日産ディーゼル(路線バス)
日産ディーゼル工業は、日産グループのディーゼル車を製造するメーカーで、バスやトラックを中心に手がけています。1954年に開発したUD型エンジンが有名で、今でもUDは日産ディーゼルの代名詞となっています。戦後の社名は民生デイゼル工業で、1950年にわが国初のリアエンジンバス「コンドル号」を発表したことも有名。1960年に日産ディーゼル工業に社名を変更しました。
2サイクルエンジンを主流にしていた時期が長かったため、かつては敬遠するユーザーもあり、日産ディーゼルだけを購入していないバス会社というものも見られます。その後、1990年代から低床車や中小型路線バスの分野で独自の商品を数多く開発し、切込みを図ったものの、三菱ふそうとの提携を経て2010年にバス製造から撤退しています。
表4-2 日産ディーゼル大型バスの系譜
民生RF系 コンドル号 1950−1959
表4-2-1 民生RF系
年式 | 1950-1951 | 1951-1953 | 1954-1955 | 1955-1957 | 1957-1958 | 1959 | ||||||
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原動機型式 (出力) | KD3 (90PS) | KD3 (105PS) | KD3 (120PS) | UD4 (150PS) | UD6 (230PS) | UD4 (150PS) | UD6 (230PS) | UD4 (165PS) | UD6 (230PS) | |||
軸距 | 4300mm | BR351 | RF80 | RF81 | RF81/RFA81 | |||||||
4440mm | BR32 | BR341 BR344 | BR341 BR344 | RF85 | ||||||||
5000mm | BR331 | RF90 | RF91 | RF91/RFA91 | ||||||||
5300mm | BR30 BR31 | BR311 BR324 | BR311 BR324 | RF95 | RF101S RFA101S | |||||||
5500mm | RF100 | 6RF100 | RF101 | 6RF101 | RF102 RFA102 | 6RF101 6RFA101 | ||||||
備考 |
緑文字=中ドア専用シャーシ 6RF101とRF102はWBは同じですが、FOHの違いにより全長は異なります。 |
民生デイゼルが1950年に初めて発売したリアエンジンバスが「コンドル号」で、KD3型2サイクルエンジンを横置きしたフレームレスモノコック構造で、富士重工製のボディが架装されます。
当初の型式はBRで、他のボディを架装するものも合わせてラインナップを広げますが、1955年にUDエンジンの採用と同時に型式がRF(Fは富士重工の頭文字)に区別されました。またUD6型高出力エンジンを持つ6RFも加わっています。
1960年には日産ディーゼル工業への社名変更と同時に、4R系に発展的解消を遂げています。
東京急行電鉄 民生BR341(1954年式)
撮影:所蔵写真(富士重工 1954)
千曲自動車 民生RF101S
撮影:小諸市(2016.5.15)
当初の型式はBRでしたが、1957年のモデルチェンジで、前ドア対応シャーシに統一され、RF81/91/101の3車型に整理されました。写真のRF101Sは、長尺車の車長を若干短くしたもので、1959年に加わった型式です。
ボディの組み合わせ・・・富士
民生BR20系 コンドルジュニア 1951−1952
表4-2-2 民生BR20系
年式 | 1951-1952 | |
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原動機型式 (出力) | KD2 (60PS) | |
軸距 | 3800mm | BR21 |
4200mm | BR20 | |
備考 | 緑文字=中ドア専用シャーシ |
「コンドル号」が大型であったため、普及型の小さいサイズのリアエンジンバスとして作られたのが、9mサイズのBR20系です。「コンドルジュニア」と名付けられ、やはり富士重工がボディを架装しました。
短期間で製造は中止された模様です。
民生BR20
画像:民生デイゼル公式カタログ(1951)
同時期の「コンドル」はR5型ボディでしたが、「コンドルジュニア」は他型式では見られないフロントデザインを採用しています。また側窓にも既にスタンディーウィンドウを採用しています。
画像は前ドア設置可能なBR20。
ボディの組み合わせ・・・富士、新日国
民生RS系 イーグル号 1950−1958
表4-2-3 民生RS系
年式 | 1950-1951 | 1951-1953 | 1954-1955 | 1955-1956 | 1956-1958 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
原動機型式 (出力) | KD3 (90PS) | KD3 (105PS) | KD3 (120PS) | UD4 (150PS) | UD4 (150PS) | UD6 (230PS) | |||
軸距 | 4280mm | RS81 | |||||||
4300mm | BR352 | RS80 | |||||||
4350mm | BR342 | BR346 | RS85 | ||||||
5000mm | RS91 | ||||||||
5170mm | BR332 | RS90 | |||||||
5220mm | BR322 | BR326 | RS95 | ||||||
備考 | 緑文字=中ドア専用シャーシ |
1951年より製造が開始されたリアエンジンバスで、新日国工業製ボディのものは「イーグル」と名付けられました。同じエンジンを搭載していますが、ボディメーカーやサイズに相違があることなどから型式が分けられています。1955年にUDエンジンへのモデルチェンジに合わせて型式がRS(Sは新日国の頭文字)に区別されました。
1958年で生産が終了しています。
北海道中央バス 民生BR322
画像:所蔵写真(新日国工業公式)
KD3型エンジン搭載時のモデル。通常日よけのつく新日国ボディですが、これには日よけがありません。
この時期はまだ中ドア専用シャーシの設定しかありませんでした。
民生RS85
画像:民生デイゼル工業公式カタログ(1955)
1955年のUDエンジン採用時のモデル。前ドアシャーシと中ドアシャーシそれぞれ長尺と短尺がありました。
写真は中ドアシャーシのRS85で、流線形のボディの窓上に日よけがつきます。
民生RS91(1956年)
画像:民生デイゼル工業公式カタログ(1956)
1956年のモデルチェンジで、前ドア対応シャーシに統一されました。
同時に、新日国ボディがモデルチェンジにより、前面窓を連続窓風に変え、この時期にしては近代的なボディスタイルになりました。
ボディの組み合わせ・・・新日国
民生RN系 1954−1959
表4-2-4 民生RN系
年式 | 1954-1955 | 1955-1956 | 1956-1958 | 1959 | |||||
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原動機型式 (出力) | KD3 (120PS) | UD4 (150PS) | UD4 (150PS) | UD6 (230PS) | UD4 (165PS) | UD6 (230PS) | |||
軸距 | 4300mm | RN80 | RN81 | RN81/RNA81 | |||||
4430mm | RN85 | ||||||||
5000mm | RN90 | RN91 | RN91/RNA91 | ||||||
5300mm | BR325 | RN95 | RN101S RNA101S | ||||||
5500mm | 6RN101 | RN102 RNA102 | 6RN101 6RNA101 | ||||||
備考 | 緑文字=中ドア専用シャーシ |
西日本車体でボディを架装するフレームレスモノコック構造のリアエンジンバスがRN系です。長さや出力のバリエーションは、概ねRFと同じです。
ボディの組み合わせ・・・西工
民生RX 1955−1970
表4-2-5 民生RX
年式 | 1955-1958 | 1958 | 1959 | 1960-1966 | 1967-1970 | ||
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原動機型式 (出力) | UD3 (105PS) | UD4 (150PS) | UD4 (150PS) | UD4 (165PS) | UD4 (175PS) | ||
軸距 | 4000mm | RX80 | |||||
4520mm | RX91 | ||||||
5000mm | RX101 | RX102F/M | RX102/RXA102 | RX102/RXA102 | RX102 | ||
備考 | 下線=フレーム付 |
民生RXは1955年より生産が開始されたフレーム付リアエンジンバス。UD型エンジンを後部に縦置きした構造。これまでの「コンドル号」「イーグル号」と異なり、どのボディメーカーにも対応しています。
当初から前ドア対応のシャーシのみの設定で、中ドア車には同じシャーシで対応しています。
民生RX102
画像:民生デイゼル公式カタログ(1958)
RXはフレーム付のためボディメーカーを選ばず、画像の梁瀬自動車など複数のボディメーカーが架装します。
画像は長尺車のRX102で、前ドアに対応していますが中ドア車です。前ドア車は型式末尾にF、中ドア車は型式末尾にMがつくようです。
江ノ島鎌倉観光 民生RX80(1957年式)
所蔵:BA10-2407291様(鎌倉営業所)
正面のエンブレムは「MINSEI」と表示されるため、富士重工がボディを架装しても「コンドル号」との見分けがつきます。
ボディの組み合わせ・・・富士、呉羽、梁瀬ほか
日産デ 4R系 1960−1973
表4-2-6 日産デ 4R系
年式 | 1960-1965 | 1965-1970 | 1970-1973 | ||||||
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原動機型式 (出力) | UD4 (165PS) | UD6 (230PS) | UD4 (165→175PS) | UD5 (200PS) | UD6 (230→240PS) | UD4 (175PS) | UD5 (200PS) | UD6 (240PS) | |
軸距 | 4300mm | 4R82 | 4R82 | ||||||
4650mm | 4R92 | ||||||||
4750mm | 4R94 | 5R94 | |||||||
4850mm | 4R93 | 4R95 | 5R95 | ||||||
5250mm | 4R105 | 5R105 | |||||||
5300mm | 4R103 | ||||||||
5400mm | 4R104 | 5R104 | |||||||
5450mm | 4R106 | 5R106 | 6R106 | ||||||
5450mm | 6RA107 | ||||||||
5500mm | 4R110 (1964年〜) | 6R110 (1963年〜) | 4R110 | 5R110 | 6R110 | ||||
5650mm | 4R111 | 5R111 | 6R111 | ||||||
備考 | エアサスはRの後にA(例:4RA104)。ただし4R82はリーフサスのみ。 5Rの新設、UD4、UD6型エンジンの出力変更は1966年 ホイールベース4680mmの4R105改は1972〜73年 |
日本国有鉄道 日産デ4R92(1965年式)
撮影:ヒツジさん様(立科町 2004.2.28)
宮城交通 日産デ4RA104
撮影:仙台市(1977.8.7)
日産ディーゼル4R系は、2サイクルのUD4型エンジンを搭載したリアエンジンバスです。UD4型エンジンは、「コンドル」RFに搭載されていましたが、それまでの横置きエンジンを縦置きにするなど、モデルチェンジを図ったのが4R系になります。日産ディーゼルを代表する系列になり、路線バス、観光バスの両方に対応し、エアサスの設定もありました。
型式の頭の数字はエンジン型式(例:4R=UD4型エンジン)を表し、末尾の2〜3桁数字は相対的な長さを表します。
効率性に優れたUDエンジンではありましたが、他メーカーが4サイクルエンジンを標準とする中、唯一の2サイクルエンジンであることから、1973年に4サイクルエンジンのU系にその道を譲りました。
なお、1965年まではフレーム付のRXも並行生産されていました。
ボディの組み合わせ・・・富士、北村、金産、西工
日産デ PR 1970−1973
表4-2-7 日産デPR
年式 | 1970-1973 | |
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原動機型式 (出力) | PD6 (185PS) | |
軸距 | 4850mm | PR95/PRA95 |
5250mm | PR105/PRA105 | |
5450mm | PR106/PRA106 | |
5650mm | PR111/PRA111 | |
備考 | PRA=エアサス |
箱根登山鉄道 日産デPR95(1970年式)
撮影:沼津駅(1977.8.11)
鞆鉄道 日産デPR106(1972年式)
撮影:尾道駅(1980.3.30)
主流だった2サイクルエンジンの車両が保守面や排ガス対策などで敬遠されるため、並行して4サイクルエンジン車の生産を始めた最初の系列がPRです。4R系の最終グループと同時に販売が開始されました。
長さは4R系に準じており、長さを示す数字も同時期の4R系と共通です。PR95、PR105、PR106、PR111があり、9mサイズの4R82に相当する型式はありません。1972年には4R系同様、PR105改が新設されています。
しかし、この時期の主力はやはり4R系で、PRは一部ユーザーにとどまり、1973年には後継のU系に発展的解消を遂げました。
江ノ島電鉄 日産デPR95(1970年式)
撮影:BA10-2407291様(横浜営業所 1985.2)
外観的には、後部の通気孔と屋根のダクトが4R系と左右対称の位置にあるのが区別できる点です。
群馬バス 日産デPR95(1972年式)
撮影:BA10-2407291様(前橋営業所 1986)
前後ドアで後ろドアが引き戸の場合、エンジン通気孔の位置が通常のPRと逆になります。つまり、4R系と同じになってしまい、外観からの見分けがつかなくなります。
ボディの組み合わせ・・・富士、西工、北村
日産デ U系 1973-1990
表4-2-8 日産デ U系
年式 | 1973-1980 | 1980-1984 | 1984-1988 | 1988-1990 | |||||
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原動機型式 (出力) | PD6H (185PS) | PP6H (195PS) | PE6H (220PS) | PP6H (195PS) | PE6H (230PS) | PE6H (230PS) | PF6H (235PS) | PE8 (295PS) | |
軸距 | 4670mm | U20H | U35H | U30H | |||||
4720mm | P-U33K | ||||||||
4760mm | K-U36K | K-U31K | P-U32K | ||||||
5100mm | K-U36L | K-U31L | P-U32L | ||||||
5200mm | U20L | U35L | U30L | ||||||
5240mm | P-U33L | P-UA50L | |||||||
5500mm | K-U36N | K-U31N | P-U32N | ||||||
5550mm | P-U33N | ||||||||
5600mm | U20N | U35N | U30N | ||||||
6500mm | P-UA50T | ||||||||
備考 | 紫文字=直噴エンジン U35は1976〜80年。U36は1980〜82年がK-U36、1982〜83年がN-U36。 エアサスはUA(例:UA30N)(U35,U36にはエアサス設定なし,P-UA50はエアサスのみ) |
サンデン交通 日産デUA20L(1975年式)
撮影:下関駅(1980.4.1)
関東バス 日産デK-U31LA(1982年式)
撮影:吉祥寺駅(1985.1.15)
日産ディーゼルU系は、1973年より発売された日産ディーゼル工業の標準的路線バスです。これまでの2サイクルエンジン車4R系と4サイクルエンジン車PRを統合の上、整理しました。横倒しエンジンにしたため、車内を有効に利用でき、低床化も進みました。
数字部分は出力の違いを表し、末尾の記号は長さを表します。末尾の記号で長さを表すのは、三菱B8に次ぐ表現方法ですが、次第にバスの型式の標準的構成になってゆきます。
ボディの組み合わせ・・・富士、西工、北村
日産デ UA 1990-2005
表4-2-9 日産デ UA
年式 | 1990-1995 | 1995-2000 | ||||
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原動機型式 (出力) | PF6 (230PS) | PE8 (295PS) | PF8 (340PS) | PG6 (230PS) | PF8 (310PS) | |
軸距 | 4720mm | U-UA440HSN U-UA440HAN | KC-UA460HSN KC-UA460HAN | |||
5240mm | U-UA440LSN U-UA440LAN | UA510LAN | KC-UA460LSN KC-UA460LAN | KC-UA521LAN | ||
5550mm | U-UA440NSN U-UA440NAN | KC-UA460NSN KC-UA460NAN | KC-UA521NAN | |||
6000mm | U-UA520RAN | KC-UA521RAN | ||||
6500mm | U-UA510TAN | U-UA520TAN | KC-UA521TAN | |||
備考 | 紫文字=直噴エンジン リーフサス=末尾の記号3文字の中央がS、エアサス=末尾の記号3文字の中央がA 2000年にKL-にモデルチェンジ以降は省略 |
平成元年排ガス規制に対応して、これまでのU系をモデルチェンジしたのがUAです。型式の付け方も変わり、これまではエアサスがUAを名乗っていましたが、それとはまったく異なり、すべてがUAとなり、エアサスは末尾の記号の中で区別しています。ただし、バリエーション展開はU33をほぼ踏襲しています。
標準出力のUA400系列は一般路線用に横倒しエンジンを継続採用。高出力のUA500系列は中距離路線用などにV8エンジンを縦置きしています。
この時期、路線バスではワンステップやノンステップの設定もありました。2000年に平成11年排ガス規制対応のKL-UA452にモデルチェンジされた後、2005年には後継のスペースランナーRAにその道を譲りました。
広島バス 日産デU-UA440HSN(1991年式)
撮影:広島駅(2016.5.29)
近江鉄道 日産デU-UA440LSN(1995年式)
撮影:近江八幡駅(2015.8.29)
路線バス用の低出力シャーシであるUA440は、基本的にU33のバリエーション展開を踏襲しており、短尺〜標準尺でリーフサスとエアサスがあります。
U33との外観上の見分けは難しいですが、右側面後部のエンジン通気孔の隅のRが小さくなり、角張った点は異なります。
ボディは富士重工の7Eタイプが標準です。
新潟交通西 日産デU-UA510LAN(1992年式)
撮影:樋口一史様(潟東営業所 2004.5.8)
中距離バスや貸切兼用車向けなどの高出力シャーシであるUA510は、UA50を引き継ぐ長尺、エアサス車で、観光バスと同じV8エンジンを縦置きしています。
ボディは富士重工の7Bタイプが標準です。
ボディの組み合わせ・・・富士、西工
日産ディーゼル車の系譜
- 1935(昭和10)年 日本デイゼル工業創立
- 1942(昭和17)年 鐘淵デイゼル工業と改称
- 1946(昭和21)年 民生産業と改称
- 1950(昭和25)年 民生産業から民生デイゼル工業として独立
- 1953(昭和28)年 日産自動車が資本参加
- 1960(昭和35)年 日産ディーゼル工業と改称
- 1999(平成11)年 フランスのルノーが資本参加
- 2005(平成17)年 筆頭株主がルノーから日産自動車へ
- 2006(平成18)年 ボルボ社が資本参加
- 2007(平成19)年 三菱ふそうとのOEM供給開始
- 2009(平成21)年 三菱ふそうとバス事業に関する合弁会社設立に向けた協議開始の覚書締結
- 2010(平成22)年 UDトラックスに改称
三菱ふそうとの合弁会社設立協議打ち切り、OEM供給終了。事実上バス製造から撤退。
日産ディーゼルについて詳しい本
日産ディーゼルについて詳しく記載した書籍をご紹介します。「バスラマスペシャル」のNo.11として2012年に発刊された「UDマークのバス達」で、1947年から始まり、バス製造を中止した2010年までの63年間の生い立ちを、カタログや年表などから詳しく振り返っています。
各型式の詳細も記述されています。