとこだけど、今回は――

「……ご、ごめん。ボク、今回はパス」

「えっ!?」

「えぇぇっ!?」

 麻由美と智里が驚きの声を上げる。てっきりOKだと思ってたんだろうけど、

今回はタイミングが悪すぎるよ。

「何か予定あるの?」

 舞子も意外そうに、小首を傾げて聞いてくる。

「う、うん……連休中は、ちょっと……」

「どっか、出掛けるのぉ?」

 すぐさま、好奇心いっぱいに智里が訊ねてくる。

「う、うん……ちょっと……」

 要領を得ないボクの返答に、訝しげな表情を見せる麻由美と智里。

「……なぁんか、怪しいなぁ……」

「うん、うん。何か怪しい……」

 うぅ……(汗) こんな時だけ息合わせないでよ……

「べ、別に怪しくなんか……(汗)」

 冷や汗だらだら、怪しさ全開なボク。でも、あにぃのとこに行くなんて言っ

たら、付いてくるとか言い出しかねないし……

「これは…………男ね!」

 どっきーーん!!

「えぇぇ〜!? マジぃ〜!?」

「ち、ちちち違……!! ぜ、全然そんなことないよ!! うん!!」

 麻由美にいきなり核心を突かれて、パニックになるボク。智里も、声こそ出

さないけど舞子も興味津々といった感じで、ボクをじっと見ている。……マ、

マズイ……(汗) あにぃが格好良くて優しくて、素敵な男性なのは言うまでも

ないとして(ぽっ)、麻由美達3人も同姓のボクから見ても、かなり可愛い部類

に入る……と思う。もし3人が付いてきてあにぃに興味でも持ったりしたら……

それにあにぃって押しに弱いとこあるし、麻由美や智里なんか曙・武蔵丸の取

り口並みに、押し専門の性格だから――



『あ、はじめまして! アタシ、柊麻由美です!』

『はい、はぁ〜い! 智里はねぇ、立花智里っていうのぉ〜! よろしくね!

お・に・い・さん(はぁと)』

『はじめまして、高坂舞子といいます。ふつつか者ですが、どうぞよろしくお

願いいたします……(ぽっ)』

『ど、どうもはじめまして、天河輝です。何時も衛がお世話になってます……』

『いえいえ。こちらこそ、まもには感謝しなきゃ(はぁと)』

『そうそう! こんな素敵な男性と、巡り会わせてくれるなんてぇ……(はぁと)』

『ええぇ!? そ、そんな素敵なんて……(照れっ)』

 ――ちょ、ちょっとちょっと! 何を言い出すんだよ!!

『いえ。本当に素敵ですわ。……あ、あの輝さん。お、おにいさまってお呼び

してもよろしいですか?』

『え!?……う、うん。別に構わないよ』

 ――あ、あにぃ!?

『それじゃあ、せっかくだし近くの喫茶店で、お茶しませんか? お・に・い

・さ・ま(はぁと)』

『あ、さんせぇ〜! 智里、いいお店知ってるよん(はぁと)』

『そ、そうだね』

 ――ちょ、ちょっとあにぃ!!

『それでは参りましょう、おにいさま(はぁと)。――あ、そうそう。衛ちゃん

……ごきげんよう(にっこり)』

 ――そ、そんな……ちょっと……ちょっと待って……!!



『ごきげんようごきげんようごきげんようごきげんヨウゴキゲン……』



「ちょっと待って、あにぃ!!!(泣)」

(しーーーーーーーーーーーん……)

「…………あにぃ?」

 あうっ!(汗)

「……それって、噂の衛ちゃんのおにいさん?」

 あうぅっ!!(汗)

「……連休の用事ってもしかして、おにいさんに会いに行くの?」

 あうぅぅぅぅぅっ!!(汗) ば、ばかばかボクのばかぁぁぁ!!(泣)

「「んっふっふっふぅ〜〜……」」

 麻由美と智里が不気味な笑みと共に、手をわきわきさせながら、にじり寄っ

てくる……麻由美の目は既に、新たな獲物を発見した獣のそれだ……(汗) 智

里の目もそれに近い。よく見ると2人ともネコ目、ネコ口になってる……(汗)

「ま、舞子……(汗)」

 最後の頼みの綱、皆の良心舞子に助けを求めるボク。

「…………ごめんなさい、衛ちゃん。……私も、興味あるの……(にやり)」



 あうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……(泣)










「…………はぁ……疲れた……」

 家の玄関が見えてきた辺りで、ため息をもらす。結局、帰りの道すがら3人

から根ほり葉ほり、あにぃのこととボクの連休中の計画について質問責めにあ

っちゃった。……挙げ句、案の定ボクに付いてくるとか言い出して(舞子まで

言い出すとは思わなかったけど)、説得するのに一苦労だったよ……今度あに

ぃが帰ってきたら、3人にも紹介するってことで、何とか引き下がってくれた

けど……はぁ……(泣)

 何とか、玄関まで辿り着いて、のろのろとドアノブに手を伸ばす。

「……ただい……あれ!?」

 いきなり、内側からドアが開く。そこにいたのは、母さんと――

「あ、あねぇ!?」

「あら、おかえり衛。久しぶりね」

 ――ボクの1つ上の姉、鈴凛だった。

「何時帰ってきたの?」

 あねぇは今、アメリカのまさちゅー……ナンとかって大学に特別扱いで飛び

級の交換留学生として在籍してるんだ。あねぇは事機械に関しては小さい頃か

ら、天才って言われてたからね。

「今朝よ。家には今着いたの。取り敢えず荷物だけ置きにね。急にこっちの研

究発表会に出席することになって、連絡する暇がなかったのよ。アニキに会う

暇もないし、ヤんなっちゃうわ……」

「そ、そうだったんだ……」

 あにぃの話題が出て、どきりとしてしまう。でも、あねぇには悪いけど悟ら

れないようにしないと。……あれ? 母さんはあねぇに、ボクがあにぃのとこ

に行くって言ってないのかな? それとも、慌ただしくて言うの忘れてるとか

……?

「んじゃ、私もう行くから」

「う、うん。いってらっしゃい……」

「頑張っといで」

 ボクと母さんに見送られて、あねぇは慌ただしく自作移動メカ・ジェットボ

ード「グランゾート1號」を跳ばして去っていった。

 ……あれって道交法とかに引っかからないのかなぁ……(汗)










「……ふぅ……」

(ぼふっ)

 鞄を適当に投げ出して、ベッドに倒れ込む。今日はもう精神的にへろへろだ

よぉ……

 ……でも、でも……でもでもでもでもでもっ! 明日はいよいよあにぃのと

ころに……(はぁと) テスト期間中は辛かったもんなぁ……あんなに勉強した

のって、ボクの人生の中でも未だかつてなかったよね。テスト前――



『……神様、今度苦手な算数のテストで100点取ったら、誰のどんな邪魔も

なく、あにぃに会いに行けますように。そんでもって、あにぃにカレーを作っ

てもらえますように……』



 ――なんて、願掛けして。でも、ホントに100点取っちゃうなんて矢っ張

りボクってあにぃに関しては実力以上の力が出せるよね! 自分でも感心しち

ゃうよ! あぁ……あにぃに会ったらカレーの他にどんなお願いしちゃおう……

(はぁと) いっぱい、いっぱい甘えちゃうんだぁ(はぁと)。

「衛ぅ〜〜!」

 階下からの母さんの声に、ボクの甘い妄想が中断させられる。も〜〜! 今、

いいとこなのにぃ〜〜!(怒)

「なぁに〜?」

「風呂とご飯、どっち先にする?」

「う〜〜ん……ご飯が先がいいな」

 今日は疲れたから、お風呂に入ったら寝ちゃうかもしれないからね。

「それじゃあ、下りといで。ご飯にするから」

「はーい」










「「いただきまーす」」

 母さんと2人だけの食事。もう慣れたけど、矢っ張りちょっと淋しい。あに

ぃ達と皆で暮らしてた時は、多すぎるくらいだったけど(全員揃うと総勢24

人)……極端すぎるよねぇ……(汗)

「それにしても、いきなりだったね、あねぇ……」

 サンマの塩焼きの骨を取り除きつつ、母さんに話しかける。あ、因みに晩ご

飯は、お手伝いさんが何時も作っておいてくれるんだ。母さんはそれを、温め

るだけ。最初は温めるのも満足に出来なかったらしいけど……矢っ張りボクっ

て母さんの子供なんだね……(泣)

「ああ。頑張ってるみたいだね……もう、向こうでいくつか実際に特許も取っ

たらしいし……」

「へぇ……ホント、あねぇは機械いじりが好きなんだね」

 感心するボクに、意味ありげな笑みを向けてくる。

「まあ、それもあるだろうけど……『特許いっぱい取って、お金稼いで早くア

ニキとのスイートホームを建てるんだ(はぁと)』って、言ってたぞ」

 …………へ?

「えぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

 思わず箸をバンッとテーブルに叩きつけて、立ち上がってしまう。

「こらこら、お行儀の悪い……」

 軽くたしなめてくるけど、当然無視。

「な、何それ!? そんなの聞いてないよ!!」

「そりゃ、まあ言ってないだろうしね」

「あ、あのね……」

「あんただって、明日輝に会いに行くの内緒にしてるじゃないか」

「う゛……」

 で、でもそう言うってことは、矢っ張り母さんはあねぇに……

「……内緒にしておいてくれたの?」

「そりゃ、知ってたら出掛けやしないよ、あの娘は。研究発表会なんて幼稚園

児のピアノ発表会くらいの感覚で、ほっぽり出すだろうね」

 た、確かに……(汗)

「で、でも何でボクの味方してくれるのさ?」

「あたしゃ、何時でもあんた達の味方さ。それに、輝はあたしにとっても可愛

い息子だからね。……あいつとの間の子じゃないのが、ちょっと悔しいけど……

その息子と自分の娘が一緒になってくれれば言うことないよ」

 ……う〜〜ん、こういうのも親公認って言うのかな?

「鈴凛に喋っちまったら、あんたと共倒れになる危険性が高いじゃないか。だ

から、確率の高い方を優先させる。戦術ってのはそう言うもんさ」

「う゛〜〜……」

 ……何か、母さんの野望のために利用されてるような……?

「だから、あんたにここまで肩入れするのは、今回だけ」

 そう言って、ウインクしてくる。

「このチャンスをものに出来るか、後はあんた次第だよ」










(ちゃぷ……ん……)

「はふぅ〜……」

 自然と漏れた吐息が、浴室の壁に反射する。

「……後は、自分次第――かぁ……」

 湯船に肩まで浸かって呟いた言葉は、立ちこめる湯気と一緒に揺らいで形に

ならずに消えてしまった。

「……取り敢えず、体洗おう……」

 あにぃのために、気合い入れて磨き上げなきゃ……スポンジにボディーソー

プを付けて、まず左腕、右腕……

「うぅ〜〜、ちょっと日焼けしちゃったなぁ……陸上部と、水泳部の助っ人掛

け持ちしたからなぁ……あにぃは矢っ張り、肌は白い方が好きかなぁ……?」

 あ、でもあねぇがスクール水着の日焼け跡は、あにぃの“萌え”に違いない

とか言ってたような……“萌え”って何だろ?

 首、肩、そんでもって……

「………………(涙)」

 ……胸は……まだ、発育途中だから! うん! これからこれから!



『衛は楽でいいわねぇ。私なんか、5年生の時からブラが必要だったけ・ど(はぁと)』



 くっ! ち、ちっくしょう〜、咲耶ぁぁぁ……(泣)……い、いいもん! き

っと、あにぃは小さいのが好みなんだ! じゃなきゃ、ボクにあ、あんなこと

しない――よね……(ぽっ) うん、そうに決まってる! っていうか決まった!

決定!

 ……じゃあ気を取り直して、お腹、背中……

「余分な肉は付いてない――よね」

 お尻……

「余分な肉は付いてない――よね(泣)」

 いいんだい。お尻は小さい方がかっこいいんだい。あにぃもその方が好みだ

よ(またも決定)。

 そんで、足……

「……ちょっと、太いかなぁ……(泣)」

 でも、これは筋肉だし足首はきゅっと締まってると思うんだけど……でも、

矢っ張り可憐や鞠絵に比べると、太ももがちょっと……(泣) い、いや、でも

大丈夫! ぴちぴちだし! あにぃも、この健康的な太ももにめろめろのハズ!

(三度決定)

 そんで、最後に最も重要な……

「………………(ぽっ)」

 あにぃ、明日は可愛がってくれるかなぁ(はぁと)。……うん! きっと大丈

夫! あにぃは生えてない方が好みだよ!(何が?)

 ……それじゃあお湯で流してっと……よし。これで、体は完璧! 次は頭を

……

「あ! そうだ! あにぃに頭洗ってもらうっていうのもいいかも!」



『は〜〜い、目ぇ〜つぶってぇ〜』

『……こう? あにぃ』

『よ〜〜し、それじゃあ洗うよ〜』

『……ん』

『……気持ちいい?』

『……うん……んぁ……あ!? あ、あにぃそこは耳だよぉ』

『おっと、ごめんごめん。手が滑っちゃった』

『も〜〜、うそばっかり……ひゃんっ!? あ、あにぃ首はくすぐったいよぉ』

『ふふ……衛は感じやすいんだね……それに、目をつぶってるから皮膚感覚が、

敏感になってるのかな?』

『そ、そんな……ひゃうっ!? さ、鎖骨はやめてよぅ……』

『それじゃあ……』

『はぁはぁ……あ、あにぃ……ダ、ダメ……それ以上……下は……』

『何言ってるの。ここから下が、本番なんじゃないの……』

『あ!? ダメ、そ、そんなああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……』



「なんちゃって、なんちゃって、なんちゃってぇ〜〜(はぁと)。もうやだ、あ

にぃってばテクニシャンなんだからぁぁぁ!!」

(ドガス! ドガス! ドガス!)

「こら、衛!! 風呂場で暴れるんじゃないよ!!」

 はっ!? いっけない!

「ハ〜〜イ!」

「……後、風呂場で不気味な声出して、悶えるんじゃないよ!!」

「あうっ!!(汗)」










「……さってと……」

 お風呂入ったし、歯も磨いた。明日のための荷物もまとめたし、後は寝るだ

けだね!

「よし!……おやすみ、あにぃ……」

(ちゅっ)

 ボクはいつもの通り、勉強机の上のあにぃとボクのツーショットの写真が入

った、フォトスタンドにキスするとベッドに潜り込んだ。










(チッチッチッチッチッ……)










「……って、寝れなぁぁぁぁぁあいっ!!(泣)」

 ど、どうしよう。何か、興奮して眠れなくなってきちゃったよぅ……明日は

早起きしなきゃならないのにぃ……(汗) そ、そうだ! こういうときには、

昔から羊を数えるといいって言うよね!? ものは試しだし、早速――

「……羊が1匹、羊が2匹、羊が3匹……」










「……羊が224匹、羊が225匹って、寝れなぁぁぁぁぁあいっ!!(泣)」

 誰だ、こんなデマ流したの!?

「そもそも、こんな見ず知らずの(?)羊数えて眠くなろうなんて、虫が良すぎ

るよっ!!」

 ああ、どうしよう。時間だけが無慈悲に過ぎていくぅ……(泣) 焦れば焦る

ほど、眠気が覚めてくよぅ……(汗) はっ!? そ、そうだ!! 見ず知らず

の羊さんだからダメなんだ! あにぃを数えれば……よし! 困った時のあに

ぃ頼みで――

「……あにぃ、ボクにいい夢見させて……あにぃが1ぴ、じゃなくて1人、あ

にぃが2人、あにぃが3人、あにぃが4人、あにぃが5人……って、そんなに

いたらボク体が持たないよぅ……(はぁと)」










「……って、そうじゃなぁぁぁぁぁあいっ!!(悦)」

 ……はぁはぁはぁ……あ、あやうく違う極楽見せられるとこだったよ……あ

にぃのエッチ(はぁと)。

「……あぁ! でもどうすれば!?」

「やかましい!」

(とっす)

「あうっ!?」

(ぱた)










 ボクが、母さんの当て身から目を覚ましたのは、翌朝の7時を回った頃だっ

た……(汗)










「気を付けて行って来るんだよ」

「……う、うん……」

 時間は9時を少し回ったところ。ボクは準備万端、玄関で母さんに見送られ

ていた。だけど――

「何だ、何だ? また、弱気の虫が出てきたのかい?」

「う゛……」

 そうなのだ。いざ出発って時になって、急に怖くなってきちゃったんだ。も

しかしたら、あにぃは迷惑がるんじゃとか、ボクのこと嫌いなんじゃとか、不

安が後から後から湧いてきて、頭の中でグルグル渦を巻いている。

「……どうせまた、輝が迷惑がるんじゃとか、自分のこと嫌いなんじゃとか、

考えてるんだろう?」

「あうぅ……」

 母さんには全部お見通しかぁ……

「……衛。ひとつだけアドバイスしてやるよ」

 そう言って、少し屈んでボクと目線を合わせる。

「確かに、輝の気持ちを考えるのは大切なことだ。それはあんたの優しさがそ

うさせるんだから。その優しさは、あんたのよさのひとつだよ。……でも本当

に大切なのは――今のあんたに1番必要なのは、自分の気持ちを素直に輝に見

せることさ」

「……ボクの――気持ち?」

「そう。自分の中だけでいくら考えたって、それは結局独りよがりにしかなら

ない。自分の気持ちを、相手に押しつけるだけってのもまた同じだ。相手の気

持ちを知り、自分の気持ちを知ってもらう。総てはそこから始まると思うけど?」

 少し首を傾げて諭すように、柔らかい視線をボクに向けてくる。

「で、でもあにぃの気持ちは? あにぃの気持ちはどうやって知ればいいの?」

「だから、それを知るためにまず、自分の気持ちを見せるのさ」

「?」

「自分以外の人間ていうのはね、自分を映す鏡なのさ。自分が誠意を見せれば、

相手もそれに答えてくれる。逆に自分が心を閉ざせば、相手も決して心を開い

てくれることはないんだよ」

「……でも、きっとあにぃは優しいから、ボクのこと迷惑でも冷たくしたりし

ないよ……だけど、ボクはそれじゃ嫌なんだ……」

 それは、きっとボクのわがまま。計ることの出来ない“想い”を、自分と同

じ分だけ相手にも強要しようとする、醜いココロ。



 アイシタブンダケ、アイサレタイ――



 ……ダメだ、ダメだよそんなこと考えちゃ……



 ココロノソコカラ、アイサレタイ――



 ……でも、それは自分でどうこう出来るもんじゃないんだ……

だけど――

「……と、まあここまでは、よくある一般論だな」

「え!?」

 驚いて顔を上げると、母さんは悪戯っぽく微笑んでいた。

「ここからが、あたしの持論。まず、輝の気持ちだけど――これはもう信じる

しかないね。あんたの前で見せる笑顔が本物だってさ」

 ……あにぃを信じる――どうしてこんな当たり前のことを、直ぐに忘れてし

まうんだろう……

「あんたまさか、自分が惚れた相手を、信じられないって言うんじゃないだろ

うね?」

 その問いに、しっかりと左右に首を振る。

「なら後は……自分の“一番星”を、見つけることだね」

「一番……星……?」

「そう。大好きなあにぃの隣に並び立てるくらいに、自分を輝かせるのさ。そ

の為に、誰にも譲れない自分だけの一番星を見つけるんだ」

「自分だけの……一番星……」

 おうむ返しに繰り返す。その言葉は、ボクの体を電気のように走り抜けた。

「今はまだ、判らなくてもいいよ。焦ってもしょうがないしね。ただ今言った

ことを、頭の隅にでも覚えといておくれ」

 そう言った母さんの顔は……何て言うんだろう、優しくて……しあわせ――

そう、とってもしあわせそうな顔をしていた。

「……母さんも、自分の一番星を見つけたから、父さんと結婚できたの?」

「(赤〜〜っ)うっ……ま、まあ……見つけたって言うか、そのものになったと

いうか……」

 照れ隠しにそっぽを向いて、赤くなった頬を人差し指で、ぽりぽりかいてる。

「ふふ……ありがとう母さん。まずは、あにぃを信じる! これならボクにだ

ってバッチリ出来るよ!!」

「ホントかぁ〜?」

 からかうように、ボクのおでこを突っつく。

「うん! まかしといてよ!」

 うじうじしてても、しょうがない。空元気も、いっぱい出せば力になるよ!

「よし! じゃあ行っといで!! 自分の気持ちを――喜びも、不安も全部正

直にぶつけといで!!」

「うん! いってきまぁす!!」

「あ、衛!」

「え!? 何?」

「ちゃんと、避妊するんだよ」

(ズッシャァァァァァッ!!)

「玄関先で、ヘッドスライディングなんてしたら痛いぞ」

「か、母さんっ!!(赤〜〜っ)」

 好きでやったんじゃないやい!(泣)

「何だよ。重要なことだぞ」

 腕組みして、うんうんと頷いている。

「あ、あのね……!」

「するんだろ?」

「あうっ……(汗)」

「するんだろ?」

「あうぅぅ……(汗)」

「す〜る〜ん〜だ〜ろ〜?」

「あうぅぅぅぅぅ……(汗)」

「「………………」」

「ボ……」

「ボ?」

「ボク、まだきてないから、大丈夫だよぉぉぉぉぉぉぉおっ!!!(泣)」

(ダッダッダッダッダッダッダッダッダ……!!)



 ――何が?



「……中でもOK――か……」



 ――だから何が?










(ジリリリリリリリ……)

<2番線電車ドア閉まります。ご注意下さい。駆け込み乗車ご遠慮下さい、ド

ア閉まります>

(プシュ〜〜……)

「ふぅ……」

 間に合った。これ逃すと、次は大分間が開いちゃうからね。

(ガタンガタン、ガタンガタン……)

「よっと」

 空いているボックスを見つけて、網棚に荷物を載せると、シートに腰を下ろ

して一息ついた。これでもう乗り換えはないし、あにぃのマンションは駅から

近いから、既に着いたも同然だ。

「……一番星――か……」

 車窓の外の、後ろに流れていく景色をぼんやり眺めながら、出掛けの母さん

の言葉を思い出す。……ボクの一番星って一体なんだろう?

 あねぇの一番星は機械に関することだ。スイートホームは……まあ置いとく

として(怒)、確かに機械をいじってるときのあねぇは(時々常軌を逸するけど)

輝いてると思う。そして、その結果得られるものは十分あにぃの力になるよね。

千影ねぇは魔術。白雪は料理。花穂はチアリーディング。……皆自分の一番星

を見つけてると思う。そしてあにぃの力になってる……千影ねぇのはちょっと

疑問だけど(汗)。

「ボクも、頑張ろう……」

 自分が好きな自分になれるように。あにぃに相応しいボクになれるように……










「…………」

 あにぃのマンションに来るのは本当に久しぶりだったけど、迷うようなこと

もなく、ボクは今部屋の扉の前に立っていた。

「…………矢っ張り緊張する……」

 合い鍵を手にして1人呟く。ううぅ……(汗) もし、扉を開けて中に知らな

い女の人がいたりしたら、どうしよう? その人が、あにぃの彼女だったりし

たら――



『信じるしかないね。あんたの前で見せる笑顔が本物だってさ』

『あんたまさか、自分が惚れた相手を、信じられないって言うんじゃないだろ

うね?』



 ――そうだ。信じなきゃ! あにぃを! それに……

(ヒソヒソヒソヒソヒソ……)

 さっきから送られてくる、通路の向こうからの、主婦集団の視線が痛い(汗)。

変な噂立てられたら、あにぃも困るだろうし、何時までもここに突っ立ってる

わけにはいかないよ……

(ガチャリ)

(ギィィ〜……)

「……お、おじゃましま〜す……」

 恐る恐る中に入る。……ほっ、玄関には女性ものの靴が置いてあるなんてこ

とはなかった。靴を脱いでリビングに向かう。

「…………」

 ……何か言葉が出なかった。あにぃの部屋に来たってだけで、胸がいっぱい

になっちゃって……

「……結構、綺麗だね……」

 ようやく出てきたのは、そんなムードのない言葉だった。でもホントちゃん

と片付いてる。男の人の独り暮らしって、もっと散らかってるイメージがある

んだけど、相変わらずあにぃは几帳面みたい。

 ……まさか、彼女が片付けに来てる――っていうんじゃないよね?

「……信じてるよ、あにぃ」

 何か都合のいいときだけ、信じてるような気がしないでもないけどいいのだ。

乙女心とはそんなものだよね。……所で、さっきから何かいい匂いがする。

「……これって、ラベンダー?」

 よく見ると、サイドボードの上にアロマライト――って、いうんだったかな?

――それが、置いてある。うん、間違いない。陶器で出来た円筒形の置物で、

上皿が乗っている。同じものを、亞里亞の家で見たことがあるもん。確か、亞

里亞の母さんが「気分が落ち着くんです」って言って、点けてくれたことがあ

る。……亞里亞の母さんがあにぃにあげたのかな? それとも、亞里亞が1人

であにぃを訪ねてきたとか?……抜け駆けなんて許せないなぁ……1人リビン

グの中央で天井を睨んで握りこぶしを作る、今正に抜け駆けをしているボク。

 ……いいんだい。乙女心だし。

 CDラックに何枚かケースが置いてある。あにぃってどんな音楽聞いてるん

だろう? そんな興味が当然の如く湧いてきて、1枚手に取って見てみる。

「…………」

 ……読めない(泣)。

「ストネ……何だろう……?(汗)」

 そのジャケットには“Stone Roses”って書いてある。タイトル……かな?

唄ってる人は……同じ“Stone Roses”……これっていわゆる、洋楽ってやつ?

他のは――

「ザ、何とか……(汗)」

“The Globe Sessions”唄ってる人は……“Sheryl Crow”……さっぱり読め

ない(泣)。うぅ……あにぃのいぢめっ子(?)……聞いてみたいけど、勝手にC

Dデッキとか触ると絶対壊すから止めとこ……(汗)

 一通り見ておこうと、今度はキッチンへ移動。

「……う〜〜ん、こっちも綺麗なもんだね」

 食器もきちっと片付けられている。まあ、あにぃはあんまり料理しないらし

いから、その所為かも。……冷蔵庫の中は……

「ちょっと失礼して……え!?」

 ……中には食材がきちっと詰まっていた。野菜室にも各種野菜がきっちり取

り揃えられている。とても、料理をしない人の冷蔵庫の中身とは思えない品揃

え。

「……ま、まさかホントに料理上手な彼女が……」

 一瞬、不安で胸が締め付けられるように苦しくなる。けど“料理上手”とい

う言葉にボクの脳裏を、ある人物がよぎる。まさか……

「……あにぃに直接聞けば判ることか……」

 ボクは頭を振って冷蔵庫の扉を閉めた。

 気を取り直して、し……ししししし寝室に移動……(ぽっ)

「……おはようごいまぁ〜す……」

 寝室のドアを開けながら、後ろめたい気分を振り払うために、小声でそんな

ことを呟いてみる。……何でおはようございます?

「……ここで寝てるんだよね……」

 大きめのパイプベッドと、そのそばに勉強机。隅には洋服ダンスとクローゼ

ット。洋服ダンスの上にはなにやら小物が色々置いて合った。……トウモロコ

シ人形にひよこさんのヌイグルミ、他にもスパナやらかんざしやら……まあ、

深く言及するのは止そう……

「あ!?」

 これって、ボクが去年の地区内陸上競技大会の100m走で、大会記録を作

った時に巻いてたはちまきだ! あにぃが受験の時に、験かつぎにってあげた

んだよね……

「あにぃ、ちゃんと持っててくれたんだ……(はぁと)」

 嬉しくなって、その場でくるっと回ってステップを踏むと、ベッドに倒れ込

む。

「……えへへ……」

 自然と頬が緩んでくるのを押さえられない。

「……あ……」

 そこで、ふと気付く。はちまき……スポーツ……

「……そうか……ボクにもあるよ……“一番星”……」

 運動神経なら、皆にも負けない。体動かすの好きだし。

「でもそれで、あにぃの役に立てるかな……? あにぃに相応しい存在になれ

るかな……?」

 相応しい“女の子”ってことで考えると、ちょっと違う気もする……うつぶ

せになって、枕に顔を埋める。

「……あにぃの匂い……」

 それだけで、何だかたまらない気分になってくる。

「……あにぃ……」

 早く帰ってきて、ボクを抱きしめてくれないかな……ちらりと机の上に目を

向けると、フォトスタンドが置いてあるのが見えた。残念ながらボクみたいに、

あにぃとボクとのツーショット写真――ではなく、全員で撮った集合写真だっ

た。その横に何冊かの本が置いてある。タイトルは……“マクロ経済学[ケイ

ンジァン、マネタリスト、マルクス派の見解]”とか“印度の聖典と神々”と

か“民法総則の基礎知識”とか、ちょっとボクが読めそうな本はないみたい。

あ、でもその隣はマンガの本かな? えっとタイトルは……“戦え! 軍人君”

「…………」

 ……あにぃって、奥が深いなぁ……(汗)

「……ふぅ……」

 もう一度枕に顔を埋めようとして、ふとそのカバーに付いている髪の毛に目

が止まった。一瞬全身が硬直して、息も詰まる。

「………………こ、こ、こ、これは……」

 震える指先でつまみ上げた、ちょっとカールが掛かった一本の長い髪の毛。

「こ、このちょっとカールしてる、紫がかった薄桃色のけったいな髪の毛は……」

 その瞬間、さっきの冷蔵庫の中身の映像と脳裏をよぎった人物、そしてこの

髪の毛がダイレクトに繋がる。



『に・い・さ・ま(はぁと)』



 しぃぃぃぃぃぃらぁぁぁぁぁぁゆぅぅぅぅぅぅきぃぃぃぃぃぃ!!!










「………………はっ!?」

 あ、あれ……ボク一体……? きょろきょろと辺りを見回すとゴミ箱が倒れ

て、中のゴミ――大量の丸めたティッシュ――が散乱しているのが、目に入っ

た。

「……そ、そっか……あの後ゴミ箱の中にティッシュが大量に捨ててあるのを

見つけて……」

 怒りのあまり失神しちゃったみたい(汗)。でも、その所為か怒りはすっかり

収まっていた。

「まあ、あにぃがあの白雪の押しに抵抗できるはずないよね」

 それならボクも、積極的にいけばいいだけのことだ。……でも何かお仕置き

はしておくべきかな……

(ごそごそ……)

 ボクは自分の荷物の中から、ショーツを1枚取り出す。スポーティーなお気

に入りの1枚だ。でも、勝負パンツ(謎)じゃないから、トラップに使ってもい

いかな?

「…………よしっと……」

 ボクはそれを、あにぃの枕の下に入れた。……よく判んないけどこれがあに

ぃへのお仕置きになる――何故かそんな確信があった。

「……あにぃは……まだ、帰ってきてないよね……?」

 寝室から出てリビングに向かう。矢っ張りあにぃはまだ帰ってきてはいなか

った。ちょっと残念だけど、ちゃんと「おかえり」って言って出迎えてあげた

いから、よしとしよう。

 少し外の空気が吸いたくなったので、ベランダに出てみる。

「うわぁ〜……」

 思わず感嘆の声を上げてしまった。丁度日没の時間で、西の空に夕焼けの朱

と、夜へと移りゆく藍が同居して見事なグラデーションを描いている。

 そして、そこに一際明るく輝く――

「…………一番星……」



『よし! じゃあ行っといで!! 自分の気持ちを――喜びも、不安も全部正

直にぶつけといで!!』



 母さんの言葉がまた浮かんでくる。うん、そうだね……

 見てもらおう、ボクの真実の姿を。

 聞いてもらおう、ボクの真実の心を。

 喜びも不安も、あにぃが大好きだというこの気持ちと一緒に。

 ボクの総てを。



 ――ココロノソコカラ、アイシテイマス



 ボクは、空が夜のとばりを下ろして星達が輝き出すまで、その様子を飽きも

せずじっと見つめ続けた。今度はあにぃと一緒がいいな……あにぃと“一番ぼ

〜し、見ぃ〜つけた!”って……言いたいな……

(ガチャリ)

 ……あれ!? 今鍵の開いた音がしたような……?

(ギィィ〜……)

「ただいまぁ……」

 !? 矢っ張り!! 間違いない!! あにぃが……あにぃが帰ってきた!!

自分でも信じられないぐらいのスピードで、リビングに戻るとそのまま玄関へ

と急ぐ。

(ドタドタドタ……)

 見てもらおう、ボクの真実の姿を。

 聞いてもらおう、ボクの真実の心を。

 喜びも不安も、あにぃが大好きだというこの気持ちと一緒に。

 ボクの総てを。

 だから、最高の笑顔で――



「おかえり!! あにぃ!!」






−That's all.−






−An extra story−



(もそもそ……)

「ん? どうしたの、千影?」

「……いや……さっきはその……最中で……気付かなかったが(ぽっ)……この

枕の下から……何か気配が……」

(ひょい)

「「……………………」」

「……ぱ、ぱんちゅ……?(汗)」

「……………………兄くん……」

(にこっ)

「い…………」



いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!!






−The true end of guillotine−






1st edition : 2000/05/24

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