図書紹介:『残り火のいのち 在宅介護11年の記録』


本書は、著者が銀座和光の現役の管理者(宣伝企画部副部長、婦人用品部部長、広尾支店長)であったときに、「介護者有業副介護者なし」 (主たる介護者がフルタイムで働いており、介護する人間が一人しかいない家庭事情を指す)という厳しい条件の中で、11年にわたり 痴呆症の母親を在宅で介護をまっとうした記録である。

著者の母親は、1985年頃(76歳)からボケの兆候と思われることが出始め、そして1988年秋には道に迷うなどの小さな“事件”が起き、 1998年12月には紅茶が淹れられなくなったという“紅茶事件”が起きた。これを契機に著者は「母を在宅介護しよう!」、しかも仕事 と在宅介護を両立させることを決心した。決心した後の著者の実行力は素晴らしかった。まず社会の手を借りる方法を調査し、大田区 福祉公社を利用することとした。そこから派遣される介護者(当初3人、最終5人)と上手くやっていく方法を考えた。母親の家は介護者 の職場であるので、いい空気を作ることが必要と考え、部屋をきれいに片付け、テーブルクロスをカラフルで明るいものとし、家の中を 清潔にした。更に、介護者の皆さんを尊重し、信頼して権限の委譲などを行った。また、介護者の仕事に夢を持ってもらうために二大 目標(ビジョン)、即ち「ママを起こす」(寝たきりにしない)、「オムツをつけない」を掲げた。これらによって介護者との間には 大きな信頼関係が生まれ、5人の介護者の内、3人が11年間勤めてくれた。

本書は、このようにして始まった著者の11年にもおよぶ介護の記録である。本書の構成はほぼ時系列に沿ってエッセイ風に書かれた20章 よりなる。その内、第8章“「介護ノート」から“は、11年間の介護日記から、母親の会話が活き活きと書かれている最初の5年間の中から 一部を原文のまま載せている。これは介護者や著者が書いたもので、食事の内容、オシッコやウンチの状況、母親との会話、連絡事項など 介護の現場の様子が生々しく書かれている。また、著者は母親の入院の経験から、母を家で看取りたいという願いを持つようになり、9章 からはターミナルケアを自宅で行っていく過程が書かれており、結局、著者の願い通り母親の最後を家で看取ることができた。

本書を読んで私の心に響いた言葉をいくつか下記に挙げる。

[コメント]
著者は、銀座和光の現役の管理者としてフルタイムで働きながら、そして介護する人間が著者一人しかいないという家庭事情の中で、 11年にわたり痴呆症の母親を在宅で介護をまっとうした。さらに自宅で母を看取りたいという著者の願いも立派にまっとうした。 この成功の原因は下記の3点と思う。

  1. 著者の母親を在宅介護するという熱意と実行力
  2. 介護者との素晴らしい信頼関係とチームワーク
  3. 介護のための月約40万円という自己負担が可能であった。
「介護者有業副介護者なし」という厳しい条件の中でも頑張ればここまで出来るという実践の書である。誰もがここまで出来るとは 思わないが、非常に感動的で参考になる内容である、

(2002年9月27日)

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