リアエンジンバス
戦後のバスの歴史というのは、リアエンジンバスの歴史であると言っても過言ではないでしょう。しかし、その割にはリアエンジンバスの保存車というのは多くはありません。ただ、幸いにも、日本初のリアエンジンバスである「ふじ号」から始まって、各時代を代表する数台が今も保存されており、その歴史をたどることが出来ます。
また、2000年代に入り、バス事業者が徐々に車両保存を進めており、その数も増えつつあります。
動態保存車(3軸車)
撮影:畦道ノスタルヂィ様(旭川市 2023.10.2)
旭川電気軌道 三菱MR430(1963年式)
1960年代の高度成長期に導入された3軸の大型路線バスを自社でレストアし、2023年に再デビューさせたもの。
ラッシュバスと呼ばれる全長約12m、定員110人のバスは、時代の生き証人として貴重です。
また、バス事業者自身がレストアから動態保存までを行うことにも敬意を表します。
保存車
撮影:旧南大夕張駅(2024.10.11)
美鉄バス 三菱MAR470(1969年式)
撮影:旧南大夕張駅(2024.10.11)
三菱鉱業が貸切バスとして導入し、美鉄バスとして分社後、1985年に廃車になった車両。
1998年から個人が保存してきましたが、2002年から「三菱鉱業バス保存会」がレストアを続け、南大夕張駅跡にある「南部列車公園」に保管しています。
同じ敷地内には、三菱大夕張鉄道保存会によるラッセル車や客車も保存されています。
保存車
撮影:富士重工業伊勢崎製作所(2005.3.10)
元東京都交通局 ふじ号(1949年式)
日本のリアエンジンバス第1号。東京都交通局が富士重工(当時富士産業)とともに開発したもので、いすゞBX91型のシャーシ部品や民生KD2型エンジンを使用して、ボディーメーカーの富士重工が完成させました。戦後の国産バスの基礎を築いたと言っても過言ではない車両です。
登場時の塗分けを踏襲しつつもオリジナルのカラーに塗られ、富士重工伊勢崎製作所の正面玄関脇に展示されていましたが、2023年よりスバルビジターセンターで保存されています。
保存車(利用)
撮影:電車とバスの博物館(2023.5.21)
東京急行電鉄 日野RB10(1965年式)
撮影:電車とバスの博物館(2005.1.22)
東急直営の博物館で、バスにさわって学べる実物教材として保存されている車両。1960年代のワンマンカーとしてはどこでも見ることの出来た帝国ボディのRB10です。
様々な機器にさわれるようになっており、後部のエンジン点検蓋はわざわざ窓になっているため、現役時代の形とは異なります。
車番はTA1525、ナンバープレートのレプリカもついています。
保存車(東名ハイウェイバス1号車)
撮影:さくら交通公園(2016.5.14)
元日本国有鉄道 日野RA900P(1969年式)
東名高速道路の開通に伴い、国鉄バスの専用型式車として開発された日野RA900Pが「東名ハイウェイバス第1号車」として、茨城県つくば市に保存されています。
ボディは帝国自動車工業製ですが名神ハイウェイバス専用のRA120Pなどで採用された流線形ボディの流れをくんでいます。シャーシ・ボディとも国鉄バス以外では見られないものでした。
現在は手入れもよく行き届いており、屋外保存車の中では安心できる一台です。
車番は747-9901です。
(注1)
保存車(東名ハイウェイバス1号車)
撮影:京都鉄道博物館(2017.3.25)
元日本国有鉄道 三菱B906R(1969年式)
やはり「東名ハイウェイバス第1号車」として保存されている車両ですが、こちらは三菱車(富士重工製ボディ)。固定窓で最前部の側窓が段落ちしたドリーム号特有の仕様となっています。方向幕にも「ドリーム号東京駅」と書かれています。
車番は744-9901です。
永らく大阪の交通科学博物館に保存されていましたが、閉館に伴い、西日本ジェイアールバスが保管しています。写真は京都鉄道博物館でのイベント展示の際のもの。
カットボディ(利用)
撮影:東武博物館(2011.12.9)
東武鉄道 日野RE120(1972年式)
東武博物館でバスの運転シミュレーターとなっているカットボディ。運転席と前輪部分が残され、天井高のせいか屋根部分もカットされています。元は富士重工のR13型ボディで、正面傾斜窓ながら2枚ガラスが特徴。
運転席に座って、ハンドルを回して運転手気分になれるので、子供たちには人気のようです。
保存車(利用)
撮影:電車とバスの博物館(2023.5.21)
東京急行電鉄 三菱B623B(1976年式)
1976年に運行を開始した「東急コーチ」の初代車両。この車両は、車両そのものよりもシステムとしての意味のある存在。デマンドシステムを日本で初めて採用しました。
車番は1、ナンバーは品川22か1127と現役時代と同じ物が再現されているようです。
博物館でバスの運転シミュレーターとして活用されています。
動態保存車(730車)
撮影:ちょご姉様(那覇市 2009.12.6)
沖縄バス 三菱MP117K(1978年式)
1978年7月30日の沖縄県の通行方式変更、通称「ナナサンマル」の際に大量に新造された車両のうちの生き残り1両を、記念に整備して使用しています。
「ナナサンマル」ではそれまでの右側通行が一斉に左側通行に変わったため、ドアが歩道側に必要なバスはほとんどすべて車両を入れ替える必要がありました。そのときに大量に導入した車両の入れ替えがほとんど終了したため、記念車としての保存に至ったものです。
動態保存車(730車)
撮影:ちょご姉様(那覇市 2009.8.20)
東陽バス 日野RE101(1978年式)
沖縄バス同様「ナナサンマル」時の大量導入車のうちの1両を記念車として保存したもの。
写真は動態保存のための整備が済んで間もないときの姿。新しいウィングマークが誇らしげに取り付けられています。
動態保存車
撮影:小野澤正彦様(敷島営業所 2009.9.27)
山梨交通 いすゞK-CCM410(1980年式)
創立60周年を記念して、一旦廃車後保管していた中型バスを往時のカラーに塗り替えて復活させたもの。当時の標準的な仕様ですが、フォグランプにコーナーランプが併設されているのが特徴です。
社番はC486、登録番号は復活に際してヤマコーの語呂合わせの「805」になっています。
動態保存車
撮影:埼玉県(2006.3.26)
国際興業 いすゞBU04(1980年式)
国際興業から岩手県交通に移ったBU04が国際興業時代の姿に戻され、模型メーカーのトミーテックにより保存されました。
復元整備は2006年で、いすゞBUとしては最終期の現役車であったことが、保存の契機となったようです。同時に模型発売とイベント開催が併せて行なわれています。
写真は復元当時のイベントの際に撮影したものです。2024年に国際興業の手で再整備されました。
昭和のげんぺい号
撮影:藤田智和様(かがわバスまつり会場 2014.4.6)
大川自動車 日野K-RV732P(1981年式)
大川自動車が愛称「ゆきのした」として貸切バスに使用していた車両。乗合格下げ後の2002年に廃車となったものの、2006年に屋島観光周遊バス「昭和のげんぺい号」として復活。その後、動態保存車となり、イベント展示などに顔を出す存在になりました。
動態保存車
撮影:本社営業所(2016.6.11)
士別軌道 日野K-RC301P(1982年式)
現役の営業用バスですが、モノコックボディのバスをかつてのカラーデザインに復刻して使用していることから、動態保存車であると判断させていただきました。
元は和寒町の自家用バスで、正面窓下に方向幕が増設されて、独特の顔つきになっています。2014年にかつてのカラーデザインに塗り替えられました。
動態保存車
撮影:ヒツジさん様(松本市 2010.6.5)
元京都バス 日産デP-UA32L(1984年式)
模型メーカーのトミーテックが2009年から自社工場内で動態保存している元京都バスの車両です。富士重工製の5E型ボディを持つ前後ドア車です。車番は55号。
通常は公開されていませんが、写真はアルピコグループのバスまつりに出展されたときの姿。
保存車
撮影:旅男K様(札幌市交通資料館 2009.5.5)
札幌市交通局 日野P-HU236BA(1987年式)
2004年でバス事業から撤退した札幌市交通局のバス2両が2007年より札幌市交通資料館に展示保存されましたが、その旧塗装の1両。事業撤退時点での最古参車両だったと思われます。局番は東ひ87-41。
日野スケルトンバスの路線タイプとしては初期のスタイルを持つ車両で、このような車種が保存対象となるのも必要なことだと思います。もっとも、入れ替わりに貴重なステンレス車体の「すずかけ」が撤去されてしまったのは残念な話です。
保存車
撮影:鳥屋野交通公園(2012.8.19)
新潟交通 いすゞP-LV314Q(1988年式)
新潟市の北村製作所が最後に製作した大型バスとして、新潟市内の交通公園に保存された通称「なまず号」。独特の傾斜窓と尺の長い外観からそう呼ばれていましたが、正式に(?)認められたようです。
いすゞLVの北村ボディは新潟交通にしかなく、しかし新潟交通には100台もあったという特異な存在です。
保存されたのはG904で、2011年にこのグループ最後の1台として廃車になった車両です。
(注1)
保存車
撮影:日野オートプラザ(2014.3.8)
日光交通 日野U-HU2MMAH(1993年式)
日野が開発したディーゼルエンジンと三相交流機をハイブリッド(複合)させた「HIMRシステム」を搭載した低公害バスの初期市販車。奥日光で「わたすげ号」として使用されていた車両で、2012年に廃車となったものを引き取りました。
外観はメーカー登録車のデザインを復元し、車内はシステムが見学できるように改造されています。
保存車
撮影:旅男K様(札幌市交通資料館 2009.5.5)
札幌市交通局 いすゞU-LV224N(1994年式)
札幌市交通局が1994年より採用した新デザインを施した保存車。正面や側面にシンボルマーク(STマーク)が入ります。局番は東い94-9。
いすゞキュービックバスで、これから10年もすれば懐かしい車種になってしまうと思われます。
動態保存車(3扉車)
撮影:小平市イベント会場(2023.5.21)
関東バス 日産デU-UA440HSN(1995年式)
約30年間にわたって3扉車を導入してきた関東バスが、最後の1台を動態保存車として残しています。
大量輸送時代を今に伝える3扉車ですが、シャーシの日産ディーゼル、ボディの富士重工ともにバス製造から撤退しており、様々な意味で貴重な車両となりました。
保存車
撮影:京王れーるランド(2014.3.8)
京王バス東 日産デKC-RN210CSN(1996年式)
京王が日産ディーゼルと共同開発した7mサイズのワンステップバス。中型バスをベースにした小型バスで、都市近郊のバスの切り札として大量導入されました。
2013年にリニューアルオープンした京王れーるランドで、保存展示されています。運転席に座れるアトラクションとして、子供を連れた家族連れに人気です。
動態保存車(3扉車)
撮影:sakaisuji66613様(西武園ゆうえんちイベント会場 2022.12.11)
西武バス 日産デKC-UA460HSN(1997年式)
西武バスが東京都区内で使用していた3扉車を、創立90周年を記念して、現役当時の内外装に再整備の上保存しました。
この車両は、2009年に系列の近江鉄道に転出したものを再入籍させたもの。
関東バスの保存車とともに、日産ディーゼル、富士重工製の3扉車として、貴重な存在です。
(人物の映り込みを画像修正しています)
保存車
撮影:日本モンキーパーク(2024.6.1)
岐阜乗合自動車 三菱KK-MK25HJ(2004年式)
撮影:日本モンキーパーク(2024.6.1)
2024年3月に愛知県犬山市の日本モンキーパーク内にオープンした「めいてつグループのりもの館(モンキーパーク駅)」に、バスとタクシーが屋外展示されました。
バスは地元の岐阜バスの中型バス三菱エアロミディで、車番は447(岐阜200か447)だったとのこと。
タクシーは名鉄タクシーのトヨタクラウンで、302の車番がそのままです。
なお、屋外保存であること、この車両である必然性がないこと、などから、今後の状況次第では、老朽化による車両代替が行われる可能性があります。
撮影:日本モンキーパーク(2024.6.1)
「モンキーパーク駅」は、有料かつ事前予約制の体験施設で、電車運転シミュレータやバスドライバー体験などが楽しめます。
なお、それらを体験するには、日本モンキーパークの入館料、「モンキーパーク駅」の入館料(事前予約制)、そして運転シミュレータ利用料の3種類の料金が必要です。
過去の保存車
保存車
撮影:札幌市交通資料館(2005.6.19)
札幌市交通局 いすゞBC151P(1959年式)
観光バスのデラックス化にともない登場したステンレスボディ、天窓付きロマンスカー。川崎航空機が最初に製作したステンレスボディで、無塗装でリブのついたボディがアメリカ大陸の長距離バスを連想させます。
札幌市交通局では「すずかけ」と命名され、定期観光バスに1972年まで使用の後、保存されたとのことです。オリジナルのバンパーは下のBR351と同じ形状のものだそうです。
なお、2006年に資料館から撤去されており、解体されたと思われます。
動態保存車
撮影:KOTETSU倶楽部様(福山自動車時計博物館 1998.8)
福山自動車時計博物館 いすゞBR351(1963年式)
撮影:KOTETSU倶楽部様(福山自動車時計博物館 1998.8)
いすゞBRはリアエンジンバスのベストセラーであるBAのターボ付高出力バージョンとして登場したもので、後のBA30と同サイズ。
川崎ボディですが、側窓の下にRがある外観です。元ニコニコバス(後の中国バス)で、現役当時のカラーに復元されています。
なお、シンコー様によると、2007年に劇用車会社へ譲渡されたそうです。