共同運行と共同配車
高速バスなどの共同運行をする中で、統一デザインを導入したのち、それを自社のデザインとして消化することで、似たようなデザインが広がった例も見られます。高速バスを複数社で共同運行する際、車体のカラーデザインも同じにしてしまうというパターンが、1980年代には数多く見られました。これは、1983年に阪急バス(大阪府)と西日本鉄道(福岡県)が大阪〜福岡間の夜行高速バス「ムーンライト号」で確立したパターンです。その後、京浜急行(東京都)、近畿日本鉄道(大阪府)などがこれに続きます。しかし、1社当たりの路線数が増えてくるにつれ、車両運用上の非効率さが目立つようになり、1990年代に入る頃には会社ごとのカラーデザインに回帰し、路線ごとのカラーデザインは減少してゆきました。
そういった過程の中で、かつて路線カラーであったものを、共同運行会社が自社カラーとして維持している例などを取り上げます。
共同運行によるもの
5-01 ムーンライト号 一族
西日本鉄道
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撮影:旅とのりもの様(岡山 2007.9.4)
広島電鉄
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撮影:シンコー様(広島バスセンター 2013.5)
まず、同じ塗り分けなのに色が違う2両のバスをお見せします。西日本鉄道(福岡県)の福岡〜岡山間「ペガサス号」の車両と、広島電鉄(広島県)の高速バスカラーです。全く異なる地域の異なる区間の高速バス車両がなぜ似たようなカラーリングなのでしょう。
西日本鉄道が初めてこのカラーを採用したのは1983年のことで、福岡〜大阪間で運行を開始した夜行高速バス「ムーンライト号」が、共同運行の阪急バス(大阪府)とともにこの色になりました。夜行高速バスの路線共通カラーの考え方を定着させたカラーリングです。
引き続き、1989年運行開始の福岡〜岡山間「ペガサス号」も共同運行の両備バス(岡山県)とともにこのカラーとなりました。
また、1988年に福岡〜広島間で運行を開始した昼行高速バス「ミリオン号」には、茶色の部分をグレーにアレンジしたカラーを採用しました。「ミリオン号」の共同運行会社である広島電鉄は、このカラーを緑色にアレンジし、自社の高速バスカラーにしたのです。
阪急バス(ムーンライト号)
阪急バス・パンフ(1990)
両備バス(ペガサス号)
両備バス・パンフ(1989)
西日本鉄道(ミリオン号)
西日本鉄道・パンフ(1992)
このようにして、共同運行を通じて、同じカラーデザインが3社、カラーバリエーションが1社の合計4社で展開されるという結果になりましたが、現在ではすべてのバス会社から姿を消しています。
5-02 フローラ号 一族
小田急バス
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撮影:世田谷営業所(2016.3.27)
秋田中央交通
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撮影:新宿(2016.3.27)
小田急バス(東京都)と秋田中央交通(秋田県)では、朱色の濃淡の丸と縦ラインを組み合わせたこけしのようなデザインを、高速バスの標準カラーにしています。
両社では、1988年に運行を開始した新宿〜秋田間の夜行高速バス「フローラ号」において、この共通カラーを採用しました。当初は「FLORA」の愛称ロゴを入れていましたが、複数の路線で運用を始めるに伴い、社名ロゴに変わりました。
その後、両社ともに、このデザインに青と緑のパターン展開をしています。
>>6-24 フローラ号のカラーバリエーションへ
5-03 キャメル号一族
日ノ丸自動車
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撮影:倉吉駅(2016.5.28)
日ノ丸自動車(鳥取県)の高速バスは、オレンジ色で鳥取砂丘をイメージした図形が描かれています。現在、同社が運行する東京、岡山、広島、福岡など各路線の車両がこのカラーになっています。
このデザインは、1988年に京浜急行電鉄(東京都)、日本交通(鳥取県)との3社で運行を開始した東京〜鳥取・米子間の「キャメル号」の共通デザイン3種の中の一つでした。
その後、日本交通は自社の高速バスデザインに回帰、京浜急行は「キャメル号」3種のうちの別デザインを自社高速バスデザインとして統一することとなり、このデザインは日ノ丸自動車が引き取った形となりました。
5-04 ラ・メール号一族
徳島バス
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撮影:京都駅(2016.3.5)
瀬戸内運輸
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撮影:大阪駅(2016.5.7)
徳島バス(徳島県)と瀬戸内運輸(愛媛県)の高速バスは、よく似たデザインです。両社とも四国の会社ですが、資本関係はありません。
徳島バスは「エディ号」と名付けられ、その名の由来である渦潮のデザインが描かれています。もともと1989年に京浜急行と共同運行を開始した東京〜徳島間の「エディ号」のデザインでした。
瀬戸内運輸は、やはり1989年に京浜急行と共同運行を開始した東京〜今治間の「パイレーツ号」のデザインで、その名の由来である海賊船が描かれています。また、徳島バスとは、ブルーとエメラルドグリーンの上下が逆になっています。
京浜急行との共同運行関係がもたらした類似デザインが、現在も引き継がれ、かつ両社が各地に向けて運行する高速バスの標準カラーとなっているのです。
>>1-13 瀬戸内グループカラーへ
JR東海バス(ラ・メール号)
JR東海バス・パンフ(1989)
京浜急行(アンカー号)
京浜急行・パンフ(1989)
京浜急行(エディ号)
京浜急行・パンフ(1989)
このカラーパターンは、路線ごとのカラーを展開する会社では当時代表格だった京浜急行電鉄(東京都)が1989年に運行を開始した高速バスに採用したカラーでした。太平洋側を起終点とする路線ということで、海をイメージしたようです。白い波の形とカモメを白く抜いたデザインは秀逸です。
まず最初に、JR東海バス(愛知県)と共同運行する横浜〜名古屋間「ラ・メール号」に採用します。
同年、京浜急行は横浜〜神戸間「アンカー号」にも類似のデザインを採用、これには錨のデザインが加わっています。なお、共同運行会社の阪神電鉄はこのデザインを採用していません。
引き続き、品川〜今治間「パイレーツ号」、品川〜徳島間「エディ号」にも類似デザインを採用しました。なお、京浜急行の「エディ号」は渦潮のデザインが控えめです。
その結果、京浜急行を介して、JR東海バスと瀬戸内運輸、徳島バスの4社が似たようなカラーを採用したことになります。その後、JR東海バスが自社デザインに回帰し、本家の京浜急行も夜行高速バスのデザインを他路線のパターンに統一したため、このデザインパターンの継承は四国の2社のみとなったわけです。
5-05 サンライズ号一族
九州産交バス
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撮影:別府交通センター(2018.10.17)
九州産交バス(熊本県)では、高速バスのデザインを4色の曲線が入るデザインに統一しています。これを自社の高速バス標準カラーと位置づけ、熊本〜京都間「京都号」、熊本〜神戸間「トワイライト神戸号」はじめ、県外、県内各地への路線に採用しています。
近畿日本鉄道(サンライズ号)
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画像:近畿日本鉄道公式パンフレット(1988年)
もともとこのカラーデザインは、1988年に近畿日本鉄道(大阪府)と九州産業交通の共同運行による大阪〜熊本間「サンライズ号」に採用されたものでした。
近鉄はその後、自社カラーを設定し、このカラーからは離脱しています。
5-06 ブルーライト号一族
相模鉄道
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撮影:旅とのりもの様(横浜駅 2008.3.16)
羽後交通
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撮影:旅とのりもの様(横浜駅 2008.3.16)
こちらは、同じカラーの相模鉄道(神奈川県)と羽後交通(秋田県)の横浜〜田沢湖間「レイク&ポート号」です。もっとも、羽後交通のカラーは本来は異なるもので、写真の車両は相模鉄道から羽後交通への移籍により、一時的に同一カラーとなったものです。
ただし、このカラーも例に漏れず別路線に出自を見出すことができます。
近畿日本鉄道(ブルーライト号)
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画像:近畿日本鉄道公式パンフレット(1989年)
近畿日本鉄道と相模鉄道では、1989年に横浜〜大阪間「ブルーライト号」の運行を開始、青の濃淡の曲線と赤い星をデザインしました。
相模鉄道では、同年中に「レイク&ポート号」の運行を開始しますが、これを青1色に変えたデザインを採用したのです。相鉄では、その後、このカラーを自社の夜行高速バスの標準カラーとしており、やはり近鉄と共同で採用したカラーデザインが、近鉄と無関係な路線にも展開されるという事例になりました。
5-7 エメラルド号一族
大分バス
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撮影:京都駅(2017.3.25)
大分バス(大分県)でも、かつて近畿日本鉄道(大阪府)との共通カラーであったデザインを自社カラーとしています。
両社が大阪〜大分間の「エメラルド号」の運行を開始したのは1990年で、エメラルドグリーンに水玉模様をちりばめた爽やかなカラーデザインを採用しました。大分バスでは、1991年に運行を開始した名古屋〜大分間の「ぶんご号」にもこのカラーの車両を使用しています。ちなみに「ぶんご号」は名古屋鉄道(愛知県)などとの共同運行でした。
近畿日本鉄道(エメラルド号)
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画像:近畿日本鉄道公式パンフレット(1990年)
その後、近鉄は自社の統一カラーに変更し、1997年には「エメラルド号」自体が廃止となりました。
さらにその後2011年に、京都・大阪〜大分間の「SORIN号」が運行を開始し、大分バスは自社カラーであるこの色の車両で運行します。「SORIN号」は近鉄などとの共同運行ですが、もちろんこの色を使っているのは大分バスのみです。
なお、2016年に「ぶんご号」が廃止となり、結果的にこのカラーは発祥の路線に近い京都・大阪〜大分間で使用されています。
貸切バスの共通カラー
5-11 外国人専用観光バス
西日本鉄道
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画像:西日本鉄道公式パンフレット(1960年頃)
富山地方鉄道
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撮影:板橋不二男様(室堂 1978.5)
1957年に制定された「外国人専用観光バス」のカラーは、複数の会社に採用されたカラーです。
これは、国際連合に加盟して国際社会への参加に踏み出した日本が、外国人観光客誘致の一環として整備したもの。京浜急行、小田急バス、東京急行電鉄、西武バス、はとバス、国際自動車、日本交通(東京都)など、複数の会社が導入しました。
また、八街観光自動車(千葉県)、富山地方鉄道(富山県)、長崎県交通局(長崎県)では、このカラーを自社の標準カラーにしています(注1)。
5-12 道東バスセンター
くしろバス
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撮影:本社営業所(2016.6.12)
十勝バス
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撮影:本社営業所(2016.6.12)
ひがし北海道観光バス手配センター(通称「道東バスセンター」)は、1970年に北海道の道東地区12社(廃業、統合によりのち10社)が加盟して設立された協同組合で、青と赤の曲線が入る統一カラーを導入しています。
いずれも側面後ろのライン上に「BUS CENTER」の文字が入ります。
阿寒バス
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撮影:美幌営業所(2016.6.12)
阿寒バス(北海道)は、道東バスセンターの基本カラーを採用しながらも、正面のラインのところに、自社のシンボルとしても使用している鶴の飛び立つデザインを入れています。
十勝バス
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撮影:左党89号様(帯広営業所 1999.8.1)
十勝バス(北海道)が都市間バスに使用していたカラーは、道東バスセンターカラーをアレンジしたものでした。
2色のラインの中間にグレーのラインを追加しています。
5-13 ブルーバスグループ
エルム観光
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撮影:左党89号様(大沼公園 2013.11.17)
新星札幌バス
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画像:千歳相互観光バス/新星札幌バスカタログ
ブルーバスグループ(北海道)は北海道の道央地区の貸切バスの営業グループで、最大8社が加盟していました。車体のカラーは青の濃淡のデザインで統一され、「Blue Bus」の文字が入っていました。
エクセルバス、エルム観光、おびうん観光、銀嶺バス、三和交通、新星札幌バス、千歳相互観光バス、美鉄バスの8社がこのカラーでした。
主な参考文献
- 日本バス友の会(1994)「日本のバスカラー名鑑」
- 和田由貴夫(1998)「シティバスのカラーリングを考える」(「年鑑バスラマ1998-1999」P.97〜103)
- 三好好三(2006)「バスの色いろいろ」(「昭和40年代バス浪漫時代」P.124〜125)
- 満田新一郎(2005)「昭和30年代バス黄金時代」
- 満田新一郎(2006)「続昭和30年代バス黄金時代」
- 満田新一郎(2006)「昭和40年代バス浪漫時代」