レールバスの保存車
レールバスというのは小型の気動車で、鉄道車両でありながらバスのような小型の車両ということでこのように呼ばれています。レールバスは1950年代に国鉄が導入し、その後1960年代と1980年代に富士重工業が更にバスに近いスタイルのものを製造しています。いずれも閑散線の少量輸送のために作られましたが、逆にその特性が仇となり、鉄道車両としては比較的早く廃車になっています。ここでは、そんなレールバスの保存車を並べることで、その歴史を辿ってみます。
(このページは、製造年順を基本に並べてあります)
保存車(準鉄道記念物)
撮影:小樽市総合博物館(2023.6.10)
日本国有鉄道 キハ03形(1号)
国鉄が導入したレールバスのうちの唯一の保存車両。この車両は中でも末期の1956年製。廃車後の1967年に準鉄道記念物に指定されています。
国鉄のレールバスは閑散路線用に東急車輛で製造され、車幅は一般車両に合わせているものの、高さなどはバスの基準を準用したため平べったい印象を受けます。エンジンなどもバス用部品を使用しています。
効率化を目的に製造されたものの、混雑時間帯には重連運転が必要になるなど非効率な点もあり、また小型車ゆえ耐用年数が短く10年程度で廃車になってしまいました。
動態保存車
撮影:牧場主様(七戸 2008.5.3)
南部縦貫鉄道 キハ10形(101号)
1962年の開業時に2両が用意された富士重工製の機械式気動車。全国的にも珍しいレールバスで、当時の富士重工製のR11型バスボディとほとんど同じ構造・スタイルをしています。エンジンは日野自動車製で、同年式のBT10型バスなどに使われていたものと同じです。
輸送量の小さい私鉄用に低コストで導入できるというメリットがあったものの、最大需要に対応できないデメリットのほうが大きく、普及しませんでした。
現在愛好会により2両とも動態保存され、定期的に運転会などが行われています。
保存車
撮影:根尾川鉄道文化村(2009.2.8)
樽見鉄道 ハイモ180-202
1984年に2例目の第三セクター鉄道として開業した樽見鉄道に導入されたレールバス。富士重工製LE-Carの量産車で、サンプル車に最も近い外観をしており、正面は非貫通で富士重工の5B型バスと同じ傾斜窓、側面はカーブドガラスを用いています。
ハイモはハイスピードモーターカーの略、180は機関出力を示します。
廃車後、樽見鉄道を守る会に譲渡され、2008年より保存場所を得ています。
動態保存車
撮影:有田川鉄道公園(2010.7.10)
有田鉄道 ハイモ180-101
樽見鉄道から有田鉄道に譲渡されたレールバスで、2002年の廃線後も保管されていましたが、2010年に開園した有田川鉄道公園で動態保存されています。
樽見鉄道の保存車とは同形ですが、番台が異なり、こちらの100番台は一方固定のクロスシート、樽見の200番台はロングシートです。
保存車
撮影:長谷川竜様(くりはら田園鉄道公園 2014.10.4)
くりはら田園鉄道 KD10形(11号)
名古屋鉄道が1984年に八百津線の合理化用に導入したレールバス。樽見鉄道と同じ富士重工LE-Carですが、細部は異なります。正面はサンプル車の片エンドと同じ貫通式で、側面の窓は路線バスタイプになっています。
電鉄会社が合理化のため電気設備を撤去してまで導入したレールバスとして話題にはなりましたが、小型車ゆえ輸送量や乗り心地に問題があり、ボギー車に置き換えられました。
このうち2両を、同じく電気設備を撤去してディーゼル化したくりはら田園鉄道が1995年に譲受しました。しかしこのくりはら田園鉄道も2007年に廃止となり、現在その2両ともが旧若柳駅跡にある「くりでんミュージアム」で保存されています。
廃車体
撮影:加西市(2009.3.1)
三木鉄道 ミキ180-101
1985年に第三セクターの三木鉄道の開業と同時に導入されたLE-Carで、正面スタイルは路線バスの5Eタイプと同じ。側窓も路線バスタイプです。
形式は、会社名と出力から付けられています。
廃車後、ラーメン屋さんに引き取られ、駐車場で鎮座していましたが、現在では経営者も変わり、放置された倉庫として手つかずの状態です。
動態保存車
撮影:有田川鉄道公園(2018.7.31)
紀州鉄道 キテツ-1形(1号)
北条鉄道フラワ1985-2を2000年に紀州鉄道が譲り受けたもので、2017年に廃車になって有田川鉄道公園に無償譲渡されました。北条鉄道時代の面影を残した塗り分けとなっています。
元有田鉄道のレールバスとともに、時間を決めて構内運転をしています。
保存車
撮影:加西市(2009.3.1)
北条鉄道 フラワ1985-3
1985年に第三セクターの北条鉄道の開業と同時に導入されたもの。お隣の三木鉄道ミキ180形とはよく似たスタイルですが、こちらは側面が観光バスタイプのカーブドガラスとなっています。
フラワは地元の加西市の観光施設「フラワーセンター」から、1985は導入年から取った形式です。
廃車後、加西市内の自動車工場で保存されています。バイオディーゼルの試験にも使用されたとの話です。
森の列車カフェ
撮影:山岡駅(2017.3.25)
明智鉄道 アケチ1形(1号)
撮影:山岡駅(2017.3.25)
1985年に第三セクターの明智鉄道開業とともに導入された車両で、LE-Carながらボギー車となりました。側面は引き違い窓ですが、カーブドガラスではなくなっています。また、正面スタイルは合理的な平妻貫通型になりました。冷房はありません。
この辺りから輸送量や乗り心地の問題からボギー車中心の増備に変わってゆきます。それでも全体的にはバスの雰囲気を残しており、部品の共通性も高いので、ここではレールバスに含めて取り上げます。
2016年4月に「森の列車カフェ」としてオープン。名産の寒天を使ったスイーツなどが楽しめるカフェに生まれ変わりました。外装はそのままで、車内は片方の側のクロスシートはそのままに、もう一方を木のカウンター席にしています。
保存車
撮影:愛知県(2023.9.9)
長良川鉄道 ナガラ1形(10号)
1986年に長良川鉄道が導入したボギー車で、前面が非貫通の1枚窓になるなど、合理的な造りになりました。
開業10周年の際に沿線自治体のイラストが入れられました。2014年に廃車になった後、しばらく留置されていたものを個人が引き取り、現在の場所に安置されています。
保存車
撮影:旅男K様(朝倉市 2010.1.10)
甘木鉄道 AR100形(104号)
1986年に第三セクター甘木鉄道開業とともに導入されたボギー車。正面非貫通で乗務員扉を持たない点などは長良川鉄道の車両と共通しています。
廃車後はこの1両だけ地元の保育園の敷地内に保存されました。鉄骨の屋根がかけられ、表示部分なども現役時代そのままに保存されています。正面に描かれているのは甘木鉄道のキャラクターのレビット君。
保存車(休憩所)
撮影:茂原市(2018.11.22)
いすみ鉄道 いすみ200形(202号)
撮影:茂原市(2018.11.22)
1988年に千葉県のいすみ鉄道が購入したボギー車で、いすみ100形として登場しましたが、ロングシート化によりいすみ200形に改番したもの。
2015年に廃車になり、製菓工場あられちゃん家の千葉工場直売店に、展示されました。
休憩所兼飲食スペースとして車内が開放されており、長いロングシートが生かされています。
保存車
撮影:栗原大輔様(ポッポの丘 2012.3.14)
いすみ鉄道 いすみ200形(204号)
1988年に千葉県に開業した第三セクター転換鉄道に導入されたボギー車で、7両が導入されたうちの1両。当初はいすみ100形でしたが、セミクロスシートをロングシート化した際に改番されました。
県花である菜の花の黄色を基調にしたデザインです。
2010年に廃車の後ここに引き取られ、北陸鉄道のモハ3752号などとともに置かれています。
保存車
撮影:とたT様(木更津市 2024.8.2)
いすみ鉄道 いすみ200形(206号)
千葉県の「龍宮城スパホテル三日月・龍宮亭」が2024年7月より開設した千葉県鉄道会社コラボによる「鉄道/バスルーム」(5室)と同時にメインエントランスに置かれたいすみ鉄道のボギー車。「龍宮城駅」と名付けられています。
保存車
撮影:大間々駅(2016.5.21)
わたらせ渓谷鉄道 わ89-203
1989年に第三セクターのわたらせ渓谷鉄道開業と同時に導入された車両で、正面貫通扉付き、運転席側面に乗務員扉がつくなど、明智鉄道の車両とよく似ていますが、前照灯は角型になっています。
2013年に引退する前に登場時のツートンカラーに戻され、その姿で静態保存されました。
形式は会社名と年式を示し、同形式のうち200番台はクロスシート車です。
なお、2015年にLE-DCのわ89-302が保存車に加わっています。
過去の保存車
保存車
撮影:近江鉄道ミュージアム(2008.9.23)
近江鉄道 LE10形(13号)
電化私鉄である近江鉄道が末端区間の運行合理化のため1986年に5両を導入したレールバスのうちの1両が保存されています。二軸車としては最後になったLE-Carです。導入の経緯は名古屋鉄道とよく似ていて、結局輸送力不足から10年以内に置き換えられてしまったあたりもレールバスの典型的宿命を全うしてしまったと言えるでしょう。
(2012年に解体されたそうです)
保存車
撮影:関市中池公園(2008.5.4)
長良川鉄道 ナガラ1形(9号)
1986年に第三セクターの長良川鉄道開業とともに導入された車両で、ボギー車になると同時に、正面が平妻の非貫通スタイルになるなど合理的な作りに変わっています。ヘッドライトの形状もこの車両辺りから変わり、だいぶ鉄道車両らしい顔立ちになりました。
(撤去済み)
参考文献
- 千葉雄一(1996)「わたらせ渓谷鉄道」(鉄道ピクトリアル96-4増)174-177
- 岡田誠一(2000)「国鉄レールバスその生涯」ネコパブリッシング
- 高田圭(2000)「近江鉄道」(鉄道ピクトリアル00-5増)44-55